「使徒の成長」と「主人たちの不安」
「マエル、ノエルよくやったな!」
クリスは、マエルとノエルを褒めながらふと気づいた。
「マエル、さっき俺の頭の中に話しかけた?」
「はい。あの距離からだと聞こえないかな?と思ったんですが、なんとか伝えたい!!と思って、ボク頑張って、ご主人様に届け~!って思いながら、心の中で叫んだら伝わりました!」
「俺の言葉もしっかり聞こえた?」
「はい!ばっちり聞こえました」
クリスは、嬉しくてマエルを抱き上げて頬ずりした。
マエルは、くすぐったそうにしながら喜んでいた。
その様子を下から羨ましそうに見上げるノエル。
ノエルも、今度、自分もアンナ様に話しかけてみようと決意していた。
クリスは、その様子に気づいてノエルのことも抱き上げた。
「ノエルも頑張ったぞ!」
「ノエルは、目の前の者の思考を操る術が出来るようになったのじゃないか?」
「ほんとうですか!クリス様」
「ああ、アンナにも知らせてあげないとな」
「はい!!」
「アンナもきっと喜ぶぞ」
ノエルも尻尾をピーンと立て、目をキラキラさせて嬉しそうだった。
そこに、助産院からアンナが出て来た。
「なんか久しぶりに出産に立ち会って感動しちゃったわ」
「アンナの機転で、何事もなく無事に生まれて良かったね」
と、クリスがアンナの頑張りを労うように言った。
そして、アンナが生命の誕生に立ち会って感動しているアンナにノエルを渡して、クリスが言った。
「ノエルとマエルが、赤ちゃんのお兄ちゃんとお姉ちゃんを連れて来てくれたんだよ」
「えっ、あの子たちに、どうやってここまで辿りつけたのかとお父さんが驚いてたけど、ノエルが連れて来てくれたの?」
と、腕の中のノエルに向かって言った。
ノエルは嬉しそうにアンナを見上げながら言った。
「はい。屋根の上から野次馬の後ろで泣いてるふたりが見えたんです」
「そうだったのね。看板の緩みもノエルとマエルが見つけてくれていたから、事故にもならなくて良かったわ」
「本当だよ、野次馬の上に落ちていたら、怪我人が出てたかもしれないからね」
「それより、迷子で泣いてた子供たちをノエルとマエルがどうやって連れて来たと思う?」
と、クリスが思わせぶりに言った。
「まさか、人間の言葉で話しかけたとか?」
「でも、普通の人間には猫が鳴いているようにしか聞こえないわよね?」
と、アンナが不思議そうに言うと、
「ボクがあの兄妹の頭の中に、直接話しかけたら聞こえたみたいです」
と、ノエルが得意げに言った。
「アンナが今練習している、マインドコントロールも一部入ってる精神感応の一種の効果じゃない?」
と、クリスが言った。
「そうだわ!私の練習している術の応用だわ。ノエル凄い!!!」
ノエルは、えへへとアンナの腕の中で喉を鳴らしていた。
「マエルも、さっき僕の頭の中に直接話しかけ来たんだよ。あの落ちそうな看板を見つけたのはマエルとノエルで、それをマエルが伝えて来たんだ」
「そうだったのね。マエルとノエルは、ふたりとも私たちが練習中の精神感応術を使って来たってことよね?」
「マエルもノエルも俺たちの能力に応じた力を発揮してくれたことになる。やはり、使徒の能力は、主人次第だったことをふたりが証明してくれたね」
「本当ね。あなた達がもっと色々な能力が使えるようになるように、私たちが頑張らないとだわ」
アンナもクリスも、益々自分たちの使徒が可愛く思えたし、もっと頑張ろうと思いながら、それぞれの使徒の頭を撫でた。
すっかりお昼も回っていたのでふたりは、小さな食堂に入って昼食をとることにした。
ちょうど昼食時が過ぎて店内は客がひき始めた頃だった。
ノエルとマエルにも食事をさせてあげたかったので、店の人に確認することにした。
「あの猫連れて二名、入っても良いですか?できれば猫にも焼き魚と素焼きの肉が欲しいんですが…」
と、クリスが店主らしき人に尋ねてみた。
店の男は、ノエルとマエルをじろりと見たが、全く気にしないように
「いらっしゃいませ。二名様ですね。奥の席かカウンター席のどちらが良いですか?」
と聞いてきた。
「じゃあ、奥の席で」
と、クリスが答えた。
心の中で、ノエルの仕業かな?と思った。
そして、アンナに精神感応術で話しかけてみた。
「アンナ、もしかしてノエルかマエルが店の人に術を使ったのかも?」
「私もそう思ったわ」
アンナも精神感応術で答えて、ふたりは奥の席に座った。
そこは、四人席だったので、アンナとクリスが向かい合って座り、それぞれの主人の横に使徒が座った。
「ノエル~、あなた、また使ったの?」
と、笑いながらアンナがノエルに聞くと
「ボク、にらまれたので、ついつい猫じゃないです。何もいませんよ。って心の中で言っちゃいました、ごめんなさいご主人様」
と、申し訳なさそうにノエルが言った。
「別に、怒ってなんかないから大丈夫よノエル。それよりもノエルの成長ぶりに驚いているのよ」
するとマエルも
「実はボクも、ボクいませんよ。ボクが見えませんように、って願ってみました」
と、言った。
「そうか!ノエルが見えなくても、マエルが見えていたら何か言われてたろうからマエルの術も効いていたのだろう」
とクリスが言った。
使徒の能力は、主人であるHoly Mageの神聖力と同期される。
つまりアンナとクリスの力が、使徒であるノエルとマエルに同期されたのだ。
今回のことでわかったのは、その力を使う必要がある場面になって初めて、その力が発動されるということだ。
だから、使徒と主人は、共に行動し同じ経験値を積む必要があるのだ。
「やっばり、ノエルとマエルを使徒として成長させるには、私達自身が力をつける必要があるのはもちろんだけれど、一緒に色々な経験を積まないとだわ」
「ああ、時々こうして街に出たり、野外での活動の時は連れて参加したりした方が良さそうだね」
主人たちがそんな話していると店主が注文をとりに来た。
「二名様、ご注文は何になさいますか?」
やはり、主人にはノエルとマエルは見えていないらしい。
「じゃあ、僕は店主お勧め定食と、牛のお肉の薄切りを一枚、素焼きで焼いて別皿で下さい。あと、水と搾りたてのフルーツジュースとミルクを一杯ずつお願いします」
「私も同じ定食と、白身魚を一匹素焼きして別皿で下さい。飲み物は、私も同じものを一杯ずつお願いします」
店主は、変な注文をする客だなと思いながら、それでも、にこやかに厨房に去っていた。
「変な注文をする客だな?と思ってたみたいね」
「まぁ、いざとなれば記憶を消す術もあるから」
「でも、あれの術は安易に使っては駄目なんじゃなかった?」
「いや、大量の記憶を消去すると、その人にとって必要な情報まで消してしまう恐れもあるらしいけれど、記憶されたばかり記憶の消去は問題ないらしい」
「まぁ、よほど下手な術師なら危険があるかも?だけどね」
ふたりが、そう笑い合っているところに店主お勧めの定食が運ばれて来た。
「うわぁ、美味しそうなお野菜のサラダだわ、スープもパンの香りもたまらない」
「このグリル肉の肉汁も凄いな」
新鮮で美味しい野菜と食材が自慢の地区だけある。
続いて水とミルクとフルーツジュース、別皿の素焼きの魚と肉が運ばれて来た。
のどがカラカラなノエルとマエルは、身を乗り出していたが店主は全く気付いていなかった。
「ご主人様、お水を頂いても良いですか?」
と、マエルが聞くと
「それと、ミルクと肉もマエルのだよ」
と、クリスが言った。
「ノエルもミルクとお魚を食べてね」
それぞれの主人がマエルとノエルの前にミルクとお皿を置いてあげた。
ふたりの使徒は、自分の好物を前に嬉しそうだった。
主人たちも喉がカラカラだったので、搾りたてのフルーツジュースを飲んだ。
「これはうまい!」
「美味しい~!」
ふたりは、あまりの美味しさに感動した。
「さすが、フレッシュで美味しい果物で定評のある町のフルーツを絞っているだけのことはあるわね」
「ほんとだね」
「帰りに、美味しいフルーツを買って帰らないと」
ふたりは、奥の窓際の席で楽しくランチを堪能していた。
気持ちの良い午後の日差しが差し込んで来ていた。
店内の客は、クリスとアンナのふたりだけになっていた。
開けられた窓から爽やかな風が吹いてきていた。
時々、外を歩いている人の会話もその風に乗って舞い込んで来る。
中には、さっきの妊婦を荷車で運んでいた話をしている人や、古いでかい看板が落下したのに誰も気づかなかった話をしている人の声が聞こえた。
その度に。クリスとアンナは顔を見合わせて笑っていた。
そんな話声の中でなぜか聞き捨てならないような話題を耳にした。
歩きながら話している人たちの話を神聖力を使って聞いたので、細かいことはわからなかったが、どこかの男が、最近様子がおかしいと思っていたら、突然凶暴になって奥さんが困っているらしい。
どうやら、悩みを聞いてくれるという占い師のところで進められた気分が良くなって悩みが減るという巻きたばこを吸うようになってからではないかと。
そんな話を最近よく聞くようになったとか。
その占い師は術も使えて、怪我や病気も直してくれるとかで、高額な金銭を得ている。
そのような話だった。
もっと詳しいことを聞こうとしたが、その人たちは店からかなり離れたところまで歩いて行ってしまい、それ以上は聞くことができなかった。
「クリス、これって問題じゃない?」
「そうだな。巻きたばこの話までは、思い込みの部分もあるかと思えるが…占い師だの、術、しかもヒーリング術を使って金銭を得ているのは完全に違法行為だ」
「その占い師っていうのは、絶対Holy MageやWhite Mageではないわよね?」
「そうだな。たんなる魔術師かBlack Mageだろう」
「でも、Black Mageだとしたら、これは一大事だよ」
「とりあえず、帰って報告しないとだわ」
ふたりは、予定より少し早めに寮に戻ることにした。
途中の果物屋で、旬のフルーツを籠一杯に買って迎えの馬車に乗った。
寮へ帰る馬車の中で、護衛騎士にフルーツを渡しながら、
「本日もありがとうございました。みなさんのおかげで、有意義な休日を過ごすことができました」
と、アンナがお礼を言うと、White Mageの騎士がフルーツを受け取りながら、
「ありがとうございます。おふたりのおかげで、ひとつの命が無事に生まれて来られて良かったですね」
と、言った。
「看板の落下の時は、私の使徒たちを助けて下さってありがとうございました」
「ああ、可愛い子たちが頑張ってましからね。怪我がなくて良かったです。あのまま落下して通行人にでも当たっていたら大事でしたね」
騎士は、主人の膝に抱かれて座っているノエルとマエルを交互に撫でながら言った。
「あの…それと…」
と、クリスが少しトーンを落として先程耳にした「占い師」なる者の噂を聞いた話しをした。
騎士は、少し驚いた様子だったが
「実は、最近、帝都のあちこちの地区で、そんな話を耳にするようになったのです。それで、今、アラン公爵様が色々と動かれているのです」
「では、この一件は既に公爵様のお耳に入っているのですか?」
「おそらくは」
「そうなんですね。それなら心配しなくてもよいのかしら?」
アンナが少しホッとした様子で言った。
騎士は、ふたりの不安を落ち着かせるように言った。
「しかし、今回のことも、上には報告いたします。情報提供ありがとうございます」
クリスとアンナと護衛騎士たちを乗せた馬車は、ミラ・ローズ寮へと戻って行った。




