迷い、悩み、それでも前へ!
シオン・ミッシェル・ヴァイオレット・フィールド参謀長は、忙しい軍務の仕事の合い間を縫って、『時の扉』についての情報収集していた。
それは、公的な記録だけでなく、古い文献や、個人の日記、口碑、昔話、伝説、伝承と呼ばれるものから噂話に近いものまで、少しでも関係がありそうなあらゆるものを含めて情報収集し、まとめあげていた。
結果、どうやら『時の扉』と呼ばれるようになったのは、別の星からやって来たと思われる者が現れたり、その代わりにその周辺で忽然と人が消えたりしたという言伝えから、そう呼ばれるようになったらしいという事だった。
別の星から来たと思われる者は、リゲル・ラナ星には存在しない道具を持っていたり、全く違う暦を述べたり、月がふたつある事に驚いていたりしたという。
そして、『時の扉』というものは、常に同じところで開いたわけではないようだった。
別の星からの者が現れたと思われるのは三回ほどで、一回目は4000年ほど前、スチュアートリア帝国成立前のことになる。
この頃は、大陸全体が戦国時代で小さな国家同士が戦っていたため確かな記録は残っておらず、伝承だけだった。
二回目は、初代フランドル皇帝時代で「勇者バンディアス」が『時の扉』から来た者と遭遇したとの記録が残っていた。
しかし、その場所は帝都周辺だったらしいが、その場所についての詳しい記録は残されていないので、場所の特定はできなかった。
三回目は、第二代トーマスリノア皇帝の時代だった。
その際に『時の扉』が現れたのが、東の『魔の森』周辺だったようで、それであの周辺の森を『魔の森』と呼ぶようになったようだった。
『時の扉』の伝承は、必ず黒魔術師と思われる者たちの暗躍が活発だった時期と重なる。
『時の扉』の出現と黒魔術師たちとに何かしら関係があるのかもしれない。
問題は、別の星からやって来たと思われる者がリゲル・ラナ星に悪い影響をもたらしたのか?
消えた者はその後戻って来たのか?
今後の調査はその点を中心に行う必要がありそうだった。
「以上で報告を終わります」
と、シオン参謀長から報告を受けたアランは言った。
「シオン、よく頑張ってくれた感謝する。ここまで調べたならアレキサンダー先生もご助言をくれるだろう」
「そうですね。先生のご助言も承りたいところです」
アランは、シオンが調べてくれた資料をまとめたものを持って、アレキサンダー先生の元を訪ねた。
1145歳となるGrate Holy Mageのアレキサンダー先生は、ルデ・トロア宮殿の離宮に住んでいた。
スチュアートリア帝国第四代ジェームズ皇帝よりも少し年上のアレキサンダー先生は、帝国神聖力術士養成大学の非常勤講師として時折、新しい生徒たちの神聖力を見極めたり、宮殿で皇帝の相談に乗ったりと、スチュアートリア帝国の頭脳として働いておられる。
長年、帝国の頭脳としてその知識と能力を発揮されて来た先生も1145歳となり、さすがに衰えが見えて来た。
Holy Mageといえども1000歳を超えると老いには勝てなくなる。
それでも、Holy Mage中でも優れた神聖力を持っておられる先生は、1145歳になった今でも常人には負けないだけの体力と気力に満ちておられた。
研究室のような先生の部屋に通されるアランは敬意を持ってアレキサンダー先生に挨拶をした。
「ご無沙汰をしております。アラン・クレオ・ハイデルベルト・レッドリオン、アレキサンダー先生にお知恵を拝借に参りました」
大きな机に向かって本を読んでおられた先生が、本から顔を上げてアランを見て静かに言った。
「お入り、アラン公爵」
「はい」
アレキサンダー先生は、アランのHoly Mageの師匠でもある。
「先生、ご健勝のご様子。喜ばしいです」
「お陰様でな。まだこの星に居られそうじゃよ」
先生は、読みかけの本を閉じて椅子から立ち上がって言った。
「久しぶりじゃからな。まあ、座りなさい」
と、室内にあるソファーを指して座るように促した。
アランは、勧められるままソファーに座った。
アレキサンダー先生は、1000歳を優に超えている老人とは思えぬほど、杖も使わずにスタスタと歩いてテーブルを挟んだアランの向かい側のソファーに座った。
「公爵自らが、わしのところへ来るからには、それなりの問題があるからであろう?」
「はい、先生のお知恵を承りたく参りました」
「そうか。わしも近頃のBlack Mageの活発な動きは気になっているところだ」
「先生のお耳にも届いておられましたか」
「わしも非常勤だが、帝国神聖力術士養成大学に関わっておるからな。生徒たちが市中で事件に関わった報告は受けておる。わしなりに調査させてもみた」
「そうでしたか。先生のご見解をお聞かせいただけますか?」
アランは、アレキサンダー先生も調査されていると知って、すぐにでも先生のご意見を聞きたいと思った。
すると先生は、先にアランに説明を求めた。
「その前に、公爵の話から聞かせてくれないか」
アレキサンダー先生は、アレクサンドル皇帝やウィリアム皇太子のような予知能力とは少し違う、先読みという能力を持っておられる。
予知は未来に起こり得る事象の予想で、それは現在の者の選択により変わるものである。
それに対して先読みは、必ず起こる事を察知する能力である。
但し、予知はかなり長いスパンでの予測になるが先読みは、確定要素から読み取る能力なので、かなり近い未来しか読むことができない。
アレキサンダー先生にとっても、情報は多いほど先読みの能力を発揮することができるのである。
アランは、先生の言葉に従い自分たちが調べていることにつて説明をした。
「はい。数ヶ月前、従弟のウィリアム皇太子が西で不穏な動きがあるとの予知をされたのです。そして、ふたり同時に『魔の森』と『時の扉』の伝説が頭に浮かびまして…、それでシオン参謀長に『時の扉』について調べて貰い、私は『魔の森』に遠征して参りました」
「『時の扉』か…。久しぶりに耳にしたのう」
アレキサンダー先生は、最近のBlack Mage動きについての調査はされていたが、『時の扉』については予測されていなかったようである。
「祖父のジェームズ皇帝が、『時の扉』について、亡くなる少し前に私とウィリアムに話していたのです。祖父も予知の能力に長けておりましたので」
「ジェームズは、わしより12歳年下だったから弟のような存在じゃった。彼は、皇帝になる前から『時の扉』に関心を持っておったな。一時、ふたりで調べたものだ」
「そうだったのですね。それで何かお分かりになりましたか?」
先生は、自分たちが調べたことを、次のようにアラン教えてくれた。
「詳しい公的な資料はなにも無かった。伝承や口伝ばかりじゃったがな。ふたりで出した結論は、別の星とリゲル・ラナが時空を超えて繋がる瞬間があったのではないかという事じゃ」
「宇宙には、無数の星々があるが、それらは光の速さで進んでも、我々の寿命を遥かに超える年数をかけても及ばぬほどの距離があり、決して行き来できるものでは無い。が、それが何らかの現象で時空が歪み、一点で繋がって出来た時間と空間の裂け目。それを『時の扉』と呼んだのではないか?」
「その扉に吸い込まれた者が、こちらの世界に現れたり、こちらの者が吸い込まれて別の星へ行ったりしたのではないか?ということだ」
先生の仮設では、『時の扉』とは、時空を超える扉。
時空を超えて、宇宙の果てと果てにある星を繋ぐ扉ではないかということだ。
しかし、アランは疑問を持った。
「もし、その時空を超える扉があったとして、その扉を潜り、遥か宇宙の果ての別の星に出たとしても、その際に魂と肉体はバラバラにならないのでしょうか?」
すると、先生はアランに答えて言われた。
「おそらく、それが自然の現象で、たまたま人が巻き込まれたのなら、魂と肉体を繋ぐシルバーレイヤーが切れてバラバラになってしまうだろう」
「だが、こちら側の者か、その相手側の者のどちらか、あるいはその両方が魔法を使って助け、または呼び出したのなら、シルバーレイヤーを途切れさせることなく維持することも可能なのかもしれない」
「これはあくまでも仮説じゃがな」
アランは、先生の話を聞いてしばらく試案していた。
そして、この機会にアレキサンダー先生のご意見を承っておこうと、次々と質問を繰り出した。
「もし、維持できなかった場合、その者はどうなるのでしょうか?」
「魂と肉体がバラバラになるということは、死と同じだ。新たな命として生まれ直すことになるのだろう」
「もし、その者がHoly Mageだったら?」
「Holy Mageだったなら、魂に前星の記憶が残っている可能性が高い。生まれ直したとしても、肉体が新たに作られ、人格的には同じ人間として生まれ変わる可能性が高いと推測される」
「シオンが調べた資料によると、別の星からの者が現れたと思われるのは三回ほどで、一回目は4000年ほど前、二回目は、初代フランドル皇帝時代、三回目は、トーマスリノア皇帝の時代だったとのことです」
「私もそのことは、耳にしておる。だが、いずれも同じ星と繋がったのか、別々の星なのかも判明していない」
「もし、こちらの星の魔術師の仕業だとしたら、何のためにそんな事をしたのでしょうか?」
「古代の黒魔術師達の間に、魔王を呼び出すとされる魔術が伝わっているそうじゃ。やつらは、その魔王とやらを呼び出そうとしているのかもしれない」
「えっ?魔王ですか?そんなものが本当に存在するのですか?」
「いや、そんなものは存在しないと、私は思っている。奴らにとって我々Holy Mageは、最大の脅威なのじゃ。奴らが正義だとするなら我々は悪。我々にとっての魔王は、奴らにとっては神なのじゃよ」
「なるほど、我々に対抗できる強大な力を持つ者を呼び出そうとしているわけですね」
「ただ、いずれの時代も、奴らの企みは失敗しているがな。だからこそ、スチュアートリア帝国は、こうして存在し続けておる」
「失敗しているのにも関わらず、なぜ同じことを?」
「彼らは寿命が短い。経験や教訓を子孫に伝えていても数千年も経過すると、それが忘れ去れてしまいインパクトのある事実だけが伝わってしまうのかもしれん」
「そうですね。我々には、先生のような生き字引き的存在がおられても、自分たちで資料を調べるのに労を要しました。今回の教訓は、しっかり記録し保存しなければと思います」
「アラン。今回は、今までよりも厳しいことになるかもしれん」
「なぜですか?」
「以前の黒魔術師たちは、それほど強力な魔法は使えていなかったが、今の黒魔術師達は、Black Mageと言われほどの魔力を使いこなす者もおる。もちろん、Holy Mageには及ばぬが…小さな無毒な針しか持たない虫でも、何万も集まれば大きな獣を倒せる。油断大敵を心してな」
「はい。先生、心します」
アレキサンダー先生は、日頃はとてつもなく優しい。
弟子であるアランにたいしても、他の者に対しても決して命令することはない。
ただ優しく、諭し、己で悟るようにと促すのが先生の指導の仕方だった。
しかし、今日の先生の言葉には強さがある。
「アレキサンダー先生、私は間違わずに進めていますか?」
いつになくアランは、自信なさげに言った。
「アラン、自分自身ではどう思っておる?」
アランは、弱音を側近にも両親にも吐いたことは無い。
そんなアランが、今の自分の気持ちを吐露した。
「常に、自分で自答しながら、帝国のため国民のためと思って進んでいるつもりですが、時々不安になります」
「ただ、がむしゃらに前に進んでいるのですが、もし立ち止まって振り向いた時に、誰も付いて来てくれていないのではないか?間違った道を突き進んでいのではないか?」
「私の知らぬところで、後ろ指を指されているのではないか?と不安になることもあります」
自分をHoly Mageに育ててくれたアレキサンダー先生にだからこそ言えることだった。
すると、アレキサンダー先生は、静かにアランの肩に手を置いて言った。
「アランよ。人は何度生まれ変わろうと、どんなに魂を磨き、立派なHoly Mageなったとしても間違いは犯すのだろう。だが、それを恐れていては前に進めなくなる。もちろん、間違わぬように細心の注意は払うべきだが、それでも間違った時は、それを次に生かせばよい」
「お前は、ひとりでは何もできない者ではなかろう?子供の頃から正しいと思ったことは、ひとりでも行うのがお前であったではないか?」
「それでもお前の周りにはいつも、お前を慕う仲間や友人、忠実な家臣がいたであろう?」
「後ろ指を指す者がいたとしても気にすることは無い。お前が光なら、その者たちは影だ。光には必ず影がつく。それが世の常じゃよ」
アランは、肩に置いた先生の手に自分の手を置き、そして先生の手を両手で握って感謝を述べた。
「先生、ありがとうございました。先生は私の光です」
アランは、アレキサンダー先生に深々と礼をしてその部屋を出た。
アレキサンダー先生の言葉で迷いのとれたアランは、早速行動しようと思った。
やはり、Black Mage達の動きをしっかりと抑えるべきなのだろう。
しかし、何から?どうやって?
今、自分には帝国陸海軍総司令官と執務大臣としての退任を任せられている。
今回の『時の扉』の件は、まだ予知の段階だからと皇帝からも皇太子からも一任されている。
アランは、アレキサンダー先生の言葉を思い出していた。
俺は、子供の頃から正しいと思ったこと、行動すべきと思ったことは、いつでも一人で突っ走るタイプだった。
だが、俺が失敗しそうになったり、誤った方向へ進みそうになったりした時に、いつも声をかけ手を貸してくれたのは友人たちだった。
今回は、自分一人の考えで突っ走るべきではない。
そんな気がする。
まず、このことに関して信頼できるもの達を集めて『時の扉』に関してと、帝国内のBlack Mage達の情報を共有して対策チームを作るべきだと考えた。
まずは、その事について皇帝とウィリアム皇太子と話し合わねばと思った。
アランが、『時の扉』の動きを警戒していた頃…
スチュアートリア帝国が在るスチュア・トロア大陸エードリア海を挟んだアモー・ロンド大陸に、Black Mageが牛耳る国々が次々と生まれていた。
アモー・ロンド大陸には、Holy Mageは存在せず、Black MageとWhite Mageが争っていた。
現在、アモー・ロンド大陸には、おおまかに6つの国が存在したが、利己的な魔法を活用するBlack MageにWhite Mageが迫害されることが多く、多くの|White Mageがアモー・ロンド大陸からスチュア・トロア大陸や他の島々に逃げ出していた。
実は、リリアーナの曾祖母は、アモー・ロンド大陸から逃げて来たWhite Mageだった。
地上での人間の命は、物質的肉体とシルバーレイヤーで繋がることで地上に存在している。
物資的肉体での記憶は脳にされるが、その人そのものの記憶は魂に記録されている。
正しくは、魂に刻まれ魂そのものが成長しているといえる。
魂は霊的なものなので物体のように成長しても大きくなるわけだはない。
宇宙を構成する一部のエルネギー的存在である。
人間が地上で肉体的活動をすることで、肉体が鍛えられ成長するのと同様に、人が考え、思い、悩んだり、悲しんだりすることでもエネルギーが生まれ、その内なるエネルギーが魂を成長させる。
怒りや憎しみのエネルギーは、肉体の外に放出されダークエナジーとなる。
宇宙には、そうしたダークエナジーと、それに対局するライトエナジーの両方が存在している。
ダークエナジーとライトエナジーは常に同量存在し宇宙のバランスが保たれている。
黒魔術は、そうしたダークエナジーをエネルギー源とし、白魔術はライトエナジーをエネルギー源とする。
それぞれのEnergyを最大限に活用することが出来る、黒魔術をBlack Mage、白魔術をWhite Mageと呼ぶようになった。
それに対して、神聖力は、個人の魂に備わっている力なのであり宇宙全体から得られるEnergyなので、魔法とは異を決する。
神聖力をもつHoly Mageは、訓練次第で、ダークエナジーもライトエナジーも使いこなすことができる。
但し、神聖力は、その人の魂に宿る能力なので使える力には個人差がある。
アランは、その全てをアレキサンダー先生から学び身に付けた最強のHoly Mageなのである。




