「エド・ロア王国」と「ブロッサン国」
リゲル歴3594年
当時皇太子であったアランの父ラファエルと弟のアレクサンドル、ふたりの姉ステイシア殿下、ブルーフォレスト少佐の活躍により「赤い荒野の魔物」は、黒魔術の呪いから解放された。
ライオン達に呪いをかけ、懐柔し、シャバラリオを支配しようと企んでいたヘッドヴィックという黒魔術師達は、海の向こうのアモー・ロンド大陸に逃げて戻ってこなかったという噂だ。
アモー・ロンド大陸は、スチュアートリア帝国があるスチュア・トロア大陸の5分の1ほどの面積の大陸である。
そこに、国を名乗る国家が6つほど存在していた。
アモー・ロンド大陸にはHoly Mageは存在せず、魔術師達が力を振るっていた。
魔術師の多くは黒魔術を使う者たちで、白魔術師達は黒魔術師達に迫害され海を渡ってスチュア・トロア大陸へ逃げて来る者もいるとのことであった。
そんな白魔術師達が多く住むのがエド・ロア王国であり、スチュアートリア帝国とも友好関係にあった。
しかし、エド・ロアを挟んで隣接するブロッサン、マニ・トバールとパドラルの三カ国には黒魔術師達が増えているという。
スチュアートリア帝国皇帝は、この三国にWhite Mage達を密偵として送り込み定住させて監視していた。
「赤い荒野の闘い」から帝都に戻ったラファエルは、ヘドヴィック一味の企みを知り「赤い荒野」が西の守りの要になると考えた。
そして、南北に長いその地を人が住める土地にすることより帝国の西の守りを固めたいと考えた。
皇帝の許可を貰い、Holy MageとWhite Mageを中心に荒地の回復を図ることにした。
まずは、公共工事として治水工事を行い、以前流れていたという川を復活させた。
ライオン達の岩山は保護区として人の立ち入りを禁止して保護区とした。
その後に荒地の土壌改良し、動物たちも住める緑豊かな土地に回復した。
ある程度生態系が戻ったところで、土地を耕し家畜を放牧した。
こうして、200年掛け人が住める土地と変え、計画的に街道を配し、都市機能を充実させた。
これが、現在のレッドリオン領である。
皇帝として即位した後も、皇帝直轄地として管理しレッドリオン領地内に帝国陸軍基地を置いた。
そして、退位後の住まいにするべく、マリオン城宮殿を建設した。
この宮殿は、居城でもあったが、いざ戦闘となった際には城塞となるように設計されていた。
こうした公共事業に関わった人々の多くは、現在の公国の国民の祖先となっている。
「赤い荒野」が人の住める場所、岩山地帯はライオン達が安心して住める場所となったことで、隣国のシャバラリオからの怪しい者の出入りを厳しく監視することが出来るようになった。
レッドリオン領とし軍の基地を置いたことで周辺の国への威嚇ともなっている。
また、シャバラリオの退廃的な街の雰囲気が黒魔術師をのさばらせる要因となっていると思われた。
その原因は、シャバラリオが国としての形を成していなことや、経済的に不安定なことにある。
他国の支配に口を出すことは出来ないが、経済の活性化には貢献できるとラファエルは考えた。
まず、シャバラリオの人々が安定した収入を得ることでシャバラリオの経済を安定させようと考えた。
そのためのレッドリオン領とシャバラリオ間に行き来できる街道を整備した。
そして、シャバリオからの商品の取引する市場を作り、軍の駐屯地を配備して人と物の往来を監視させた。
経済的に豊かで安定したスチュアートリア帝国と経済的な取引をすることでシャバラリオの経済も豊かになった。
経済が安定し潤って来ると、町も自然と活気づき治安も回復していった。
まだまだ、国としては不安ではあったが、以前のような退廃的な雰囲気は改善されていた。
このように帝国の東の防衛を固め、ラファエルも少し肩の荷が降りたように感じられた。
時に「赤い荒野の闘い」から215年後のリゲル歴3089年のことである。
若き皇太子であったラファエル殿下も254歳。
アレクサンドル殿下も235歳になっていた。
= エド・ロア王国 =
エド・ロア王国は、スチュア・トロア大陸の西の端にある王国である。
スチュアートリア帝国の次に国土面積が広く海に面した資源豊かな国である。
スチュアートリア帝国とは森林地帯を挟んで国境が面しているが、長く友好国として交易も盛んであり、人や物が行き来する街道も整備されていた。
その北の隣国のブロッサン国は、資源豊かなエド・ロアの資源を狙っていており、いつでも戦争を挑むチャンスを伺っている状況だった。
しかし、ブロッサン国側もエド・ロア国とスチュアートリア帝国が友好国であることを十分に理解していた。
国力も軍事力も強い強大なスチュアートリア帝国を万が一にも敵に回せば国の滅亡に繋がる。
それゆえ、喉から手が出る程ほしい隣国領土だったが、うかつに手を出す事はなかった。
エド・ロア王国にもWhite Mageは存在したが、Holy Mageは存在しなかった。
そもそもHoly Mageは帝国の皇帝一族に備わる力であり、帝国の機密事項であった。
そのため、他国には、Holy Mageの真の力ついては知られていなかった。
単に寿命の長いWhite Mageだと考えられていた。
エド・ロアの王は、普通の人間であった。
その為、一般的な王国同様に王族の血筋を絶やさないために、正式な王妃の他に側室を住まわす後宮を持っていた。
エド・ロア王には、正妻の間に王子がひとり、王女ふたり、側室たちの間に五人の女子と三人の男子がいた。
ごたぶんにもれず、王妃たちの間では、自分の息子を皇太子にしようとする後継者争いが繰り広げられていたが、いずれの王子たちもまだ幼かったので、王も誰を後継者にすべきか悩ましいところであった。
そんな中でも王が一番信頼を置いていたのは、正妻との間に生まれた18歳になる第二王女だった。
名前をマリエッタ・エレナ・ローディアといった。
マリエッタは、賢く、洞察力に優れており、勇敢で、好奇心旺盛で、勉強にも武術にも積極的に取り組んでいた。
また、その好奇心もからお隣の広大なスチュアートリア帝国にも興味を持っていた。
特にスチユーアートリア帝国の皇帝の家系は魔力の強い者が多く、皇帝はその最たる者で、1000年以上生きられると聞いて興味津々であった。
エド・ロアにもWhite Mageは何人か存在し、彼ら彼女らも普通の人間よりは長く生きられるが、それもせいぜい300歳~400歳前後だという。
実は、マリエッタの祖母もWhite Mageで、母も叔母も白魔術が少し使えたので、それを見込まれて王妃に迎えられたと聞いている。
それを聞いた好奇心旺盛な王女は、White Mageの叔母から白魔術を教わりに叔母の住む田舎まで行ったほどだった。
数日間居座って、魔術のノウハウを聞いたが、たった数日で上達するようにものではない。
王宮に戻ってから魔術書とやらを取り寄せて読みふけっていたところであった。
実は、魔術書と魔導書は少し違う。
魔術書は、魔術に関する読み物的な本であるが、魔導書は魔術を使える者が使う本で、マジュ文字という特殊な文字で書かれていおり、魔術を扱える者にしか読むことは出来なかった。
そんなある日、マリエッタ王女は父王から呼び出されて言われた。
「マリエッタ、おまえももう18歳だ。そろそろ嫁ぎ先を決めようかと思う」
「上級貴族たちの中では、お前を嫁にという者も数名いる」
「私が勝手に決めても良いのだが、おまえの意見を聞こうと思うのだが」
マリエッタは覚悟していた事とはいえ、やはり現実のこととなると戸惑った。
「はい、私も18歳ですし、王の娘ですから覚悟はしております」
いつになくしおらしい愛娘の態度に戸惑いを隠しきれない父王は
「だれか心に掛かる者でもおるのか?」
と、不安そうに尋ねた。
すると王女は、きっぱりと
「今は、いません。でも、これからできるかもしれません」
と、言った。
王は、困ったなという顔をしながら
「そうか、まだ心は決まらんか」
「しかし、いくら可愛い娘でも、いつまでも好き勝手をさせるわけにもいかんしな」
と、ポリポリと頬を指で搔きながら、
「今度の私の誕生日の祝賀祭と、建国800年を祝す建国祭を同時開催しようと思うのだ。期間もいつもより長く予定している」
「そこに各国の王侯貴族も招待して連日舞踏会を開くから、そこで、そなたの婿候補を捜すとよい」
と、王が提案した。
マリエッタ王女は、父王の提案に少し驚きながらも
「スチュアートリア皇太子も招待されるのですか?」
と、尋ねた。
自分でも、なぜそんな質問をしたのか不思議なのだが、つい口にしてしまった。
「スチュアートリア皇太子を知っているのか?」
王も驚いて聞き返した。
「いえ、知りません。お目にかかったことはもちろん、肖像画も拝見したことはございません」
「でも、あのうわさのスチュアートリア帝国皇帝一族には非常に興味があります」
「国民からも絶大な支持がある賢帝との噂なので、一度お目にかかってみたいと思ったまでです」
マリエッタ王女は父王に自分の本音を伝えてみた。
すると王も、好奇心の強い王女の気持ちを理解し共感して言った。
「そうか、私も一国の王として、あの広い領土を長きに渡り治めている皇帝には興味はある」
「が、今回は、現皇帝ではなく、引退された前皇帝ご夫妻を招待することになっておる」
「なんと800歳を超えているそうだが、今もぴんぴんしているそうだ」
「まぁ、現皇帝も250歳らしいけれどな」
王としても、姫がスチュアートリア帝国に嫁いでくれれば玉の輿であるので願ったり叶ったりである。
しかし、残念ながら、今回は帝国の皇太子は招待していなかった。
王としても、なぜ先代皇帝夫婦を招くことになったのかと疑問であった。
それでも、
「なんてお歳なのでしょう。もはや生きる歴史ですね?お目にかかってお話を伺うのが楽しみです」
と、目を輝かせてそう言う娘を見て王は、
「いやいや、姫は婿探しを頼む」
と、苦言を呈した。
王女は、ペロリと舌を出しながら、深々とお辞儀をして
「では、父上失礼致します」
と、言って王の前から下がって行った。
その時、王の横に控えていた臣下のひとりの目が光った。
それを帝国からの密偵のWhite Mageのねずみ使徒のステファンは見逃さなかった。
一方、エド・ロアの隣のブロッサン国も王の後継者争いが水面下で激化していた。
ブロッサン国は大陸の北東に位置していた。
水産資源はあるものの、北部では冬が長く農産物の収穫も限定的であり、これという特産物もなかった。
また、文化水準も低く、スチュアートリア帝国に比べると文明も遅れていた。
国としては、まだ歴史も浅く権力争いが続いていた。
国民も高い税と、不安定な政府に振り回されており精神的に疲弊ぎみだった。
そんな弱った心の隙間に入り込むのは精神的な救いになるものである。
それが本当に、人の心を軽くし、前向きに進む後押しとなるものであるなら良い。
だが、それを利用して権力を握ろうとする者が現われる。
特に、普通の人が持たない力が示され、それが霊的な力、神様からの力だと言われると純粋な者ほど信じてしまうものである。
そして、その者を崇拝して信じ切ってしまい、心までも支配されると、人はもう後戻りできなくなる。
そんな力を利用して権力を振りかざし、人を惑わす者がBlack Mageとなのである。
ブロッサン国は、分裂の危機にあり、国王派と、軍の実権を握っている軍の将軍派に分裂していた。
どちらの派閥にもBlack Mageがいた。
彼らは、何かとアドバイスをしたり、時には黒魔術で政敵に呪いをかけたりと手を貸していた。
将軍派は、Black Mageを通して将軍こそ国王の悪政から解放してくれる救世主的存在であると崇め奉り、民衆の国王への反感を煽っていた。
そんな時である。
エド・ロアへ送り込んでいる密偵から、国王の誕生祭と建国祭が開催されるという情報がもたらされたのである。
これを上手く利用しようと、両派閥のBlack Mage達は考えた。
彼らの目的はブロッサン国王を支えることでも、将軍を国王にすることでもなかった。
彼らの真の目的は、Black Mageが牛耳る国を作ることなのである。
ブロッサン国軍事司令室の一室では、ブロッサン軍の将軍が部下と陰謀を企てていた。
「エド・ロアには王女は何人いたかな?」
ブロッサン軍の将軍が部下に尋ねた。
「正妻にふたり、側室腹が五人です」
「それぞれ年齢は? 正妻の王女が20歳と18歳で、側室の方は、21~10歳です」
「でも、正妻の第一王女の方は、嫁ぎ先は決まっています」
「狙うは、第二王女か」
「なんでも、密偵の話では、王女は、今度の王の生誕祭と建国祭の舞踏会で相手を選べと国王から言われているそうです」
「なるほど、これはチャンスかもしれんな」
マリエッタ王女、危うし!である。
= エド・ロア王国=
一方、自分が狙われているとも知らないマリエッタ王女は、あれ以来、スチュアートリア帝国が気になって仕方なくなっていた。
マリエッタが子供の頃から、婚約や結婚を望む王侯貴族からの肖像画は送られて来ているが、スチュアートリア帝国から来たことは無い。
ブロッサンからも来ていたが、こちらは絶対に政略結婚でしかないので、それだけは絶対に嫌だった。
エド・ロアもかつては小国の集まりだった。
最終的にはエド国とロア国が政略結婚の後にひとつになった国なのである。
スチュアートリア帝国は、そんな政略結婚とは無縁な国であるのは皇帝の寿命が恐ろしく長いからだろう。
マリエッタ王女は、不思議な国のスチュアートリア帝国への興味が止まらなくなっていた。
ある日、単身、馬で遠乗りに出て気づいた時には、スチュアートリア帝国の国境近くの丘の上まで来てしまっていた。
そこから見渡す景色は素晴らしく、川の向こうの帝国は美しく見えた。
「あの橋を越えたらスチュアートリア帝国なのね」
と、思いながら森を挟んだ反対側のブロッサン国を見た。
するとそちらの空は、スチュアートリア帝国側とは反対に薄暗く感じた。
私の気のせいだろうか?
そんなことを思っていたら、急に自分の頭上の空もにわかに暗くなって来た。
これは雨になる。
「急いで戻らなくては!!」
と、思って馬を戻らせようと手綱を引いた。
真っ黒な雲がどんどん垂れこめて来る。
城に戻ろうと、反転しようとした馬の足が藪に踏み入れた瞬間、その藪から蛇が飛び出し来た。
蛇も驚いて出て来たのだろうが馬も王女も驚いた。
驚いたまま濡れた草に足をとられた馬は、王宮とは反対の方向に走り出してしまった。
王女も蛇に驚いていたのと雨が強くなって来て視界が奪われていた為に方向感覚が狂っていたのだろう。
進行方向が、王宮とは反対だと気づかぬまま馬を走らせて、いつの間にか国境を越えて帝国内へ入ってしまっていた。
激しく降る雨の中、見覚えのない景色に王女が気づいた時はずぶれになっていた。
「このままだと、私も馬も体が冷えてしまうわ。どこかで雨宿りをさせてもらわないと」
と、あたりを見回すと霧の向こうから、三騎ほどの馬影が近づいて来た。
そして、相手の顔が見える距離になったところで、その先頭の馬に乗った男がマリエッタに声をかけて来た。
「おや、お嬢さんどうしました? ずいぶん雨に降られましたね」
その先頭の若い男は貴族のようで、男の後ろの二人は男の従者のようであった。
よく見ると、男の肩には、立派な鷲が止まっていた。
「鷹狩にでも来たのかしら?」
と、マリエッタは思った。
彼らは反対側から来たからか、それほど濡れていなかった。
しかし、雨は止んでいなかった。
男は、マリエッタが寒さでガタガタ震えているのを見ると、自分のマントを外してマリエッタに掛けてくれた。
「すみません。体が冷えてしまって」
と、マリエッタが言うと
「そうでしょう、早く室内で暖まりましょう」
「近くに辺境伯の城があります。ついて来て下さい」
そういってマリエッタを伴いある城まで連れて行った。
城の前まで来ると、男はお供の者を門番の元へ走らせた。
そして、門番が開けた扉の中に入って行った。
マリエッタも続いて入ると、雨はだいぶ小降りになっていた。
馬から降りると、その城の馬番が
「馬をお預かりします。雨を拭いて温めたら、餌と水を与えてよろしいでしょうか?」
と、言って来たので
マリエッタは寒さで震える声で
「お願いします」
とだけ答え、男について城内へ入った。
この城は、スチュアートリア帝国のブルーフォレスト辺境伯の居城であった。
城の主は帝都で軍の仕事に就いているということで、辺境伯の妻と子供たちが出迎えてくれた。
暖かい飲み物と食事も用意してくれ、濡れた服が乾くまでと着替えも貸してくれた。
「まだ素性も名前も名乗っていないのに、なんて親切な方たちなのでしょう」
と、マリエッタは思った。
寒さでカダカダと震えていたがその震えがおさまり、体が温まったところで、やっとマリエッタは自分の名前を名乗った。
「私は、エド・ロアの王女マリエッタ・エレナ・ローディアと申します」
馬が蛇に驚いて逆走してしまったのですが、雨が強すぎて周囲が見えず、気づいたら国境を越えてここまで来ておりました。お世話をおかけしてすみません」
マリエッタがそういうと、ブルーフォレスト家の息子ブルース・カイザー・ブルーフォレスト卿(見た目は20歳前後でも実際は30歳を超えていた)は、
「いえいえ、それはお困りでしたね。お風邪を召されたら困りますから、しっかり温まってからお帰り下さい」
と、言ってくれた。
マリエッタは
「スチュアートリア帝国の人は優しいわ」
と、思った。
そして、門の前で会った男性の姿を捜した。
「あの、私をここに連れてきて下さった方は」
と、尋ねると、
「あの方は、もう帰られました」
と、言われた。
「えっ?!もう、ですか?あの方も濡れておられていた気がしたのですが…」
と驚いて答えると
「あの方は超人なので、あれくらいの雨は何でもありません」
と、笑って答えた。
マリエッタは、もう一度のあの方と話したかったと思った。
そういえば名前も知らない、誰なのだろうと思い
「あの方は、どなたなのですか?」
と、尋ねてみた。
ブルーフォレスト卿は、
「ハイデルベルト卿です」
と、答えた。
「お名前は…」
と、言いかけたが、
「異国人の私が名前を知ったところで」
と、思って口を噤んだ。
父親から結婚の話題を出されていたので、
「焦っているのかしら、私…」
と、自分の心内を恥ずかしく思った。
けれど、自分の心の中のドキドキとざわざわは抑えられなかった。
「あの、あの方にもお礼をお伝え下さい」
と、マリエッタが言うとブルーフォレスト卿は
「はい、お伝えしておきます」
と、言った。
マリエッタは、それ以上は何も聞けなかった。
雨もすっかり止み、服が渇いたので暗くなる前にエド・ロアの王宮に戻った。
その日から、マリエッタの心には、あのハイデルベルト卿という男性の笑顔が脳裏にこびりついて離れなかった。




