「使徒」と「マスター」の修行
キース寮長が戻って来たミラ・ローズ宮には、いつも通りの穏やかな朝の時間が流れていた。
キース寮長が留守の間のプリシラ副寮長の頑張りに寮生みんな感謝していた。
が、やはり、キースが居るという安心感がある。
それを一番感じていたのはブリシア副寮長だった。
キースが不在の時も、いつも通りのクールで冷静なブリシア嬢であったが、彼女のふとした表情には、どこか張り詰めた感じが漂っていた。
しかし、今は、以前のような近寄りがたいくらいの研ぎ澄ました雰囲気がなくなり、柔らかい雰囲気が漂うプリシラ副寮長となっていた。
後輩たちも、困ったことがあると、キース寮長と同様にプリシラ副寮長を頼りにした。
特に女の子たちは、女子特有の悩みをプリシラ嬢に相談するようになった。
リリアーナは、入寮の時からお世話になっているので、以前からプリシラに対して良い印象を持っていた。
伯爵令嬢なのに、貴族だから、庶民だからという差別感が全くない素敵な先輩だと思っていた。
キースが戻って来てからは、さらに柔らかい雰囲気になってキラキラして見えた。
「リリアちゃん。キース寮長が戻って来られて良かったね~」
「うん。やっぱり、安心したね」
リリアーナもアイラもキースの復帰を喜んでいた。
「でも、一番、安心しておられるのはブリシア副寮長みたい」
「そうだよね。なんだか以前より雰囲気が柔らかい雰囲気になって、益々きれいになられた気がしない?」
「あ、リリアちゃんもそう思う?私もそう思った!!」
ふたりとも、プリシラの変化に気づいていた。
そこにタイミングよくプリシラとキースが通りかかった。
「おはよう!おふたりさん」
キースがふたりに気づいて声をかけた。
「キース寮長、お帰りなさい」
「ただいま。長らく留守にしてごめんね。また、何かあったらいつでも言って来てね。留守をした分、頑張るから!」
と、キースが言うと横からプリシラが声をかけて来た。
「おはようございます。アイラ嬢、リリアーナ嬢」
「プリシア副寮長、おはようございます」
噂をしていたところなので、ふたりはちょっとドキッとした。
「キース寮長がお留守の間のブリシア副寮長、凄く活躍されてたんですよ」
「そうなのかい?」
「はい!」「はい!」
ふたりは、元気にうなずいた。
「頼りになる人だから安心して長期不在してしまったよ。でも、プリシラには本当に迷惑をかけたと思って反省しているんだ。ちょっとプリシラに甘えすぎちゃったよ」
と、キースはプリシラを気遣いつつ、ちょっとおどけたように言った。
当のプリシラは、もうそんなことはどうでも良いというように
「これから、しつかり挽回して下さいね」
と、言ってさっさと食堂へと歩いて行ってしまった。
なんだか、照れ隠しだったようにも思える。
「そういえば、ふたりもレイマーシャロル地区のマルシェで事件に巻き込まれたんだって?」
キースが二人に尋ねた。
「そうなんです!!」
「びっくりしました!」
「君たちもレッドリオン公国出身なんだよね?僕もご縁がある地域だから機会があったら話そう」
「はい!」
そう言ってキースも食堂へ向って言った。
リリアーナとアイラは、元々、大人っぽい先輩たちだと思っていたが、以前よりさらに大人になった感じがしていた。
そして、Holy Mageって、普通の人より成長が遅いって聞いているけれど、逆に短期間で成長したりもするのかしら?と、思っていた。
さて、そんなリリアーナとアイラも成長すべく頑張らなければならない。
White Mageとして魔術を使おうとしても、物の理をしっかりと理解していなければ、十分に力を発揮することが出来ない。
さらに言えば、HolyMageは、White Mageの力の上にさらに神聖力を加えて最大限に引き出していくものなので、まずは、White Mageとして一人前にならなければならない。
そして、その力を帝国とその民の為に使えるようになるには、幅広い知識も必要となる。
そんなわけで、今日も今日とて、ふたりは授業が終わった放課後も自主練習に励んでいた。
筋力不足で持ち上がらなかった剣も持てるようになったし、肉体強化の魔法と物体操作の魔法で、剣を振る事も出来るようになって来ていた。
しかし、問題はここからである。
剣術とは、敵と対峙した時にわが身を守れるようでなくならない。
HolyMageは、むやみに相手の命を奪うのではなく、最低限の手傷を追わせて捕まえられるだけの能力も必要となる。
剣を振り回せるようになっただけでは先は、まだまだ長い。
さらには、馬に乗っての騎馬戦術は難題である。
ふたりが、剣術の自主練を終えて一息ついていると、茶白猫と黒猫が楽しそうに走り抜けて行った。
「あれ?あの猫たちって…」
と、リリアーナが思っているところに、クリスとアンナがやって来た。
「ふたりとも剣の自主練習?」
と、アンナが声をかけて来た。
「はい!!アンナ先輩!」
リリアーナとアイラは揃って答えた。
リリアーナが
「先日のマルシェでのアンナ先輩のヒーリング術を拝見できてよかったです」
と、言うとアイラも
「クリストファー先輩が泥棒を捕まえるのもカッコよかったです」
と言って、ふたりとも先輩たちに会ったら言おうと思っていたことを言った。
アンナもクリスもちょっと照れたように言った。
「そんなことないわよ。私はポリアンナ嬢のお手伝いをしただけだし」
「俺も、結局スリを逃がしちゃったしね」
「私たちも自分たちの身は、自分で守れるくらいにならないと駄目だなと、話していたんです」
「そうだね。それは大切かもしれない。自分の身を守れなければ他人も守れないからね」
「クリスは、剣術にも柔術にも長けていると思うわよ。私は、ヒーリングの方が得意だけれど、先日のポリアンナ嬢のヒーリング魔法を目の当たりに自分の未熟さを実感しちゃったわ」
「だから、僕たちもこれから自主練さ、お互いに頑張ろう」
と、クリスが言った。
リリアーナは「はい」
と、答えながらさっき通り過ぎた二匹が気になっていた。
「あの、さっき黒と白の猫が二匹通り過ぎて行ったんですけれど…あの子たちって、先輩たちの使徒ですか?」
リリアーナの質問にアンナが答えた。
「そうよ。黒い子が私の使徒のノエル。白い子はクリスの使徒のマエルよ」
「そうなんですね。すごく可愛かったです」
「ありかどう。あの子たちはまだ人間への化身が出来ないの。私たちの神聖力が、まだ不十分なのだろうと思うので、なるべく一緒に過ごして、一緒に経験値をあげて行こうと思って」
「一緒に練習に連れて行くと言ったら、ふたりともおおはしゃぎなの」
と、アンナがおかしそうに言った。
「今度マルシェに行くときには、同行させようと思っているんだ。実際の状況に応じて、こんな時にはこう動くとか学習してくれると思うんだ」
クリスがそう話しているところに、ノエルとマエルが戻って来て足元にお行儀よく座っていた。
そして、交互に言った。
「はじめまして、ぼくマエルです」
「はじめましてノエルです」
そして、仲良くふたり同時にお辞儀をした。
「あら、良く出来ました!」
アンナが褒めると、二匹は嬉しそうに胸を張ってゆらりと尻尾をふった。
「あの、先輩たちはノエルちゃんと、マエルちゃんを使徒にしてどれぐらいになるんですか?」
とリリアーナが尋ねた。
「出会って3年、使徒になって1年くらいかしら?」
「そうだな、それくらいだと思う」
と、アンナとクリスが思い出していると
「私たちのふくろうも3年くらいで、マエルちゃん、ノエルちゃんみたいな使徒になってくれるのかしら?」
と、アイラ言った。
「私たちも森で拾ったふくろうの雛を育てているんですが、その子たちを使徒になってくれたらなと思っているんです」
リリアーナがそういうとふたりの使徒候補にアンナもクリスも興味を持ってくれた。
「あら、ふくろうの使徒なんて素敵ね。ふくろうは森の賢者と言われているくらい賢い鳥ですもんね」
と、アンナが言うと
「そうだね。ふくろうは使い魔としての歴史は長いらしいから、使徒としても有用だろうね。どちらにしても、使徒の能力はその使い手である主人に依存しているから、Mageとしての能力を高めないとだけどね」
と、クリスも言った。
「でも、White Mageでも使い魔を使っている人はいるから、使徒としての訓練はもう始めても良いのかも?」
「ふくろうの巣立ちは、約1か月から2か月と早いらしいしね」
「そうなんですね!!じゃあ、使い魔としての訓練についてアグネス先生に相談してみます」
アイラが嬉しそうに言った。
「それが良いわね。自主練習には私たちも付き合うわよ、ね?ノエル」
と、アンナが言うとノエルは元気に
「はい!!もちろん」と、答えた。
クリスの足元のマエルが
「ぼくも」というようにクリスを見上げているのを感じながらクリスも
「もちろん、僕らも協力するよな?マエル!」
と、いうとマエルも
「はーい!!もちろんです」
と、立ち上がって答えた。
Mageの主人と同じく使徒も経験値が大切となって来る。
主人から離れて単独での仕事も任せることもある。
もちろん、使い手である主人が知らないこと、理解できないことに対して、使徒が対応することは難しい。
使徒によっては、単独の経験で学習することも有り、その経験値は使徒の主人に共有される。
つまり、普段の生活から共に過ごし多くの経験を積む必要がある。
アンナとクリスは、次の休みの日にノエルとマエルを連れて街へ出かけようと考えていた。
もちろん、今度は、ミラ・ローズ宮護衛騎士団のアードラント隊長に迷惑をかけることはしないと心に誓っている。
リリアーナとアイラの使徒のライナスとロザリーは、まだその段階には達していないので大学内での練習となる。
休日の朝、アンナとクリスは、寮長のキースに外出許可書を提出して言った。
「今日は、護衛の方を巻いたりせずに行動します」
と、ふたりが言うと、キースは笑いながら言った。
「君たちも前回のことが、かなり骨身にしみているようだね」
「はい、かなり反省しています」
アンナがノエルを抱いたまま言った。
「今回は、この子たちと訓練を兼ねてなので、自分たちも保護者のつもりで心して行ってきます」
「俺たちもキースのように使徒を使いこなせたらなと思ってるんだ。その為には、自分たちのスキルもそうだけれど、使徒と共に経験値を上げようと思って」
と、クリスも言った。
「君たちの使徒も嬉しそうだしね?」
キースは、腰を下ろしてマエルの目線になり
「気をつけて行ってくるんだよ?」
と、マエルの頭を撫でながら言った。
キースに頭を撫でなられたマエルは嬉しそう返事をした。
「はい!キース様。ボク頑張ります」
「ボクも!!」
と、ノエルもアンナに抱かれながら答えた。
アンナとクリスは、前回行ったレイマーシャロル地区よりも、ミラ・ローズ寮から近いルートドリアナ地区のマルシェに行くことにした。
ルートドリアナ地区は、帝都の中でも下町に近く、のんびりした田舎町である。
レイマーシャロル地区のようにおしゃれな小物や雑貨、衣料品は売っていないが、ルートドリアナ地区の商店街には、地元でとれた美味しい果物や野菜、手作りの工芸品や素朴な温かみのある家具などが売っている。
比較的コンパクトな田舎町なので、ノエルとマエルを連れて歩くのには良いと思われた。
ルートドリアナ地区の郊外で馬車を降り、マエルとノエルを連れて歩くふたり。
今回は、レイマーシャロル地区のように常に人ごみが多く、各所に群衆が出来るような街ではないので、ミラ・ローズ宮の護衛騎士たちは、ふたりからかなり離れて見守っていた。
今回の護衛騎士は3人。
うち、ひとりはWhite Mageであった。
ルートドリアナ地区の校外は、畑や牧場が連なるのどかな田舎町だった。
マエルとノエルは、楽しそうに尻尾をピンと立てて、ふたりの前を歩いていた。
アンナとクリスも自分の使徒たちが楽しそうな姿を見て嬉しくなった。
普通の猫なら、飛んでいる蝶や鳥を見てジャンプしてみたり、這っている虫を見つけて捕まえたりするところだろうが、マエルとノエルは使徒である。
猫としての本能はしつかり封印しつつ主人の先陣を切って歩いていた。
のどかな農村地帯を抜けて街中に入ると、レイマーシャロル地区ほどではないが、小さなマルシェがあった。
この地区は、帝都内でも新鮮な食材が入手できるということで有名である。
特に、野菜や果物は美味しくて新鮮なことで有名なので、各貴族邸の料理長自ら買いに来ることもある。
「今日は、美味しいフルーツ買って帰りたいわね?」
アンナがそう言いながらマルシェに足を踏み入れると、マエルとノエルは塀伝いに屋根に上り、人目を避けながらふたりに付いて行った。
「ここのマルシェは、レイマーシャロルよりもコンパクトだけれど、予想以上に買い物客は多いなぁ」
「調理人にとっては、ここの食材、特に野菜と果物は間違いないものが手に入る事で有名みたいよ」
「露店というより固定店が多いのは、それだけ長年商いをしているってことだし、固定客が多い証拠だろうね」
と、ふたりで話しながら歩いているとクリスの頭の中で声がした。
「ご主人様、ご主人様」
この声は…マエル?
「アンナ、マエルかノエルの声が聞こえる?」
「え?いいえ。何も…」
= アンナには、聞こえてないということは、マエルが俺の脳に直接話しかけているのか… =
クリスはマエルの声に応えた。
「どうした、マエル?」
「ご主人が歩いている少し先の右側の店の看板の釘が緩んでいて、今にも外れて落ちそうになっています」
クリスは、マエルの声が伝えて来たとおり、店舗が並ぶ右側の屋根に視線を上げ、その屋根伝いに店の看板をひとつひとつチェックしてみた。
すると、ある店の屋根の上にマエルとノエルが居て、ココ!とうように看板を下げている金具が錆びて傾いているところを指していた。
見ると、鉄の棒にふたつの金具で止められて下がっている看板が、傾いて下がっていた。
ふたつのうちの一方の金具は錆びて外れかけており、もうひとの金具が看板の重みに耐えて辛うじてぶら下がっている状態だった。
その残っている金具もやはり錆びて脆くなっており、今にも落ちそうにグラグラしていた。
「アンナ、あそこにノエルとマエルが居るの見える?」
「ええ。」
Holy Mageは、身体能力強化により視力を上げることも出来る。
「マエル達がいるところの店の看板を見て」
「あら、今にも落ちそうじゃない!!」
「あの高さだと下からじゃ気づけないのかもしれないけれど、風が吹けば落ちるレベルみたいだ」
「危険だわ。お店の人に知らせてあげた方が良いわね」
と、ふたりが急いでその看板の店まで行こうとしていると、後ろから一台の荷車がガタガタと音を立てて近づいて来た。
両側に店が立ち並ぶこの道は、そう広くない。
ましてや、両側の店舗に買い物客が居るので、荷車が通るにしてはギリギリの幅である。
「すいませーん!どいて!どいて下さい!!」
荷車をひく男が、大声で叫びながら凄い勢いで駆けて来る。
荷車の上にはお腹の大きな女の人が横になってお腹を抱えて苦しそうにしている。
買い物客たちも、気付いた人はすぐに避けて道を開けていたが、それに気付かない人もいる。
そうした人を避けながら荷車は右に左にと揺れ、荷台の女性も揺すぶられてしまい胎児に良い状況には見えなかった。
そんな様子を皆が心配そうに目で追っていると、ちょうどノエルとマエルがいる店の前辺りの石畳の段差で車輪が弾み、勢いよく走っていた荷車が大きく傾いて荷台に乗っていた女性が転がり落ちそうになった。
「あぶない!」
その場に居合わせて目撃した者が全員そう思った。
その瞬間、クリスとアンナは躊躇わず、物体停止の魔法を使いながら駆け寄って荷台を抑えた。
買い物客に紛れて護衛をしていた寮の騎士たちも、居合わせた買い物客のふりをして駆けつけてくれた。
アンナとクリス、3人の護衛騎士人の5人で荷車を立て直してホッとしたその瞬間、その振動で先の看板の錆びた金具が完全に外れた。
その落下しそうになった看板を人知れ必死に押さえているのは、ノエルとマエルだった。
もちろん、ノエルとマエルの力には、クリスとアンナの神聖力が加わっていた。
クリスとアンナがノエルとマエルに注力していることに気づいたWhite Mageの騎士が、周囲の人間に気づかれないように、ノエルとマエルを乗せたままの看板を魔法でゆっくりと下に降ろした。
ノエルとマエルは看板から降りると、人目に付かないように荷車の周りに集まった野次馬の足元の間を抜すり抜けて行った。
一方、2匹の主人のアンナとクリスも、自分の使徒たちの様子を横目で見ながら、野次馬に囲まれていた。
アンナは、ノエルたちが無事に下に降りたのを確認すると、荷車の荷台に乗った。
医師の娘で助産師の見習いのようなこともしていたアンナは、今ではHoly Mageとしてのヒーリング術の勉強中でもある。
荷車を引いていた男は、妊婦の夫だった。
彼が言うには、ふたりで畑仕事をしている最中に急に産気づいたようだった。
アンナは、荷台の上に跪いて妊婦のお腹に手を当てた。
お腹の中の子供の心音は伝わって来るし、もういつでも出て来られる状況だった。
ここで破水してしまうと細菌感染のリスクが非常に高まる。
一刻も早く、助産院へ連れて行くべき状況だった。
アンナは、女性の夫に
「私は助産師の見習いをしていたことがあります。このまま私も一緒に運んで下さい。助産院は近いですか?」
と、聞くとオロオロしていた夫も、助産師というワードを聞いて少し安心したのか
「はい、このマルシェを抜けて少し行った先を曲がってすぐのところです」
と答えた。
「ご主人も荷台に乗って奥さんを励ましてあげてあげて下さい。荷車は私の連れが引きます」
「クリス、私が妊婦さんを見てるので、なるべく揺らさないように急いで運んであげて!」
と、クリスと、一緒に荷車を持ち上げた護衛騎士たち言った。
クリスの神聖力と、White Mage騎士の白魔術で、荷台を固定しながら急ぐという合わせ技で、無事に荷車を助産院へ運んだ。
荷台でオロオロする男の横で、妊婦が破水をしないようにアンナがヒーリング術で抑えていた。
そして、無事に妊婦が助産院へ運び込まれた。
産室には、妊婦の夫である男とアンナも一緒に入った。
それからまもなく、無事に赤ん坊の泣き声が聞こえて来た。
その声を聞いて、クリス達と騎士そこに居合わせた者たち全員がホッとした。
妊婦の夫は、アンナの手をとってお礼を言ってから妻の元に駆け寄った。
そして、一足先に助産院の外に出たクリスの元に、ノエルとマエルが小さな男の子と女の子の兄妹を連れ現れた。
「ご主人様、この子たちさっきのご夫婦の子供だと思います」
と、マエルが言った。
「お母さんとお父さんに畑で待っているように言われたらしいんですが、待ちきれず来ちゃって迷子になっていたようです」
「マルシェの中で泣いていたので、連れて来ました」
と、ノエルが言った。
どうやら、荷車が転倒しかけて大騒ぎしている周囲に兄妹が居たらしいのだが、大人に紛れていたのでお父さんに気づいて貰えなかったようだった。
騎士のひとりが兄妹を助産院の中へ入れてあげると、父親の子供たちの名前を呼ぶ声が聞こえて来た。
荷車が傾いて倒れかけ時、ノエルとマエルは屋根に居た。
その時に、野次馬の後ろで「お父さん!」「お母さん!」と、泣きながら叫んでいる兄妹の様子を屋根の上から見ていたらしい。
落ちかけた看板と共に下に降りてすぐ子供たちの所へ駆け寄って、ここまで連れて来たとのことだ。
「マエル、この子たちに人間の言葉で話したの?」
と、クリスがマエルに聞いた。
「いえ。ボクは猫の声で鳴いて、ついて来て!という仕草をしました」
と、マエルが答えると、ノエルが続けて言った。
「ボクが心の中で、子供たちに『パパとママのところへ連れて行ってあげるから付いて来て』って話しかけたら、伝わったみたいです」
クリスは、ちょっと驚きながらも
「そうか、子供たち驚いてなかった?」
と、言った。
「初めだけ、戸惑ってましたが、それどころじゃなかったようです」
と、ノエルが答えた。
「ノエルは、目の前の者の思考を操る術が出来るようになったのかもしれない。アンナが今、勉強している魔法なんだ。アンナも喜ぶぞ!」
「それにしても、マエルもノエルもよくやったな!主人として嬉しいぞ!」
クリスに褒められて、マエルもノエルも嬉しそうだった。




