リリアーナ、アイラ、「先輩」と、呼ばれる
リリアーナとアイラがWhite Mageクラスで勉強に励んでいる頃、西の国境付近まで遠征に出ていたアランが首都トロアに帰還していた。
アランの身を案じていたリリアーナは、そのことを寮の執事ハミルトンから知らされて心からホッしていた。
そして、ふくろうを撫でながら、
「もしこのコが使徒になっていたら、私のお使いとしてレッドリオン公爵邸のアラン様の元へ行ってくれるのだろうに」
と、思っていた。
リリアーナは、森での課外授業で拾ったふくろうの雛に「ライナス」と名付けた。
アイラの方のふくろうは「ロザリー」と名付けられた。
ライナスとロザリーは、あの日亡くなった兄弟姉妹の雛を悼んでいた。
リリアーナとアイラは、一生懸命に二匹の世話をしてコミュニケーションをとり、授業時間以外は常に一緒に過ごしていた。
帝国神聖大の授業では、White Mageに対して「使徒の訓練」や「使い魔」の授業もあった。
『使徒』とWhite Mage自身の魂の一部となり、使徒の能力も思考も主人と同期される。
基本的に使徒を使えるのは、Holy MageとWhite Mageの一部だけであるが、強い魔法を使いこなせる魔導士の一部には、『使い魔』を使う者が存在する。
Black Mageの中には、相手に強い黒魔術の呪詛を用いて魔物化して利用する者もいる。
但し、いずれも主人が使徒を使いこなせず、使徒や使い魔が暴走することもあるので、主人自身のコントロール訓練が必要なのである。
リリアーナとアイラは、魔導士レベルの魔法を使えるようになっていたが、White Mageとしての能力はまだまだ低かった。
ライナスとロザリーも生体として雛の状態で未熟であったので、使い魔としての訓練はできず使徒というよりはペットであった。
それでも、お互いに会話ができ意思が通じるパートナーという存在は、ふたりにとって大きかった。
森での課外授業の時は、使徒の同行も許されていたので、ふたりはライナスとロザリーを連れて行っていた。
何度も雛たちの巣のあった場所にも行ってみたが、この子たちの親鳥の姿はなかった。
二匹にとって悲しい想い出の地ではあるが、故郷でもあるこの森を、お互いにとって楽しい想い出のある地へと記憶を塗り替えてあげたいと考えていた。
それは、彼女たちの生い立ちも関係している。
リリアーナもアイラも子供の頃から、動物と話せる変な子供としと扱われていたし人とのコミュニケーションをとるのが苦手だった。
地元の小学校でも友達が出来ず、リリアーナの方は、ほとんど学校へ行くこともなく不登校になっていた。
アイラの方も追われるように村を出て帝都に来ている。
それは、今でも彼女たちに暗い影を落とす幼き日の記憶だった。
だからこそ、この子たちには、暗い記憶を忘れて欲しい。
楽しい記憶で塗り替えてあげたいと思っていた。
リリアーナとアイラが、いつもの森で課外授業を受けていると、
「ごめんなさーい!遅れました!!」と、
言いながら、アグネス先生の元に駆け寄って来る女子生徒が居た。
サラサラの長い髪をしたブルーの瞳の可愛らしい女生徒だった。
その生徒は、アグネス先生にペコリとお辞儀をしながら言った。
「初めまして!私、ポリアンナ・アイビー・ブルーフォレストです!! 今日からHoly Mageクラスに入ることになりました。宜しくお願い致します」
そうポリアンナに挨拶されたアグネス先生は言った。
「ブルーフォレスト先生から伺っております。辺境伯家のお嬢様ですね。頑張って下さい」
「はい!頑張ります」
そう元気に答えるポリアンナにHoly Mage担当のマリア先生が声をかけた。
「Holy Mageクラス担当のマリア・エバー・グリーンフィールドです。今日からあなたの担当教師のひとりです。よろしくね」
「ポリアンナ・アイビー・ブルーフォレストです!よろしくお願い致します」
「今日は、あなたのHoly Mageとしての力を確認させてちょうだい」
「はい。でも、私はヒーリング能力と剣術には自信がありますが、他は全くなんです」
「そうなんですね。一度アレキサンダー先生と面談して貰いましょう」
「あの有名なアレキサンダー先生とお会いできるなんて光栄です」
「ポリアンナさんは、強い神聖力を持っているようですが、今日は初日なのでWhite Mageクラスの皆さんと一緒にテレキネシスの練習をしてみましょうか」
「わかりました。お願いします」
ポリアンナは、この帝国神聖大学のイーサン・バルナバーシュ・ブルーフォレスト先生の孫であり、ブルーフォレスト辺境伯の娘であり、帝国陸軍のオスカー騎士団長の妹というHoly Mageの名門の血筋である。
しかし、神聖力というのは、その者の前星までの魂の磨き方に左右されるので、名門出身だからと言ってHoly Mageとして優れているとは限らないのである。
ポリアンナは、マリア先生に付き添われWhite Mageクラスの者が修行に励む場所に移動した。
「みなさん、ご紹介します。新入生のポリアンナ・アイビー・ブルーフォレストさんです。Holy Mageクラスに入って貰う前に、しばらWhite Mageクラスで実技を学んで貰いますので仲良くしてあげて下さい」
リリアーナは、自分が一番の下級生だったので仲間が出来ると思い嬉しかった。
帝国神聖大で学ぶようになり、あんなに人見知りで引っ込み思案で、他人とのコミュニケーションが苦手だったリリアーナだったが、今はちょっとだけ自分から話せるのでは無いかと思えた。
それに、今は親友のアイラが居る。
言葉に詰まったりしてもアイラが助けてくれる。
そんな心強さがあった。
リリアーナは、思い切ってポリアンナに声をかけてみた。
「はじめまして、リリアーナ・サーシャ・ホワイトブランチです。まだ、わたしも入学して間も無いんです。宜しくお願いします」
これでも、精一杯の勇気を出して声をかけてみた。
が、ポリアンナはすぐに返事をすることなく黙っていた。
すると、アイラがリリアーナの服の袖を引っ張って横に連れ出し囁いた。
「リリアちゃん!あの人ブルーフォレスト先生のお孫さんで、伯爵令嬢だよ!貴族社会では、身分が下の者から話しかけるのは失礼なのよ」
「あ、そうだった。レッドリオン公爵様のところで付けて頂いた家庭教師の先生に教わったのに、すっかり忘れてたわ」
リリアーナの顔からサッと血の気が引いた。
せっかく、勇気を出して自分の殻を破ろうと思ったのに、逆効果の大失態を犯してしまった。
「どうしよう、アイラちゃん。ここの学校の人は、身分や年齢も関係なく優しくしてくれるので、すっかり忘れていたわ」
と、今にも泣きそうだった。
そこへ、ポリアンナがやって来た。
アイラは、すぐにリリアーナの前に立ってポリアンナに頭を下げて言った。
「ごめんなさい。この子、悪気は無いんです。元々、引っ込み思案な子で、でもそれを直したいと思ってて…だから。ついつい…」
と、アイラが必死に弁解をし、その後ろで深々と頭を下げているリリアーナをじっと見ていた。
「あなたが、リリアーナちゃん!?レッドリオン公国の!!」
そう言いながらポリアンナは、リリアーナに駆け寄った。
リリアーナは、一瞬、戸惑ったが顔をあげて返事をした。
「はい、そうです!!レッドリオン公国から参りました」
すると、ポリアンナはリリアーナの肩を両手で掴んで言った。
「こんなに早く会えるなんて嬉しいわ!!私、あなたに会いたかったの!」
と、言った。
リリアーナとアイラは、呆気に取られて、今まで緊張していた分、腰が抜けそうになって顔を見合わせた。
「先日、アラン公爵様が我がプルーフォレスト城にいらした時に、この神聖大学とリリアーナちゃんのお話を伺ったの。それで私もこの学校に入りたいと思ったのよ」
ポリアンナは、貴族社会の礼儀作法など全く意に介さぬように、ふたりに話しかけて来た。
「以前から祖父に入学を勧められてはいたんだけれど、そんなに必要性も感じていなかったし、興味がなかったの。でも、リリアーナちゃんの話を聞いて興味を持っちゃった」
「それと、先日アラン公爵様たちがいらした時に、自分が辺境伯領を守るの領主の娘としての未熟さと能力を磨く必要性を痛感させられたの」
と、一気にポリアンナは話し出した。
「お父様は、私を帝都に行かせたくなかったみたいだったんだけれど…、おじい様のところへ行くんだから!と説得したのよ」
と、嬉しそうに語るポリアンナにリリアーナも安心して言った。
「ご無礼を申し上げてすみませんでした」
そう言って頭を下げるリリアーナを見てポリアンナは慌てて言った。
「やだ、リリアーナちゃん。そんな、頭を下げないいでちょうだい。私も田舎貴族の娘だから、知らないこともいっぱいよ。色々と教えてね!せんぱい!!」
「あ、リリアーナちゃんじゃなくて、リリアーナ先輩!!そちらの先輩のお名前も伺っても良いかしら?」
と、ポリアンナは、呆気に取られ続けていたアイラに聞いた。
アイラは、すぐに気を持ち直して言った。
「アイラ・アリス・インディゴ・ラブリバーです。わたしも元々は、レリッドリオン公国出身です。宜しくお願い致します」
「アイラ先輩も、アラン様のご実家のご領地の出身なのね」
「はい!でも、先輩じゃなく、アイラと呼んで下さい!」
「私も、リリアーナか、リリアと呼んで下さい!」
アイラとリリアーナは、先輩と呼ばれることが恥ずかしくて仕方なかった。
「そう?」
「じゃあ、アイラちゃんと、リリアちゃんと呼んで良いかしら?その方が仲良くして貰えそうだものね?私のこともポリアンナかポリーと呼んでね」
三人は、すっかり打ち解けていた。
そこへアグネス先生がやって来て。
「三人で仲良くなれたようで良かったですが、授業中ですからね。そろそろ私語は謹んで、練習に励んで下さい」
と、三人共にやんわり叱られた。
授業を終えると三人は、すっかり意気投合し学校の食堂でおしゃべりの花を咲かせていた。
リリアーナは、何よりもアランの事が心配でならなかったので、辺境伯領から無事に帝都に戻ったことを知って心から安堵していた。
そして、西の国境近くにあるプルーフォレスト辺境伯領地について、もっと詳しく聞いてみたいと思った。
第一回、第二回の「エド・ブロ戦争」についての講義を聞いたばかりであったし、その時の前線基地にもなり、アランの両親の出会いの場であったプルーフォレスト城にも興味津々であった。
「そんなに興味があるなら、プルーフォレスト城にご招待するので、今度遊びにいらっしゃいな」
「えっ!!良いのですか?」
「嬉しい~!! 」
アイラとリリアーナは手を取り合って喜んだ。
庶民出身のふたりにとって、貴族の令嬢のお友達が出来るなんて思っても居なかったからである。
ポリアンナの方は、社交界デビューをしてからも、ほとんど帝都に来ることもなく辺境伯領内で暮らしていたので自分が貴族の令嬢という自覚は薄かった。
ふたりの気持ちは今一つ理解できなかったが、同年代の友達などほとんど居なかったので、こんな喜んでくれる友達が出来たことが心から嬉しく思っていた。
三人の気持ちは様々であったが、それぞれの嬉しい気持ちは一致していた。
「ところで、ポリアンナちゃんは大学の寮に入るの?」
と、アイラが尋ねた。
「いえ、私は帝都にあるプルーフォレスト邸から通うことになるわ。お父様からは、それが絶対条件ってことで入学を許可されたの。帝都の邸宅にもプルーフォレスト家の騎士たちが在住していて護衛もしっかりしているからって」
「そうなのね。残念だけれど、貴族のお嬢様だもの護衛は必要よね。しかも、歴戦の勇士のプルーフォレスト辺境伯家のお嬢様ですもん!気をつけないと」
「うんうん!わたしたちもポリアンナちゃんの事を守れるように魔法や剣術のお勉強頑張らないとね」
「やだー!!リリアちゃんもアイラちゃんも、わたしを誰の孫だと思ってるの?イーサン・バルナバーシュ・ブルーフォレスト元少将の孫よ?剣術だけは、幼い頃からおじいさまに仕込まれているので、そんじょそこらの騎士には負けないわよ!!」
と、袖をまくって握りこぶしを見せた。
「そうでした!『赤い荒野の闘い』のガブリエラ先生の講義、ワクワクわしたわ~。歴戦の勇士のお孫さんですものね。御見それ致しました」
と、アイラとリリアーナはポリアンナに頭を下げた。
そして、リリアーナがおそるおそる尋ねた。
「えっと、ポリアンナちゃん…失礼なことを聞いて良い? 」
「ん?あらたまってなに?何でも聞いて!」
「あのさ、ポリアンナちゃんって、神聖力を持っているってことで良いのかな?」
「一応ね。ヒーリング能力は長けているって言われている」
「じゃあ、使徒も使えるの?」
プルーフォレスト辺境伯家の使徒と言えば、代々竜である。
まだ、本物のドラゴンを見たことの無いふたりは、講義の中で大活躍していたプルーフォレスト辺境伯家のドランゴンに興味津々だった。
一方のポリアンナの方は、ドランゴンと共に育ってきたようなものなので、ふたりの興味津々ぶりに驚くくらいであった。
「もちろん、使徒はいるよ」
「えーー!!もしかして、もしかしなくても…、」
「ド・ラ・ゴ・ン?」
ふたりは、思わず声を合わせて聞いてしまった。
「そうだけど?」
そっけなく答えるポリアンナに対して、目をキラキラさせて見つめるふたり。
「見たい?」
と、聞くポリアンナの言葉に大きく頷くふたり。
「ここにいるよ?」
と、手のひらサイズのドラゴンを出して見せた。
「これがーーー、噂の!!」
リリアーナとアイラは、初めて見る小さなドラゴンに見入った。
「この子は、おじいさまの竜クロヴィスの子供のクロエ。竜は、元々悠久を生きるものと言われているから、繁殖力も低いの。だから、その子供を使徒に出来るのはラッキーなんだと思っているわ」
「可愛い~、この子も大きくなったり、人を乗せたりできるの?」
「ええ。でも、竜としては子供なので長距離はまだ無理かな?」
クロエは、仔犬サイズになって見せた。
ふたりは、代わる代わるクロエを抱かせて貰い、その感触を味わった。
「本当に全身鱗なんだね。でもつやつやしてて綺麗」
「今は、戦闘モードではないから、鱗も柔らかくて気持ち良いけれど、戦闘モードになるとその鱗が鋼のように固くなるのよ?大人になると更に剣のようなトゲも出るようになるの」
「へえ~、カッコイイ!!」
「ここの授業では、使徒を操るための授業もあると聞くから、その時にふたりにも大きくなったクロエを見せてあげられるかもしれないわ」
「楽しみィ~」
ふたりは、ワクワクわが止まらなかった。
「それで、あなたたちには使徒はいないの?」
「わたしの神聖力はまだ弱いんです」
「でも、森で出会ったふくろう達がいて、その子たちが使徒になれるかどうかは、わたしたち次第ってアグネス先生にいわれているの」
リリアーナもアイラも現実の自分たちの課題を思い出して、少々意気消沈した。
すると、ポリアンナはふたりを励ますように言った。
「それは、楽しみね。使徒候補に巡り合っているってことは、そういう運命ってことじゃない?それは、もう時間の問題よ。早く、クロエと一緒に、使徒の訓練をしたいわね」
リリアーナとアイラは、運命という言葉に勇気を得ていた。
それと同時にリリアーナは「運命」と言う言葉を聞いて、アランと出会うまでの自分と、それ以降のことを考えいた。
アラン様と出会ったあの日から私の全てが変わったわ。
不安が全くないわけでは無いけれど、毎日がこんなに幸せで良いのかと思うくらい充実していて幸せだ。
アラン様との出会いが運命でなくて何だと言うのだろう。
ふくろのライナスとの出会いもきっと同じだ。
どちらの出会いも運命だと思いたい。
そして、その運命を良くするのも悪くするのも自分次第なのだと思う。
アイラやポリアンナとの出会いもきっと運命だ。
こんな幸運を逃さないためには、より一層努力しなければ!
と、心の中で強く思っていた。
「そういえば、アラン様は…」
「アラン様は、帝都にご帰還されたとのことだけれど、レッドリオン公爵邸にお戻りなのかしら?」
リリアーナはアランのことを思うと、寂しさを感じずにはいられなかった。
いつまたアラン様にお会いできるのだろう?
でも、こんなたいした進歩も無い自分ではとても会えない。
せめてライナスを使徒として連れて行けるようになるまでは、がんばらねば!!
ポリアンナの肩に乗れる大きさに戻り、そこで居眠りをするクロエを羨ましく
見つめながら決意するリリアーナであった。
すっかり、仲良くなった三人だったが、リリアーナはWhite Mageクラス、アイラとポリアンナは、Holy Mageクラスに分かれて勉強することになっていた。
座学に関しては、それぞれのクラスで別々の授業であったが、実技は合同授業となる。
今日は、リリアーナ達White Mageも剣術と乗馬の授業であった。
リリアーナは、馬と話せたが、訓練を受けた馬に騎乗するのは初めてである。
ましてや、騎乗しながら剣を振るなど想像したこともなかった。
騎士の剣は重く、非力なリリアーナには持ち上げて思うように振ることすら難しかった。
そのための自身の筋力強化、物体操作術から学ばなければならなかった。
リリアーナより早く入学していたアイラは、なんとか剣を持てるようになっていたし、ポリアンナは辺境伯令嬢として剣術の鍛錬は幼い頃からさせられていたので、騎乗しての剣技すら見事にこなせていた。
リリアーナは、自分だけ取り残されたようで落ち込んでいた。
しかし、ライナスを使徒として連れて行けるようになるまでは、がんばると決意したばかりである。
気を取り直して、馬術と剣技の授業にのぞむリリアーナであった。




