「邪悪な魔導士」と「Black Mage」
= レッドリオン公国 =
レッドリオン公国グランドリオンパレス宮殿
マリオン城塞。
スチュアートリア帝国内で唯一自治権を持つ独立国家的レッドリオン公国。
その統治をしているのは、元スチュアートリア帝国第五代皇帝ラファエル帝。
現在は弟のアレクサンドル帝に帝位を譲り、このレッドリオン公国の初代ラファエル・オーエン・ハイデルベルト・スチュアートリア・レッドリオン大公となっている。
まだ、ラファエルが皇帝であった頃から、広大なスチュアートリア帝国にとって、このレッドリオン領は、『赤い荒野の闘い』以降の防衛の要所となっていた。
『赤い荒野の闘い』により、東の隣国と海を挟んだその向こうの大陸の国々の脅威を実感していたラファエル帝にとってレッドリオン公国の成立は悲願でもあった。、
荒野であった『赤い荒野』と呼ばれるその地を、人が暮らしていける土地とするため、治水、開墾、開拓し希望者を入植させ、200年近くの年月を費やし街として成立させた。
また、帝国の防衛の東の拠点なるように領内に防衛基地を作り、帝国軍と連携する公国軍も配備させた。
皇帝を退位後は本格的に東への睨みを利かせ、レッドリオン公国陸海軍は強力になっている。
レッドリオン公国軍の司令官は、もちろんラファエル大公であり、スチュアートリア帝国軍の総司令官は息子のアランという最強のタッグである。
ラファエル大公は、隣国との貿易は積極的行うようにしている。
国土の広いスチュアートリア帝国は、国内だけで需要を賄えるので、特に他国との貿易は必要ない。
しかし、隣国の経済悪化し、国民が苦境に陥る状況こそが戦争の火種になると心得ているので、戦争を未然に防ぐ手立てとして隣国の経済活性化の一翼を担うために防衛を奨励していた。
それゆえに、移民や入植希望者も多く、公国にとっては移民・移民希望者に関する審査が目下最大の課題であった。
しかし、公国でこの問題を食い止めることは、広大なスチュアートリア帝国問題の芽を早い時点で摘み取ることにも繋がる。
大公自らもこの問題に関しては最新の注意を払って取り組んでいるた。
「大公様、アラン様がお戻りです」
レッドリオン大公国宰相がラファエル大公に知らせに来た。
「そうか、執務室に通してくれ」
「御意」
ラファエル大公は、傍に居たマリエッタ大公妃に
「マリーも来るだろ?」
と、目で合図をしたが大公妃は静かに首を振って言った。
「大公陛下が執務室へ通されるということは、公務の大事なお話があるということでしょう?私もアランに早く会いたいのは、もちろんですが、今は遠慮して待ちます」
「そうか、すまないな、いつも慌ただしくて」
「いいえ、あなた様とアランがそうして忙しく頑張って下さっているからこそ、この広い帝国全土が1000年以上戦地になることも無く平和を維持できているのです。これくらいは、私も辛抱しなくては」
「平和維持に関しては私だけではなく、父や祖父の功績でもあるけれどな。では、少しアランとの再会は今しばらく待っていてくれ」
そう言って、ラファエル大公は、アランの待つ執務室へ向った。
執務室では、帝国から神聖力全開で飛んできたアランが待っていた。
「父上、ただ今戻りました」
「ああ、すまないな。辺境領の偵察遠征から戻ったばかりだというのに、西から東の果てまでの大移動ご苦労であった」
「辺境伯領から帝都への帰還途中、トリリノール離宮に立ち寄って皇帝陛下と皇后陛下にお会いして来ました」
「そうか!アレクサンドルもアリーチェも元気だったか?」
「はい。それはもう、お元気そうでしたし、陛下は伯母上の為にトリリノール離宮の庭園を伯母上好みに改める造園指示の最中でおられました」
と、アランはユーモアを込めて語った。
「伯母上にアレックスと私に弟をとお願いして参りました」
アランの言葉にラファエル大公も思わず笑いだした。
「なんだ、アランお前もそんなことを言うようになったか」
と、言う父の言葉にアランも笑顔で
「はい、私も235歳になりましたので」
と、返した。
「そうか、お前が生まれたのは私が255の時だからな。アランも他人事じゃないぞ?そろそろ自分の相手をみつけて、マリーに孫の顔でも見せてやってくれ」
と、父が息子にやり返した。
「私も母上のようなツインレインとの出会いを待ってるんですが、こればかりはなんともなりません」
「そうか、その気持ちは私にもよくわかる」
「それよりも、今は帝国のことが優先です。私の命は帝国に捧げています。リゲル・ラナでの私の魂は帝国とその民に尽くすためのものかもしれないという覚悟です」
「そうか、お前もHoly Mageのとしては、まだまだ若いからな。今は、その覚悟で国と民の為に尽くしてくれ。ただ、くれぐれも自分の命も大切にな」
「はい、父上」
「ところで、アラン。『魔の森』の遠征についてお前から直接報告してくれ」
アランは、父ラファエル大公にウィリアウム殿下が「西のブロッサン国との国境近くで不穏な動き」の予知をきっかけに『魔の森』と『時の扉』の伝説を思い出したことを話した。
そこで、まずは現地を視察しようと、辺境伯の息子のオスカー・エンドリケ・ブルーフォレストと騎士団を連れて偵察遠征に行き、そこで魔術に侵された狼の群れと遭遇したことについて報告した。
「その時に、私もプルーフォレスト辺境伯も、父上と先代のプルーフォレスト辺境伯の『赤い荒野の闘い』を思い出しました。アイザック達に呪術をかけたBlack Mage達は既に、この星で生きてはいないでしょうが、人間は同じような考えを持ちがちですから」
「そうだな。私もお前の話を聞いてBlack Mageの影を感じた」
レッドリオン大公父子は共に同じ不安に駆られていた。
父ラファエル大公が言った。
「私が、皇太子の頃も、皇帝になってからも、常に東と西の国々からの目立った侵略行為はなかった。だが、それは早めにその目を摘んで来たからだ」
「はい、父上の皇帝陛下の伝説となっている『赤い荒野の闘い』も、二回の『エド・ブロ戦争』も、陛下の予知と父上の早い対応があったからこそだと思っております」
「私が皇帝を退位してまで、このレッドリオン公国を作ったのも、東の国々の動きをいち早く察知して対応するためだ。万が一侵略されることになっても、この公国で食い止めれば帝国の被害は少ないだろうと考えたからだ」
「はい、西は今まで通り辺境伯が、帝都は皇帝陛下が、私が西を守れば完璧ですからね」
と、アランが言った。
「私もそれで良いと考えていた。だが、それだけではマズイ時代になって来たのかもしれん」
ラファエル大公は、今回アランを呼び寄せた真の目的に踏み込もうとしていた。
「と、言いますと…」
アランも父の話を真摯に受け止める姿勢でいた。
「スチュアートリア帝国は東西に長く東西にしか隣国が存在しない。だからどうしても防衛に関しては、東西だけを意識しがちだ。そこを敵につかれている気がするのだ」
「確かに、スチュアートリア帝国は東西の隣国への防衛は完璧ですが、南北の海からの侵略には意識が薄いかもしれません」
「お前は、スチュアートリア帝国陸海軍の総司令官でもある。南北の海軍の様子はどうなのだ?」
「そうですね。北は、冬に氷結する港も多いですし、そちらから敵が侵入するのは難しいと考えます。しかし、南は貿易船を狙う海賊との攻防が多くなっています」
「海賊か…漂着者の方はどうだ?」
「基本的には、人道的に支援して然るべき対応をしております」
「そうか、これからは陸路の防衛と共に、海からの侵入者に気をつけて欲しい」
ラファエル大公には、言葉では表現しにくい不安があった。
ここにアレクサンドルがいれば、予知をしたかもしれないとさえ思っていた。
ラファエル大公にも少し未来の予知をする能力はあったが、弟のアレクサンドル皇帝のように遠い未来の予知や具体的な予知をする能力は無かった。
同じHoly Mageでも秀でている能力に差がある。
ラファエル大公は、皇太子時代に当代切っての強大な神聖力を持つ最強のHoly Mageと言われていた。
今でも、あらゆる能力に優れているが、予知に関してだけは弟陛下の方が勝っていた。
アランも父をしのぐすぐれたHoly Mageのとなっていたが、やはり予知能力に関しては、従弟のウィリアム皇太子の方が勝っていた。
「わかりました父上」
「実は、私もここに来る前に、気になる報告をいくつか受けて来たのです」
アランは、帝都での事件について父に相談した。
「それにはBlack Mageか黒魔術師が関係しているようなのか?」
「まだわかりませんが、市中で占い師なる者が呪術で未来の予知を語ったり、傷を癒したり、病を治したりして金銭を得ているとのことでした」
「魔術師がその力で金子を得ることは違法行為だ。すぐに取り締まって拘束しなかったのか?」
「私もその報告を得たのは、西の偵察遠征から戻ってからで、すぐこちらへ向いましたので、指示だけ出して参りました」
「そうか、アランもゆっくり実家滞在している場合ではなさそうだなぁ」
父は少し残念そうであった。ふつうの人間の10倍以上長く生きるHoly Mageのの父子ですら、共に過ごす時間は少なく貴重だった。
父ラファエル大公490歳、息子アランが生まれて235年になる。
アランが53歳の時にこのレッドリオン公国を建国、その2年後に皇帝を退位してここへ移り住んだ。
皇帝時代はもちろん政務に防衛にと忙しく働き、レッドリオン大公になってからは、さらに忙しくなった。
国として成立してから数千年経ち国の組織が成立している広大なスチュアートリア帝国よりも、荒野から建国した大公国を一から国として治めるのは予想以上に大変だった。
ゆえに、アランと共にゆっくり親子水入らずの時間を持つことは難しかった。
父が退位してからは、アランも帝国軍司令官として軍務を取り仕切っていたし執務大臣として帝国の内政にも関わっている。
父子共にスチュアートリア帝国の平和と安定のために日夜励んでいる。
同じ目的、信念を持って励むことも父子の絆を強くしていた。
「ええ。でも、帝都にはウィリアム殿下がおられますので、殿下に報告は上がっていると思います」
「ウィルもお前と同じく200歳を超えたか」
「はい、225歳です。立派に皇太子として政務を執られおります」
「そうか、次期皇帝として頑張っているな。帝都に戻ったら、ウィルと南北の港と防衛の強化について話し合ってくれ」
「はい。わかりました父上」
ラファエルは『赤い荒野の闘い』の為に初めてアムンゼンの港に降り立った時のことを思い出していた。
「港には他国との貿易で異国人が多く行き交うのはもちろんなのだが、それに紛れて帝国内に不法侵入する者も多い。その中に悪意を持った魔術師やBlack Mageが紛れているかもしれないから注意して欲しい」
アランもここへ来る前にリリアーナ達が巻き込まれたレイマーシャロル地区のマルシェでの騒ぎを思い出していた。
今回は、たまたまオスカーが同行しており、Holy Mageのクラスの生徒も居合わせたおかげで大事には至らなった。
しかし、オスカーの話ではブルーフォレスト家のポリアンナが狙われていたのではないかと言う。
地方での事件なら十分あり得るかもしれないが、帝都での事件なのが非常に気になっていた。
「父上、私は異邦人への偏見は持ちたくありませんが、近年になって急に帝国外からの寄留者が増えそのまま居つくケースが増えています。それに伴って不穏な動きが目立つようになって来たのが気になります」
「そうだな。帝国内から世間を騒がす方に先導する者は現れにくい。少なくとも私の統治時代にはなかった。やはり、外部からの侵入者に警戒することだろう」
「はい。今回の事件は、おそらくはBlack Mageと、それにつぐ魔術師が関係しているとしか思えませんので、その辺りを警戒します」
「私の経験からは、そうした奴らと対峙できるのは、Holy MageかWhite Mageしかいない。可能なら、各地域に最低ひとりは、Holy MageかWhite Mageを置きたいところだ」
「そうですね。軍関所属騎士の中にはWhite Mageや魔導士がいますが、彼らは各基地や駐屯地に所属しています。地方によっては、全くいない場所も多いでしょう」
「やはり、Holy MageとWhite Mageの養成は大切だな」
「けれど、Holy Mageの養成には時間がかかりますし、神聖力を持っている者もそう多くはありません。White Mageと魔導士の育成に力を入れることでしょうか?」
「それも将来のためには必要なことだが、今ある戦力をどう効率よく活用するかも大切だ。人が持てる手駒には限りがあるものだからな」
「わかりました。帝都に戻ったらこの件に関してウィルと詰めます」
「頼む。ところで…」
ラファエル大公は、もうひとの気になる案件について息子に尋ねた。
「『時の扉』とやらは見つかったのか?」
「いえ、不穏な動きがあるというウィルの予知の場所が『魔の森』だったので、『時の扉』が頭を過っただけで関係なかったのかもしれません」
「そうか、しかし呪術による魔物化は気になる。450年前の『赤い荒野の魔物』を作ったBlack Mageを思い出すな。誰が何の目的のためなのか?あいつらと、同じくスチュア・トロア進出が目的なのかもしれんな」」
「今回、プルーフォレスト辺境伯の娘のポリアンナ嬢が狙われたことも、なにやら関係があるのかもしれません。その辺りもプルーフォレスト辺境伯とオスカーが探っております」
「そうか、また忙しくなりそうだな」
「はい、父上も東の守りに一層力が入りますね」
レッドリオン大公とその息子スチュアートリア帝国陸海軍総司令官のアランは、帝国と帝国民を守るため食事も取るのを忘れて語り合っていた。
そこへ、息子との再会を我慢していたマリエッタ大公妃が、執務室のドアの外から声をかけた。
「ふたりとも、そろそろ夕食にしましょう。私はもう、お腹ペコペコです」
父と息子もやっと自分たちの空腹に気付いて言った。
「すまん、マリー待たせたな」
「母上、お会いしたかったです」
護衛騎士が開けた扉からマリエッタ大公妃が入って来て息子に抱きついた。
「あら、アラン。また大きくなった?」
「母上、私はもう200歳超えてますから、もう背は伸びませんよ」
と、アランは、自分の首に両手を巻き付けて抱きついて来た母と同じ目線になり、母の顔を覗き込みながら笑顔で言った。
「そう?Holy Mageは成長が遅いと言いますし、まだ成長ししているかも?ですよ」
と、言いながら息子の頬にキスをしたマリエッタ大公妃が言った。
「いやですよ、母上、まだ背が伸びていたら巨人になったしまいますよ」
と、息子も母のキスに応えて、母の頬にキスをした。
「そうね。可愛い息子が巨人はちょっとイヤかも」
ふふふと、笑うマリエッタ大公妃は19歳でアランの母になっている。
傍から見れば、まるで恋人同士の再会にも見えほど若かった。
そこに割って入る父ラファエル490歳。
ふたりの背に手を回しながら言った。
「ふたりとも、腹の虫が鳴っているぞ、食事をとりながら積もる話でもしょうではないか!」
「はいはい」
マリエッタ大公妃は、夫のジェラシーが可愛くて仕方なかった。
「旦那様、参りましょう」
と、ラファエルの腕をとって先にふたりで執務室を出て行った。
そんな両親の後姿を微笑ましく見ながら、後を歩くアランであった。




