Black Mageの企み再び?帝国に過る黒い雲
レッドリオン公国内を10日間かけて視察して回ったアランは、父のラファエル大公に、視察内容と現状況分析をして自分の考えを報告しにグランドリオンパレスに戻りマリオン城に登城した。
「領内視察はどうであった?」
ラファエル大公が息子アランの帰城を待っていた。
「はい、概ね平和でした。地方の村々も見て回りましたが、帝都で見たような怪しげな占い師や呪術師の気配は感じられませんでした。また、そうした宗教が流行っているという噂もなかったです」
「それは良かった」
「Black Mageや魔導士たちの間にも父上の伝説の武勇伝が行き渡っているのでしょう。あれだけ何度もやられているのですから、敢えて、父上の統べる領地から侵略することは考えにくいと思われます」
「そうか、それに私には強い手足があるからな」
と、言うと大公の後ろには屈強なひとりの男が控えていた。
その男は、年頃は、ラファエル大公より上に見えるが豊かな赤い髪と、長く赤いひげを蓄えた筋肉質な大男だった。
大男は、野太い声でアランに挨拶した。
「ご無沙汰しております。アラン様」
「おお、久しぶりだな、アイザック」
彼は、ラファエルの使徒のアイザックであった。
そう彼こそが若き日のラファエル大公と死闘を繰り広げ、同時に大公に救われた赤い荒野のライオンの長アイザックだ。
『赤い荒野の闘い』は、魔物にされたアイザックと当時皇太子だったラファエル大公とのスチュアートリア帝国史に残る伝説の闘いである。
Black Mageにより騙されて魔物にされたアイザックとその子供たちを若き日のラファエル大公とアレクサンドル皇帝が救った。
その恩に報いるため、アイザックはラファエル皇太子に忠誠を誓い、ラファエルが皇帝になると同時と彼の使徒となった。
アイザックは、優れた神聖力を持つラファエルの忠実な使徒であり、今では人間に化身することもできる。
長年の働きにより、レッドリオン公国の騎士たちは、アイザックの言葉をラファエル大公の言葉と受け止めてくれるようになっていた。
「アイザックは、私の分身のように動いてくれるので大いに助かっている。彼の子孫のライオン達も「ライオン岩山」でシャバラリオを見張ってくれているので、人間の目だけでは見落としがちな場所の監視も万全なのだ」
ラファエル大公もアイザックには、絶大な信頼を置いているようだった。
「アイザックありがとう。君ら赤いライオン一族のおかげでレッドリオン公国は守られているよ」
アランはアイザックの大きなごいつ手を握って感謝した。
アイザックもアランの手を握り返し、
「いいえ、我々は、ラファエル様とアレクサンドル陛下がいらして下さらなかったら、どうなっていたかわかりません。私の子孫たちも、今のように平和で安全な岩山で暮らすことは出来なかったでしょう。荒れ野と化していた不毛の土地をここまで豊かにして下さり、感謝してもしきれません。私は、ラファエル様に使えられることは喜びであり幸せだと思っております」
と、言った。
Holy Mageと使徒は、魂を同期させた存在なので、基本的には使える使徒は単体なのだが、稀に強力な神聖力を持つHoly Mageは複数の使徒を従えることがある。
ラファエルは、若い頃から当代切ってのHoly Mageと言われていた神聖力の持ち主なので、鷹のトリスタンと、赤いライオンのアイザックの両方を使徒として従えていた。
「どうだ、アラン!私が無敵と呼ばれる秘密は、ふたりの使徒にあるのだよ!」
ラファエル大公は、ちょっとおどけて胸を張って見せた。
それを見ていたトリスタンとアイザックも嬉しそうに笑った。
そして、アイザックが言った。
「アラン様もレッドリオン公国に戻られた際は、私の子孫を使徒にお使い下さい。私の子孫にも、私同様に使徒として使える喜びを与えてやって下さい」
「ありがとう、アイザック!このレッドリオン公国は、そなたたち赤いライオン一族が居てくれるからこそ繫栄できる。その時はよろしく頼む!」
「はい、それまでに優秀なライオンを選出しておきます」
アランは、ふと昨日見たライオン岩山の景色を思い出していた。
「それで、もうひとつ…父上にご相談したいことがあったのです」
「なんだ?」
アランは、ずっと考えていたことを父に相談した。
「東西に広く山脈や川が多いいスチュアートリア帝国を短時間で移動するには、やはり翼を持つ使徒が便利です。ブルーフォレスト辺境伯家のよう竜を使徒にしている者なら問題ありませんが、ほとんどの者は陸路を馬で、海路を船で行くことになります。私のようなHoly Mageなら加速の魔法を使えますが、軍として移動する際には他の者が後から来ることになります」
「そうだな。私がシャバラリオへ行くにもエド・ブロな攻め込む時もプルーフォレスト家の使徒の竜の世話になった」
「ですから、竜を馬のように飼い慣らし、訓練して軍の空の部隊を作ろうと思うのですがどうでしょうか?ゆくゆくは、使徒として従える者も出るかもしれませんが、まずは空軍部隊を作りたいのです」
ラファエル大公は、息子の突然の提案に少し驚いていた。
「それは、良い考えであるが、馬のように訓練が出来る竜なんているのか?辺境伯家の竜は代々、使徒として使えて来た金鱗(竜の一族の子孫だが、他にそんな一族など聞いたことないぞ」
確かに、プルーフォレスト辺境伯の使徒の竜クレイヴに度々助けられたので、竜の有用性はラファエル自身も痛感していた。
「昨日、レッドリオン公国の北の森の中まで偵察に行ってみたのですが、そこで、孵化したばかりのドラゴンと遭遇したのです。その直前に親と思われるドラゴン達が海の向こうへ飛び去る姿を見ました。おそらくオーブ・アズラ島に生息している種類で、レッドリオン領内の北の森で卵を産んでいるのではないかと推測しております」
「そうか、そんなところにドラゴンの繁殖地があったとはな」
するとアイザックが言った。
「その竜は、鋼竜と呼ばれる鱗が鋼のように固い種類の大型の竜だと思います。その鋼竜の小型亜種が棘竜になります」
「アイザック、竜に詳しいのか?」
「はい、長年隣接した地域でお互いに生きて来た種族同士なので、よく存じております」
意外なアイザックの発言に父子共々驚いたが、確かにこのレッドリオン領の大半が「赤い荒野」と呼ばれていた頃、代々アイザックたち赤いライオン一族が支配していたのだから、この地に一番詳しいのは当然だ。
「そうか、それではアイザックに聞こう。その竜たちは、アランの構想に役立つと思うか?」
主人に問われて使徒のアイザックは少し考えてから答えた。
「鋼竜は美食家なので、子供の頃から餌付けすれば手懐けられるかもしれません」
「そうか、貴重な意見をありがとうアイザック」
アランは、アイザックに礼を言ってから父ラファエル大公に言った。
「父上、帝都に戻ったら竜に詳しいイーサン・バルナバーシュ・ブルーフォレスト先生にもお聞きしてみようと思います」
「そうだな。イーサンは、竜について帝都で一番詳しいだろう」
「アラン。お前の計画が上手く行くことを願っている」
「ありがとうございます。その時は、レッドリオン公国軍にもご協力願います」
「もちろんだ!」
父と息子は、がっしりと手を握り次なる敵への対策を急ごうとしていた。
こうして、アランの今回の父母の元での滞在は終わろうとしていた。
アランの母マリエッタは、久しぶりに公国に戻った息子と、ゆっくり話す時間もとれずがっかりしていた。
「アラン、せっかく公国領内に戻って来ても、ちょっとも宮殿内に居てくれませんでしたね」
「すみません、母上」
「アリーチェの所へも寄ったのでしょう?そんな話もしたかったのにできませんでしたね」
「そうでした。伯母上から母上によろしくと言われていたのを忘れておりました」
「もう、そんなことはアリーチェからの手紙で知っていますけれどね」
マリエッタは、母の余裕で微笑みながら答えた。
「アラン」
母は、愛情の籠った声で息子の名を呼び、両手でアランの両頬に優しく両手で触れながら言った。
「本当に、あなたがラファエルと同じく帝国に命を捧げているのは分かっています。でも、たまには自分のリゲル・ラナでの人生も楽しんで下さいね」
「ありがとうございます母上。でも、私は今が充実していて楽しいのです」
「そうですか、それならそれで良いです。アリーチェと『当分、孫の顔は見られそうもないわね』と言っています」
と、意味ありげに笑う母に向かいアランは言った。
「伯母上にもお願いしたのですが、孫の前に我々の弟をお願いします」
「あら、妹は駄目なの?」
「え、妹ですか?それは考えてもみませんでした。でも、妹もいいですね。きっと、母上のようなお転婆な娘が生まれて来ますね」
と、アランがいたずらっぽく笑った。
「そこも、ラファエルは気に入って下さってますから、私のチャームポイントです!」
母の夫自慢と愛は揺ぎ無い。
アランは、いつもの事と思いながらも母に聞いてみた。
「父上と母上は、ツインレイですよね?」
マリエッタは、一瞬、うちの息子は何を言い出すのか?というような顔をしたが、すぐに
「ええ、そうだと思っています」
と、答えた。
アランは、なんだかホッとしたように言った。
「やっぱりそうですよね?私は、母上と父上、叔父上と伯母上は、そうなんだと思っていました」
「思っていました?」
マリエッタは、アランの言い方に少し引っ掛るものを感じた。
「実は、先日、伯母上にお会いした際に、伯母上は叔父上とはツインレイではないかもしれないと感じられていると私におっしゃったのです」
「アリーチェがそんなことを?」
「はい、でも、伯母上はお互いを誰よりも尊敬し大切に思われ、お互いを愛されているので、ツインレイであろうとなかろうと関係ないとおっしゃっておられました。だから、私とウィルにもツインレイに拘らず生きて欲しいと言われました」
「そうでしたか…。でも、アリーチェの言うことは正しいと思うわ。私とラファエル陛下は、間違いなくツインレイだと思うけれど、それは本当に幸運でしかありません。そして、それだけに別れがつらいのです。次の星でも会える保証は無いですからね」
「そうですね。ツインレイと、そうではない恋人では何が違うのか私には、まだわかりません」
「そうね。ツインレイ同士だと元々魂がひとつだったからか、お互いに相手が居て自分が存在するという実感が強いのよ。長年連れ添ったご夫婦でも相手に気を使ったり、離れている方が楽だったりすると聞くけれど、私達にはそれはあり得ないわ。意識して気遣わなくても常に相手を思いやっているし、自分の体の一部みたいな存在だから当然よね?」
と、マリエッタは笑った。
「何も言ってないのに、考えていることや感じていることが同じで笑ったり、同じところに行こうとしていたりして笑ったり驚くことも多いわ」
「ツインレイではなくても、仲睦まじいご夫婦は沢山おられると思うけれど、きっとそれなりお互いに尊敬できるところを見つけ認め合い、意識して寄り添う努力をした積み重ねで、愛を育んでいるのだと思うの。でも、私達にはそんな努力は皆無ってところが違いなのかもしれないわね?」
のろけとも聞こえる母の説明を聞いていたアランは、生まれた時から見て来た父母の姿が、夫婦というものだと思っていたので少し驚いていた。
「へえ~、そうなんですね。私は父上と母上しか見てませんから、それが夫婦というものかと思っていたのですが、そちらの方が稀なケースなんですね?」
「そうよ。でも、アリーチェとアレクサンドル皇帝陛下ご夫婦も素敵でしょ?」
「はい。私も息子であるウィルも、ずっとツインレイだとばかり思っていたくらいですから」
マリエッタは聖母のような微笑みでアランを見つめて言った。
「あなたにも良い人が見つかるように願っているわ。例え、ツインレイであってもなくても、人を心から愛せるあなただから、大切にしたいと思った人を心から愛して大切にできると思うもの」
「はい、私もそう願います。それまでは帝国の為に尽くします」
まったく、この息子は!という顔をして母は言った。
「当分は無理そうですね?」
つかの間の母子水入らずの時間を過ごしたアランは、急ぎレッドリオン公国を後にした。
そして、帝都トロアに戻りながら、各地の帝国陸軍基地と海軍基地を回った。
そこで、それぞれの管轄内での魔導士と思われる者たちの、違法な魔術行為が無いか監視するようにとの命令を出した。
1.占いと称して魔術を使い金銭を受け取る者かいる場合は、すぐに捕縛せず監視をつけて随時上に報告するように
2.呪術によるヒーリング行為、治療を行い金銭を受け取る医師かいる場合は、同様に監視をつけて随時上に報告するように
3.Holy Mage、White Mage以外で、帝国魔導士に登録されていない者をリストアップすること
4.魔術葉を使用した紙巻たばこを販売していたり配布したりしている者がいたら、その出所を突き止めて報告し、その者たちを監視すること
5.港の船の出入り、海外からの不法侵入者を厳しく監視して、怪しい者は逮捕することを許可する。 逮捕後は、丁重に対応した上で魔術師かどうか確認すること
魔導士だった場合は、拘束して報告。
魔導士でなかった場合は、国外退去すべきか上層部の判断を仰ぐように
6.少しでも怪しいと思われることは、どんなに細かいことでも上に報告すること
以上、6項目の通達を出した。
特に、海軍に対しては、5番目の内容に加えて海上での怪しい船への対応と、海賊の取り締まり強化を追加した。
おそらくは、別の大陸のBlack Mageが企てている事なのだろう。
だとするなら、可能な限り一斉摘発して一網打尽にしたい。
人数が少ないうちは、泳がせて監視することも可能だが、それが不可能なほど敵やその手下の者が増えていた場合、それも不可能になるだろう。
今は、とりあえずの対策で帝国内の状況を把握するしかなかった。
さらに、ルークを使いに出し、アレクサンドル皇帝陛下へ『各領地を治めている貴族領地内の不穏分子の確認の勅命を出すお願い』をした。
そこには、アランが軍に出した命令と同様のものも含まれていた。
そのアランの願いは直ちに実施され、各領地を治める貴族達へ通達が出された。
それからアランは帝都のルデ・トロア宮殿に戻り、ウィリアム殿下にレッドリオン公国で見聞きしたことを報告した。
特に鋼竜(の話についてと、その竜を使った空軍を作りたいという話については、ブルーフォレスト家のイーサン先生とオースカーも交えてじっくりと話し合った。
いよいよ、再び『赤い荒野』の闘いの時のようなBlack Mageたちの企みが帝国に黒い罠を張ろうとしているのか?
アラン達スチュアートリア帝国とBlack Mage達の闘いが始まるのか?
長く続いた帝国の平和を守るためにHoly Mage達は、知恵を絞り力を合わせて、まだ見えぬ敵に備えるしかなかった。




