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Beyond of Cosmos =星巡りの物語=リゲル・ラナ編  作者: 詩紡まりん
『淀む光と影』 =Mageと呼ばれる者たちの苦悩= リゲル歴4045年

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プリシラ副寮長の「奮闘」と「お怒り」

 キース寮長が不在の間、プリシラ・フローレイン・モントレーヌ副寮長は、非常に頑張っていた。


 寮生の日常生活のお困りごとの相談、寮生の外出や外泊の管理、寮生ではない生徒が都合により寮を利用する際の手配、館内の案内、稀に中途入学する新入生のお世話、逆に休学や中途退学する者への対応。

 特に、大変なのが休学や中途退学する者への対応への対応である。

 もちろん、本当に休・退学への判断や対応は先生方が行うが、その前に相談を受けることになるのは寮長である。

 しかし、今はその寮長は不在。

 となると、その役目は副寮長のプリシラに回って来る。


 キースほどではなくても、プリシラもそれなりに人望はある。

 とはいえ、プリシラ・フローレイン・モントレーヌ嬢は、上級貴族の娘として、蝶よ、花よと育てられていた深層のご令嬢である。

 他人の悩みの全てに対応できるような経験値が全くない。


 プリシラ自身それをよく理解している。

 なので、今回のキース寮長の不在は、自分にとって経験を積む良い機会だとは思っていた。

 が…

 そう思ってはいても慣れないことに四苦八苦していた。


 しかし、プリシラもHoly(ホーリー) Mage( マギ )である。

 魂に刻まれている前星の記憶が彼女に力を与えてくれる。

 初めは、慣れない仕事や対応に苦慮していたが、一ヶ月も経ってしまうと以前のような氷の微笑で対応できるようになっていた。


 魔法の授業で力のコントロールが出来ず、暴走して危うく壁面を破壊しそうになった者が居た時も、近くにいたプリシラが神聖力(ホーリーパワー)で防御したり、新入生が、うっかり大きな植木鉢を破壊してしまった時も、「あらあら、注意あそばせ」と、言いながら物体を元に戻す魔法で、あっという間に元通りにして通り過ぎて行ったりと、調子が戻って来ていた。

 慣れないことで心に余裕が持てない時は、キースの長期不在に不満しかなかったが、余裕が出てくると急に心配になって来ていた。


 いくら、実家で何やら問題があったとしても、一ヶ月も連絡なしに戻らないのはおかしい。

 しかも、あの責任感の強いキース・ウェスリー・インディゴ・ラングレーである。

 一週間、二週間と余裕なく過ごしていたが、三週間目になるとちょっと気になり、

 四週間目にはかなり気になっていた。

 五週間目には心配になり、その週が終わる頃には、心配に不安な気持ちまで混ざって来た。


「もう!キースったら、無責任じゃありませんこと!」

 プリシラの我慢は限界に達していた。

 まず、事実確認をせねばならない。


 本来ならこういう時に、一番に相談するのはキースである。

 そのキースが不在で、相談の内容がキース自身なのだから困ったものである。

「やはり、トゥルリー先生か、マリア先生にご確認するのが筋かしら?」

 と、考えていたプリシラの元にキースの使徒が現れた。


「あら、あなたキースの使徒の鳩さんね。キースはお元気なのかしら?」

 と、心穏やかではない事を隠しつつ、すました調子で言った。


 キースの使徒の鳩は、人間に化身して

「はい。プリシラ様。ご無沙汰申し上げております。キース様からお手紙を預かって参りました。ご覧くださいませ」

 と、キースからの手紙を差し出した。


 プリシラは、伯爵令嬢らしく優雅に受け取って言った。

「お手紙しかと受け取りました。それでキースは、いつ戻って来られるの?お手紙のお返事は、すぐじゃなくてよろしいのかしら?」


 本当は、すぐにでも封を切って読みたいところであるが、手元にペーパーナイフが無い。

 部屋に戻って、ゆっくり読むしかないと思ったが、もし返事が必要な内容だったら…と、内心はドキドキしていた。


「はい。お返事はゆっくりでも大丈夫かと思われます。キース様は、もうしばらくラングレー家にご滞在とのことですので」

「そうなのね。元気でおられるなら良いわ。お手紙を拝見して、必要なら返信を出します。あなたもありがとう」

 プリシラは、少し安心しつつも早く手紙を読みたくて仕方なかった。

 キースの使徒は、丁寧に挨拶をして再び鳩の姿になり飛び去って行った。


 先日、アンナとクリスに出した手紙の返信を受け取ったキースが、慌ててプリシラにも手紙を書いたことを彼女は知らない。


 プリシラは、自室に戻ると、愛用のペーパーナイフで封を切り、キースからの手紙に目を通した。



 ――― 親愛なるプリシラ ――― 


 副寮長の君に、なんの挨拶も無く寮を留守にして申し訳なく思っている。

 頑張り屋の君だから、きっと僕の分も頑張っていることだろう。

 でも、君ならすべてを任せられると思って黙って帰郷してしまったんだ。

 僕の身勝手な想いでごめん。


 実は、実家の母の容態が急変したと連絡があったんだ。

 僕は、戻ることに躊躇もあったのだが結局ラングレー家へ戻ることにした。

 君には言っていなかったが、母は普通の人で僕を産んでからずっと体調が悪く、僕はそれを負い目に感じ続けていた。

 実家に戻って母に会ってしまったら、神聖力(Holy Power)のヒーリングを必要以上に使ってしまうのでないかと、自分の自制心に自信が持てなかった。

 だから、ヒーリングの練習も真面目にやっていなかったし、実家にも帰らないようにしていた。


 僕は、そんな弱い自分が嫌でたまらなかったよ。

 こんな自分がHoly(ホーリー) Mage( マギ )になって良いのかと、いつも悩んでいた。

 でも、その悩みは自分だけじゃない。

 Holy(ホーリー) Mage( マギ )はみんな多かれ少なかれそういう悩みを持って生きているんだよね?

 そんな時、クリスとアンナが僕の背中を押してくれたんだ。

 だから、僕も自分の弱さに立ち向かうつもりで実家に戻った。


 母とは良い時間を過ごせたよ。

 そして、穏やかに次の星へと旅立って行った。

 実家での諸々を片付けたら学校へ戻るつもりだ。

 君には、もうしばらく迷惑をかけてしまうけれど、宜しく頼む。


 ――― 無責任で弱虫な寮長の

 キース・ウェスリー・インディゴ・ラングレー ――― 



 プリシラは、キースからの手紙を読んで泣きたくなった。

 それと同時になぜか怒りがこみあげて来た。


 それは、ひとり思い悩んでいたキースの気持ちに、気づけなかった自分への怒り。

 なぜ、もっと早く自分に打ち明けてくれなかったのかというキースへの怒り。

 そして、何よりも、なぜキースの背中を押したのがクリスとアンナなの?

 なぜ私じゃないの?という怒りだった。


 私は、キースにとって相談に値しない人間だったのかしら?

 4年も一緒に居たのに、私達の信頼関係ってそんなものだったの?


 プリシラは、キースから手紙が来たことで安心すると同時に、別の不安が生まれてしまった。

 ああ…この気持ちをどうすべきなのか…

 そもそも私には何も言ってくれなかったのに、クリスとアンナには話したの?

 それがどうにも納得がいかない!! 

 なぜか許せない!と思ってしまう。

「こんなモヤモヤした気持ちを持っていたら、キースが戻って来るまでに私が爆発してしまうわ!」

 もうプリシラは、いても立ってもいられず、アンナとクリスを捜した。


 ちょうど午後の授業が終わり、それぞれの生徒が自主練習をしたり、図書館で調べ物をしたりと、思い思いに自習勉強をする時間だった。


 ちょうど、アンナがクリスに馬術の練習に付き合ってもらおうと、厩舎に向かっているところへプリシラがやって来た。


「ちょっと、アンナ!クリストファー!よろしいかしら」

 いつも、上品にとりすまいしている冷静な副寮長プリシラにしては、感情的な感じだった。

 アンナとアキラは、すぐにキース寮長のことに違いないと思った。


「ごきげんよう、プリシラ嬢。」

 クリスが、プリシラの機嫌を伺うように言った。

 クリスも貴族の息子なので、それなりに令嬢たちの対応には慣れている。

「ごきげんようクリストファー、アンナ」

「でも、私、今日はちょっとご機嫌斜めですの」

 プリシラは、ふたりへの不満をあらわにしていた。


 もちろん、プリシラも、ふたりへの八つ当たりなのは自分でも理解している。

 でも、この一ヶ月に溜まりに溜まった、モヤモヤした感情をどうコントロールして良いやら自分でも制御不能だった。


 アンナもプリシラのその気持ちはよく理解できた。

 なぜなら、キースがクリスで、プリシラがアンナであったら同じように感じていただろうし、一ヶ月も我慢でなかったろうと思ったからだ。


「プリシラ副寮長、いつも本当にご苦労様です。副寮長がキース寮長不在の穴を埋めて下さっているので、私達寮生は安心して暮らせています。心から感謝致します」

 アンナは、まずプリシラの苦労を労った。

 この言葉は、プリシラのご機嫌をとるわけではなくアンナの本心だった。


「本当にいつも感謝しているよ。もし、僕らに手助けできることがあればいつでも言って下さい」

 クリスも本心から感謝の意を述べた。


 プリシラは、副寮長として当然の責任を果たしたまでだと思っていた。

「副寮長として当然の責務を果たしたまでなので、感謝されることでわないわ」

「それより、あなたたち!!」


 プリシラの語気でアンナとクリスは、これはマズイ!と思いつつ、ふたりでそっとつつき合っていた。


「キースが突然ラングレー家に帰郷した理由を知っていらしたの?」

 と、本筋から切り込まれた。


「えっと、それは…なんというか…」

「たまたま、偶然に…」

 と、ふたりはしどろもどろになっていた。


「キースからの手紙に、あなた達に背中を押されたって書いてありましたの」

 と、言うプリシラの言葉で、キースからの手紙がプリシラへ届いたのだと知り、ふたりは内心ホッとしていた。

 しかし、手紙を出すように促したのが自分たちだとは絶対言えないなと思った。


 クリスは、キースの友人としてプリシラに言った。

「プリシラ嬢。俺たちのマルシェ事件を知ってますか?」

「ええ、寮の護衛騎士団長から報告を受けているわ。ちょっとイタズラ心を出してしまったようだけれど、あの現場でよく対応していたらしいわね」

「寮の護衛騎士団長はそう評価してくれましたが、アンナも俺も、Holy(ホーリー) Mage( マギ )を目指す者としての自覚が足りなかったと反省していたんです」

「その時、たまたまキース寮長と夕食をご一緒させて頂くことになって、落ち込んでいた私達を寮長が励まして下さったんです」

 アンナとクリスは、キースがふたりを励ましてくれた経緯をプリシラに話した。


 そして、キースが、アンナの悩みを自分のことと重ねてくれたこと。

 キースも誰にも言えず、ひとり苦しんでいると、打ち明けてくれたことをプリシラに伝えた。

「キースは、ずっと誰にも言えず一人で苦しんでいたんだよ」

「そのタイミングでお母様のご容態が急変されて、急遽帰郷されたから、私達も、もう大学には戻って来ないのではと心配していたの」

 と、アンナが言った。


「それにしてもです。私に一言も言わず帰郷されて、今頃やっと手紙を送って来るなんて無責任すぎます」

 アンナとクリスが、プリシラにも手紙を出すように書かなかったら、キースはプリシラに手紙を出していたのだろうか?

 とりあえず、プリシラに手紙が届いて良かったとふたりは心から思っていた。


「キースから、手紙が届いたんだね」

「ええ、一応、何も言わずに寮を留守にしたことは申し訳なく思っていると書かれてましたけれど…」

「キースもプリシラ副寮長が居るから安心して、母上や家のことに専念できたんだと思うよ」

「それは、そうかもしれませんけれど、私に少しくらい相談してくれても良かったんじゃなくて?長い付き合いなんですもの」

 プリシラが珍しく拗ねた口調で話すのを聞いたふたりは、彼女が仕事をおしつけられて怒っているのでも、無断での寮長長期不在を怒っているでは無いのだと悟った。

 彼女は、自分にも相談して欲しかったのだろう。


「私にだって、悩みくらいありますのに…」


 伯爵令嬢で両親がHoly(ホーリー) Mage( マギ )である彼女にだって、彼女なりの悩みはある。

 むしろ、一般の貴族の令嬢であれば、四年もの間、学校の寮に寄宿しての生活は耐えがたいものである。

 それを四年間も絶え、副寮長の仕事をこなしているであるから普通の伯爵令嬢とは一味も二味も違う。

 クリスとアンナもそれを十分に理解している。

 決して、キースもプリシラを軽んじているわけでも、相談に値しない者とみなしていたわけではないはず。

 キースは彼の性格上、誰にも自分の弱みを悟られたくなかったのだ。

 それは、クリスにも理解できる男のプライドのようなものである。

 女子のプリシラには度し難い無駄なブライドかもしれないが…。


「悩みなら私で良ければ聞きますので、いつでも相談して下さいね」

「俺も!」

 と、ふたりが言うと

「そういうこと言ってるのではありません!」

 と、プライドの高いプリシラが語気を強めて言った。


 これは、またご危険を損ねてしまった?と、ふたりが困っていると、

「でも、まぁ。キースがあなた達に話したくなった気持ちはわからなくもありませんわ」

「本当に、あなた達は息があったコンビね。何かあったらお手伝い頼むわ」

 と、プリシラの溜飲も下がったようだったので、ふたりは安心した。


 それから、まもなくしてキース寮長は、帝国神聖大寮「ミラ・ローズ宮」へ戻って来た。

 周囲には、実家のラングレー家問題で次期当主としての仕事をするために長期帰郷していたことになっている。

 皆、彼の復帰を喜んでいた。


 ただひとり…。

 副寮長のヘソだけは、しばらく曲がっていた。




♡登場人物紹介♡

プリシラ・フローレイン・モントレーヌ(18歳)

帝国神聖力術士養成大学

Holy(ホーリー) Mage( マギ )クラス4年

学生寮ミラ・ローズ副寮長

モントレーヌ伯爵令嬢

 

挿絵(By みてみん)

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