ひかれ合う魂の出会い = 弟の場合 =
王子様とお姫様が結ばれて、めでたし、めでたし…
で、終わらないのがこの長い長い物語なのです。
なにしろ、寿命が1000年以上ある
Holy Mage達の数世代に渡るお話なのですから。
エド・ロア王国から突然迎えられたマリエッタ・エレナ・ローディア・エド・ロア王女は、スチュアートリア帝国国民からも熱狂的歓喜で迎えられました。
245年間ずっと、婚約の噂や結婚話の噂、恋愛話どころか浮ついた話のひとつもなかった美貌の皇帝が、お隣の国の建国祭に行ったついでに戦争を短期で解決し、突然、美しい若い王女を后として連れて帰られたのです。
それは、それは、スチュアートリア帝国民は、歓喜し、しばらくその話題でもちきりになるのもしごく当然なことです。
聡明で美しく、快活な姫としてエド・ロア国内で有名だったマリエッタ王女を一目見ようと、全帝国民が、ふたりの結婚式とお披露目パレードを心待ちにしておりました。
当時、まだ若かった私も、自分と同年代の隣国の姫君が、ラファエル皇帝のお后様になるというお布令に大興奮でしたものです。
あ、私はガブリエラ・サーシャ・ラング。
現在、帝国神聖力術士養成大学で教鞭をとっております。
まだ、その時は帝国神聖力術士養成大学も存在しませんでしたけれど。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ガブリエラ・サーシャ・ラング先生は、自分の若かりし頃の気持ちと感動を思い出しつつ、今日の講義を始めた。
「今日は、前回の第一回エド・ブロ戦争の後に起きた第二回エド・ブロのお話です」
ラファエル皇帝とマリエッタ王女が婚約されてから、しばらくして王女の教育係として優秀なHoly MageやWhite Mageが集められました。
これは、マリエッタ王女様ご自身のご希望でもあり、ご自分の神聖力を磨き高めたいとのことでした。
そしてこれが、帝国神聖力術士養成大学の設立のきっかけになったのです。
私は王女様のご学友として、まだ「神聖力術士養成所」という名の小さな学び舎で、共に勉強に励みました。
私が今あるのも皇帝陛下とマリエッタ様のおかげと感謝しております。
マリエッタ様の祖母にあたられる方がWhite Mageでいらしたそうで、母君とその姉君もWhite Mageとしての力をお持ちだったとのこと。
マリエッタ王女様もそのお血筋を継いでおられました。
しかし、母国エド・ロア王国にはWhite Mageはおらず、ご自身の神聖力について全く気付いておられなかったとのことでした。
ところが、ラファエル皇帝陛下は、マリエッタ様の神聖力に気づかれておいででした。
お后様になられても「神聖力術士養成所」で学ばれ続けられ、めきめきとお力を発揮されていましたが、ご成婚後、すぐに御懐妊の発表がなされWhite Mageとしてのお勉強は中断されました。
そして、「第一回エド・ロア戦争」の翌年、アラン・クレオ・ハイデルベルト・スチュアートリア王子がお生れになりました。
その際の国民の歓喜は、おふたりのご成婚の時以上のものでした。
マリエッタ皇后様は、ベッドから起き上がり、生まれたばかりのアラン皇太子を抱いて頬ずりされながら、皇帝陛下におっしゃいました。
「陛下!陛下にそっくりの可愛い赤子です」
すると陛下は、目を細めながら
「いやいや、マリーにそっくりで可愛いが、まだ不安定で私には怖くて抱けないな」
と、言いながら赤子の手にそっと触れると、その小さな手が陛下の指を握りました。
陛下は、自分の指を握り締める小さな手に口づけしながら、ベッドの横の床に膝をついて
「この子の名前は、アラン・クレオ・ハイデルベルト・スチュアートリアだ」
と、おっしゃいました。
マリエッタ皇后陛下は、微笑みながら、我が子とその父親を見つめておられました。
それから、少しだけ不安そうな顔になっておっしゃられました。
「陛下、この子には神聖力はあるでしょうか?」
「私の神聖力は、まだ低いので不安です」
「『神聖力術士養成所』の先生方に教わりましたが、Holy Mageでなければ、皇帝も継げないのですよね?」
ラファエル皇帝陛下は、そう言ってうつむく皇后陛下の髪にそっと触られました。
そして、おでこにキスをされながら優しくおっしゃいました。
「マリー、心配ない」
陛下の指をしっかりと握っているアラン王子を見つめながら
「私の指を握るこの子の手からは、みなぎる神聖力が伝わって来る」
「この子は、きっと前星でもしっかり魂を磨いて我々の元に来てくれたよ」
と、おっしゃいました。
「本当ですか?!」
と、マリエッタ王女は、ご子息を抱きしめながら涙を流されました。
「たとえ、Holy Mageになれなくとも私たちの大切な息子だ!」
「心配することは無い!きっと立派な男になる!!」
力強くおっしゃりながら、妻と息子を暖かく抱きしめるラファエル皇帝陛下でした。
ラファエル皇帝陛下のおっしゃった通り、アラン様は、マリエッタ皇后に似て愛らしく、聡明で、皇帝陛下に似て勇敢で、そして強力な神聖力を持った少年に育ちました。
アラン殿下が6歳になる頃には、「神聖力術士養成所」も現在のような帝国が支援する「帝国神聖力術士養成大学」となり、 現在、特別顧問のアレキサンダー先生を大学長として正式に開校されたのでした。
同時にHoly Mageの子息だけでなく、神聖力や魔術の才を持つ民間人に対しても門戸を開かれました。
おかげで、わが帝国は他国に類を見ないほどのHoly MageとWhite Mageが存在し、帝国を陰ながら支えているのです。
どんなに才能があっても、自分ではそれに気づけなかったり、引き出し磨くチャンスがなかったりと、環境に恵まれず埋もれてしまう事が多々あります。
「国は人が作り、人を作るのは教育である」
これは、ラファエル皇帝陛下はいつもおっしゃっていることです。
「そして、その教育を施す師が人格者であり有能であるか否かで生徒の人生は変わる」
「だからこそ、国には自国の未来のために教育環境を全力で整える責任がある」
このようにおっしゃって、帝国あげ「帝国神聖力術士養成大学」に力を入れて来られました。
これが今に至る帝国の平和と安定のひとつに繋がっているのは間違いありません。
アラン様が「帝国神聖力術士養成大学」にご入学される頃には、マリエッタ様もHoly Mageとしての能力を身に付けておられました。
マリエッタ皇后さまは、特にヒーリングの能力に長けておられました。
地震や洪水等の天災が起こった地域があれば、臣下の者と共に現地に行かれて、救護や手当に励まれておられました。
マリエッタ様がまだ陛下の婚約者であらせられた頃、ご学友として共に学んでいた私に
「私は、傷や病を癒す力があるらしいので、その力を最大限に伸ばしたいのです」
と、こっそりと私に話されことがございました。
それは、エド・ロア王国での舞踏会で陛下が、ブロッサン国の者に刺された際の時の経験からだそうです。
「あの時は、陛下にもしものことがあったら…、私までこのまま死ぬのではと思うほどドキドキしたのよ」
と、思い出すだけでも心臓が飛び出すくらいドキドキするとおっしゃっておいででした。
ですから、Holy Mageとして他の能力を身に付けられつつも、ヒーリング能力に関しての勉強に本当によく努力されていた姿を記憶しております。
皇帝陛下も広大なスチュアートリア帝国の皇帝として日々忙しくされておりましたが、マリエッタ皇后陛下やアラン皇太子殿下と過ごされる時間もしっかりと取られておりました。
その頃には、レッドリオン領地は「赤い荒野」と呼ばれていた頃の面影はなく、緑豊かな大地となりっておりました。
シャバラリオとマントバナ国との国境の峡谷はそのままなので、自然の要塞に囲まれた安全な領土となっていまたした。
また、この国境の峡谷に連なる赤いライオン達の岩山も、以前と異なり自然豊かな山となっておりました。
アイザックは、約束通りラファエル陛下の使徒となり、今もラファエル様の使徒としてレッドリオン領を守っています。
普通のライオンでしたら、とっくに亡くなっているところですが、使徒の生は主人の魂と同体なのです。
ラファエル様は、そのように様変わりしたレッドリオン領内にマリオン城を建設されました。
そして、年に数回は、帝都の宮廷と皇帝の仕事をアレクサンドル弟殿下にお任せし、ご家族でレッドリオン領にて静養されておられました。
ある日、エド・ロア国からマリエッタ皇后さまに宛に一通のお手紙が届きました。
エド・ロア国内の地方に住むマリエッタ様のお母様の姉上様、つまり伯母上様からでした。
マリエッタ皇后陛下のお伯母上様のお名前はジョアンナ様とおっしゃいました。
ジョアンナ様もWhite Mageでしたが、エド・ロア宮廷内の生活が性に合わないと田舎暮らしをされていました。
そのジョアンナ様が、マリエッタ皇后陛下の従姉で異母妹でもあられるアリーチェ様を連れてスチュアートリア帝国に来られるので、時間が取れるならお会いしたいとのことでした。
そのお手紙をマリエッタ様が受け取られ時は、ちょうどレッドリオン領でご家族とご静養されている期間でした。
ですから、帝都の
宮殿名ロス・トロア宮廷に届いたその手紙は、アレクサンドル殿下の使徒であるアーサーにより、レッドリオンのラ・マリオン宮城へと届けられました。
せっかくの家族水入らず静養期間だったので、マリエッタ様は叔母と従姉に会いたい気持ちは山々なれども、いつも激務に終われている夫の休暇と家族との時間を大切にしたいと思いを優先されて、今回はお断りしようと思われました。
それに、どんなに急いで帝都に戻ろうとしてもレッドリオン領から帝都までは数日はかかります。
それでも、わざわざ叔母上がアリーチェ様を連れて来たことに、なんとなく心がざわつくのを覚えたマリエッタ皇后は、思い切ってラファエル陛下に相談することにしました。
優しいラファエル陛下は
「せっかく帝都までお越しになるのだから、しばらく滞在して貰えば良い。その間に我々も帝都のトロア宮殿に戻ろう」
と、おっしゃいました。
「でも、せっかくの陛下の休暇が…」
と、マリエッタ様がおっしゃるとラファエル陛下は、
「別にマリーとアランと一緒に居られるなら、場所ではどこでも良いさ」
と、微笑まれました。
マリエッタ様は陛下に心苦しく思われつつも陛下の優しさに感謝され、
「私たちが帝都に戻るまでトロア宮殿で待つように」
と、ジョアンナ様とアリーチェ様と、アレクサンドル殿下にふたりを頼むと書かれた二通の手紙を書いてアーサーに渡されました。
アーサーはその手紙を持ってイーグルの姿になると、城の窓から西の帝都へ向かって飛び立っていきました。
帝都のロス・トロア宮殿では、アレクサンドル殿下が兄の置き土産の仕事に終われておられました。
そこに、使徒のアーサーがアリエッタ皇后陛下から託された手紙を持って戻って来ました。
早速、義姉のマリエッタ皇后からの手紙を読まれたアレクサンドル殿下は、家臣の者に
「マリエッタ皇后陛下の元に客人が見えられるので、東向きの明るい部屋を二部屋用意するように」
と、おっしゃってから何かを予知されたのか、予感されたのか、
「失礼の無いように」
と、付け加えられました。
その数日後、アレクサンドル殿下の元に
「皇后陛下のご親類と申される方が見えました」
と、護衛騎士から報告がありました。
それを聞いたアレクサンドル殿下は、
「なぜ、すぐこちらにお通ししないのだ?」
と、聞き返されました。
「それが、衛兵の話では、皇后陛下のご親戚とおっしゃっておられるのに供の者もつけず、しかも歩いて参られたので足止めしているらしいのです」
衛兵としては当然のことをしているのでございます。
アレクサンドル殿下は、笑いながら言いました。
「そうか、それは衛兵の判断は間違ってはいないな」
「でも、心配ない。事前の連絡も貰っているし間違いはないからお通ししてくれ」
そう命じられた護衛の騎士は、慌てて門に戻ってふたりの女性を宮廷に招き入れました。
「だから、失礼の無いようにと言ったのにな」
と、いう殿下のぼやきは、誰も耳にも届いてはおりませんでした。
使徒のアーサー以外は…。
それから、しばらくして宮廷侍従に案内された二人の女性が、アレクサンドル殿下の元に現れました。
ひとりは、身なりはきちんとしているものの王族とは思えぬ服を着た少し年配の女性で、もうひとりは、こちらも平民と変わらぬ服装をした若い娘でした。
服装は質素であっても彼女自身からあふれ出す輝きにアレクサンドルは一瞬で目を奪われてしまいした。
「ようこそ、おいで下さいました。伯母上様には、兄上たちの婚礼の際にお目にかかっているとは思いますが、私は皇帝の弟のアレクサンドルです」
と、王族に対しての敬意を込めた礼をして、それぞれの手の甲にキスをした。
「今、皇帝一家は静養中で、東のレッドリオン領の宮城におります」
そして、アレクサンドル殿下は机の引き出しから一通の封筒を取り出し
「これは、マリエッタ姉君からお預かりしている手紙です。ご一読下さい」
と、年配の女性に手紙を渡されました。
すると、その年配の方の女性が手紙を読んでから言いました。
「突然の訪問で失礼致します」
「私は、ジョアンナ・ミリアナ・ローディア・エド・ロアと申します。姪のマリエッタには手紙を出したのですが入れ違いだったようですね。ちょっと事情がありまして、平民に紛れて旅をして来たものですから、このような格好で申し訳ございません」
と、マリエッタ皇后の伯母、ジョアンナ様がおっしゃいました。
「長旅でお疲れでしょうから、まずはこちらにお座りになって下さい」
「暖かいお茶でも出しましょう」
と、アレクサンドル殿下が執務室の隣の部屋のソファーを示し、三人でそちらへ移動され、ふたりにソファー座るように勧められました。
そして、自分もテーブルを挟んだ向かいのソファーに座るとテーブルの上のベルをチリリンと鳴らしました。
すると間もなく侍女が数名現れて静かにお茶の用意をしました。
殿下は、その侍女に対して、
「風呂と、おふたりの着替えの用意を頼む」
と、おっしゃいました。
「さあ、まずはお茶を一杯どうぞ」
と、アレクサンドル殿下が言うと若い方の女性が立ち上がり
「ありがとうございます。ご挨拶がまだでした。私は、娘のアリーチェ・クラリス・ローディア・エド・ロアと申します。マリエッタ皇后の従姉にあたります」
と、淑女らしい礼をされました。
「アリーチェ姫君ですか。姫にお目にかかるのは初めてでしょうか?」
「はい、私がスチュアートリア帝国に参りましたのは、初めてございます」
アリーチェの伯母上のジョアンナ様も、元はエド・ロア国王の側室のひとりであらせられたそうです。
しかし、アリーチェ様が幼い頃から、動物としゃべったり、大人の会話に割り込んで相手の気持ちを言い当てたりと奇妙な行動をするということで、他の側室やその娘たち疎まれたので、母子共々、後宮から離れられたのだそうです。
「私も矮小ながらWhite Mageでしたので、幼い頃のアリーチェの言動も私の血を受け継いでいるせいだからだと思うのです」
と、ジョアンナ様がおっしゃると
「そうですね。アリーチェ姫からは、強い力を感じます」
神聖力に関しては、帝国内での秘密でしたので、殿下は敢えて特別な力と表現されました。
「姫、ちょっと試してもよろしいですか?」
と、アレクサンドル殿下がおっしゃってから、テレパシーで姫に話しかけられました。
「アリーチェ姫、私の言葉がわかりますか?」
アリーチェ様は、少し戸惑いながらも
「はい聞こえます」
と、声を出して答えられました。
すると殿下は、
「今度は口に出さず、心の中で返事をしてみて下さい」
と、再度思念を送られました。
姫は、心の中で
「はい、わかりました。これで、よろしいのでしょうか?」
と、答えられました。
「ジョアンナ様。やはりアリーチェ姫には、特別な力が宿っておられるようです」
アレクサンドル殿下の言葉を聞かれて
「そうでしたか…」
と、ホッとしたようにジョアンナ様は話し始められました。
「実は、私もアリーチェにはWhite Mageの力はあると思っていたのですが、それをどう引き出してあければよくわからないのです」
「マリエッタにも教えたことがありましたが、私は未熟で…」
「でも、マリエッタから、皇帝陛下が『帝国神聖力術士養成大学』を創設されて、そこで学んだと聞いたものですから、アリーチェもそこで学ぶことは出来ないかと思って相談に参りました」
ジョアンナ様の説明に得心されたアレクサンドル殿下は
「そういうことでしたか。その件については、やはり皇帝陛下に直接ご相談された方が良いですね」
「数日後には、皇帝陛下ご家族も帝都に戻られます」
「それまで、こちらでゆっくりと長旅のお疲れをとられて下さい」
と、おっしゃいました。
「ありがとうございます」
ジョアンナ様母娘は、アレクサンドル殿下に心からの感謝されたのでした。
翌日から、アレクサンドル殿下は執務の合間を見ては、アリーチェ母娘になにくれとなくお世話されていました。
ラファエル陛下の使徒のトリスタンが先ぶれとして、
「明日には王都に着きます」
と、いう伝言に来た頃には、すっかり打ち解けておられました。
「アリーチェ姫、今日は宮殿の外を散策してみませんか?」
「はい、私も帝都を見てみたいと思いました」
と、ふたり連れだって街中に出かけていく姿に、宮廷の中の皆が、おやおや?と思っていた頃、陛下ご家族がお戻りになりました。
「伯母上、お待たせしてしまってすみません」
「マリエッタ、久しぶりですね」
と、皇后陛下とジョアンナ様は、久しぶりの再会を喜び合われました。
「急に押しかけてしまったのに、アレクサンドル殿下には色々と良くして頂いていましたので、本当に居心地が良かったです」
と、言う叔母ジョアンナの言葉に安堵されながら、
「あら?アリーチェはどこ?」
と、皇后陛下は久しぶりに会う従姉の姿を捜されました。
「今、アレクサンドル殿下に帝都内の街を案内して貰っています」
と、いうジョアンナ様のお言葉に反応されたのは、皇帝陛下でございました。
「え?あのアレクサンドルが!ですか?」
アレクサンドル殿下が女性を連れて市中を回られることはほとんどなく、ましてやご公務で視察されるわけでも無いのに“街ぶら”するとは!前代未聞!!と陛下は、心から驚かれておられました。
と、同時に嬉しくも思われておられました。
そして、皇后陛下と顔を見合わせて微笑まれました。
そこへ噂のカップル登場!!
照れくさそうなアレクサンドル殿下の後ろから部屋に入って来たアリーチェ姫が、皇后陛下の姿を見つけられ
「マリエッタお姉さま!」
と、おっしゃりながら皇后陛下に駆け寄られて抱きつかれました。
「アリーチェ、久しぶり。会いたかったわ!」
「私もです。お姉さま。ご成婚の祭は、私が体調を崩してしまい帝都まで来られずお会いできなくて…本当に残念でした」
「アリーチェ、もう体調はすっかり良いの?」
「はい、もうすっかり元気です」
と、両手を肩まであげてアピールする姿に、あれ?どこかで見覚えがあるな…と思いつつ、微笑みながら従姉を抱きしめる皇后陛下でした。
その横で、弟を肘でツンツンされる陛下と、頭を掻く弟殿下。
それを微笑ましく見守る、まだ幼いアラン殿下。
この平和で温かい光景がいつまでも続けば良いと思われるような幸せな時間が流れていたのでございます。
ラファエル皇帝陛下は、アリーチェ様の母ジョアンナ様から、アリーチェ様の帝国神聖力術士養成大学への入学希望について伺いました。
さらにアレクサンドル殿下から彼女のWhite Mageの素質について聞かされると、しばらく考えられてからおっしゃいました。
「帝国神聖力術士養成大学は、スチュアートリア帝国立の学校で、その運営費は帝国民の税金だ。だから、帝国民にしか入学は許されない。そして、卒業後はこの帝国に役立つ人材になって貰わないとならん。それは、皇后の親類縁者であろうとも覆されることの無い決まりだ」
「陛下、私がアリーチェの身元引受人になります。それでも駄目ですか?」
いつになく厳しい皇帝陛下に、マリエッタ皇后が懇願するようにおっしゃいました。
すると、ラファエル殿下は、アレクサンドル殿下の方を見てから
「まぁ、アリーチェ姫が、スチュアートリア帝国民になるというのであれば問題はないが…」
と、おっしゃいました。
アレクサンドル殿下は、
「兄上にやられましたな…」
と、心の中でつぶやき、ラファエル殿下も
「お前のツインレイだろ」
と、つぶやき返しました。
「アリーチェには、その覚悟はありますか?」
と、マリエッタ皇后陛下が尋ねられると、
「母と離れるのは寂しいですが、それで学べるなら覚悟はできています。もし、私の力をマリエッタお姉さまお役に立てられるなら本望です」
皇帝とその弟殿下の思惑など知らないアリーチェ様は、そうきっぱり答えられました。
しかし、その際にアリーチェ様が、チラリとアレクサンドル殿下の方を見たのを、両陛下は見逃されませんでした。
「では、決まりですね?」
「アリーチェは、今使っている部屋で良ければ、そこを住まいにして大学へ通ってちょうだい」
と、マリエッタ様がおっしゃると
「アレクサンドルの執務室からも近いから、何か困ったらすぐに助けを求めに行けるからな」
と、皇帝陛下がアレクサンドル殿下をからかわれるように付け加えられ言われました。
それに対してアレクサンドル殿下は
「姫が困らないように、侍女と侍従をしっかりつけてあげます!!」
と、真っ赤な顔をしておっしゃったので、かえって殿下は墓穴を掘ることとなり、その場に居合わせた皆の者に笑われたのでした。
アレクサンドル殿下245歳。
初恋?
いくつになっても、初々しい殿下なのです。




