Grate Holy Mage「アレキサンダー先生」
1000年以上も生きているGrate Holy Mage。
アレキサンダー先生。
登場シーンは少ないかもしれませんが、
この物語の要になるお方です。
何度も生まれ変わり、ついに1000年以上も生きると
人間はどうなるんでしょう?
アレキサンダー先生の部屋の前に取り残されたリリアーナは、その大きな木の扉の前で、もじもじしていた。
そして、先程聞いたばかりの自分の出身、故郷であるリッドリオン公国が出来る前の話を思い出していた。
リリアーナの恩人でもあるレッドリオン公爵であるアラン。
そして、その父であるラファエル大公。
ラファエルの若き日の話に、今でも身震いがするほどワクワクして続きが知りたいと思っていた。
それと同時に、そんな状況だった荒野を今のレッドリオン公国にして統治しているご領主様を心から尊敬した。
わたしも、自分の国と、ご領主様たちのお役に立ちたいと心から思っていた。
「そうよね。こんなところでオロオロしていたら役に立つどころか、アラン様への恩を何も返せない弱虫で終わってしまうわ」
リリアーナは、そう思って意を決し、その大きな木の扉をノックした。
すると、その大きな重そうな扉が音もなく静かに開いた。
その部屋の奥の大きな机には、窓を背にして老人が座っていた。
逆光になっていて顔は見えなかったのに、一瞬で老人だとわかる風貌だった。
「リリアーナ・サーシャ・ホワイトブランチ君だね、お入りなさい」
人を落ち着かせるように響く低音楽器のような穏やかな声がリリアーナを迎えた。
「はい」
小さな声で返事をしたリリアーナが、おずおずと入室すると再び重い扉が音もなく閉じた。
老人は、
「そこに座りなさい」
と、机を挟んで向かいに置かれた椅子を示して言った。
リリアーナは、言われるまま椅子に着席した。
老人は、白く豊かな白髪を背中で縛り、髪と同じく豊かな白いひげを長くのばしていた。
白い眉毛も長く伸びて垂れ下がっており、その眉毛の下の目は、優しく、でも力強く輝いていた。
ほぼ顔中白い毛だらけのその老人を見てリリアーナは「子供の頃に読んだ童話に出てくる仙人」のようだなと思った。
そして、さきほどまで怯えていた気持ちがすっと消えていくのを感じた。
「はじめまして、リリアーナ・サーシャ・ホワイトブランチ君。そして、ようこそ帝国神聖力術士養成大学へ。私は、アレキサンダー」
「1000歳までは歳を数えていたが、そこからは数えるのを止めた」
「この歳になると苗字も必要無いので、アレキサンダーと呼んでくれてよい」
「初めてお目にかかります。アレキサンダー先生」
「リリアーナ・サーシャ・ホワイトブランチ14歳です。レッドリオン公国から参りました」
リリアーナは、自分が随分リラックスして話せていることに驚きつつもさらに付け加えた。
「わたしは、レッドリオン公国に居たころは、人が怖くて学校へも行かなくなり、自分は価値のない人間のように思っておりました」
「けれど、レッドリオン公爵様に救われ、この大学に入学することができました」
「わたしは、立派なWhite Mageになって、公爵様へのご恩に報いて、公国や帝国に役立てる人間になりたいと思っています」
アレキサンダー先生は眉毛の下の目を細めながら
「良い決意表明じゃな」
と、微笑んだ。
「ありがとうございます」
リリアーナも嬉しくなった。
「じゃが、おぬしはWhite Mageではないかもしれんぞ?」
一瞬、アレキサンダー先生の言葉に耳を疑ったリリアーナ。
「えっ」
それは、絶望的ってことなの?わたし…
「いや、神聖力が未知数なのじゃよ}
「 White MageではなくHolyMageになれるかもしれんということじゃ」
「えっっ?」
リリアーナは、再び耳を疑った。
「でも、私の両親は魔法も使えない平民でした」
「ふつうの人間から、HolyMageが生まれることはあるのですか?」
リリアーナの質問にアレキサンダー先生は、ゆっくりと話し始めた。
= アレキサンダー先生の講義 =
君も多少は知っておろうが、このリゲル・ラナという星には、神聖力と魔力の両方が存在している。
もっと詳しく言うなら、神聖力、魔力、霊力、妖力、と呼ばれるたぐいの力が存在するのが、この星なのじゃ。
私は、強い神聖力を備わって生まれて来て1000年以上も生きておる。
神聖力を持たない者との差はなんなのじゃろうと常に考えながら。
そして、こんな仮説にたどり着いたのだ。
人は死すと、その魂に応じて別の星に転生するのだと考えておる。
つまり人はみな世界の星を巡り転生しているのではないかと。
世界には、無数の銀河と星が存在し日々広がり続けている。
人が生きていける条件の揃っている星は、無限にある。
しかし、それぞれのる星は、無限の時の隔たりが有り、行き来は基本的には不可能である。
死せば、新たに生まれることで、その魂の記憶は消えてしまう。
よって、新たな星で、別の人間として生まれ変わり新たな人生を生きることになる。
ここで考えたのは、星を巡る毎に魂の成長がみられ、その成長に応じて寿命が延びていき、能力にも違いが出るのではないだろうか?ということじゃ。
つまり前星での努力は無駄になることは無いということじゃ。
人は、物質的肉体と霊的な魂とそれを統合するシルバーレイヤーで構成されている。
記憶は人間の脳に記録されるが、神聖力は魂に記録されていくものなのじゃ。
神聖力が強い者は寿命も長く、以前の星(での記憶も残りやすい。
わしも以前生きていた星の記憶が残っておる。
それは脳裏にではなく、魂にじゃ。
他のGrate Holy Mageも同様じだった。
これが、わしが長年生きて来て、他のWhite Mage達からも聞いたことから導いた結論なのじゃよ。
アレキサンダー先生は、ここまで一気に説明すると一息ついてお茶を飲んだ。
リリアーナは、さきほどのレッドリオン公国の歴史で衝撃を受けた頭で受け止めるには、なかなか理解不能だと思った。
それでも、なんとか理解できた範囲で質問をしてみた。
「どの星に生まれ変わるかは、神様が決めるのですか?
アレキサンダー先生は、良い質問だというように頷きながら答えられた。
「それは、私にも誰にもわからぬことかもしれぬ」
「だが、世界は大きなCosmoであり、それぞれの魂は、その中のいずれかの星に属している」
「それを司るものは法則であり方程式であり、大きな神聖力である」
「その源を人はGODと呼ぶが、GODは人格をもつ有物質で作られている存在ではないので、人には決して見えず、言葉も持たない」
「ただ、その神聖力で心に伝えてくるのみの存在だと考えておる」
「ここまでは、神聖力の源としての『神』という存在に関するわしの仮説じゃ」
「さて、いよいよそなたの神聖力についてのわしの見解を述べるとしようかのぅ」
「リゲル・ラナという星には、神聖力の他に魔力・妖力・霊力とも呼ばれる力が生きていおる」
「先に説明した通り、世界は全てふたつの対峙する事象で成り立っている」
「善があれば必ず悪は存在してしまう。その均衡を保つことで世界は維持されているのじゃ」
「おそらく、この星に生まれた者は、すくなからず神聖力は持っているように思うのじゃよ」
「ただ、前星までの鍛え方で魂に差があるのじゃな。生まれ持った才能の違いのようなものだと考えるとわかりやすかろう」
「但し、どんなに才能があろうとも、それを鍛え培わなければ宝の持ち腐れになるのじゃ」
ここまでアレキサンダー先生のお話を真剣に聞いていたリリアーナが尋ねた。
「つまり、私にも神聖力があるかもしれないということですか?」
リリアーナが目を輝かせて聞くと、
「今は断言できぬが、素質はあるとだけ言っておこうかのぅ」
アレキサンダー先生は、椅子に深く座り直しながら、冷めかかったお茶をすすった。
リリアーナは、自分の中に大きな希望が生まれた気がした。
「では、ここからは、『Holy Mage』『White Mage』『Black Mage』そして白魔術と黒魔術師のような魔導士の違いを説明しておこうかのう」
「アレキサンダー先生、ちょっとお待ち頂けますか?」
「 今日は頭の中がいっぱいなので、ノートをとらせて頂けますか?」
と、リリアーナはノートとベンを取り出した。
「そのうち、脳に直接書き込む術も取得すると良いぞ」
「わしのように1000年以上生きていたら、記憶が全てになるからのう」
アレキサンダー先生は、そういって長いひげを撫でながら、ほっほほっと、笑った。
大学の寮である「ミラ・ローズ」に戻ったリリアーナは、自室の今日の授業を思い出したていた。
「今日は、わたしの知らなかったことばかりを学んだうえに、世界観や人生観を一転させられる事ばかりで頭がクラクラするわ~」
「でも、無知って恐ろしいことなのね」
「知らなかったら、知らぬまま一生を終えてしまったかもしれない。」
「そしたら、この星で生きたことが無駄になってしまうところだったわ」
「わたしも魂を磨いて行ったら、いつかはアレキサンダー先生やアラン様のようなHolyMageになれるかしら?いや、アラン様はHolyMageの中でも特別だもの無理ね。でも、少しでも近づきたい」
「うーん…でも、アレキサンダー先生が次に転生する星ってどんものなのかしら?」
「素晴らしい星なのかしら?」
そんなことを考えていたら、いつの間にか寝てしまい朝になっていた。
「まずいわ!」
「制服来たままじゃない!!」
と、慌ててベッドから飛び起きてシワだらけの服を脱ぎ、大急ぎで顔を洗った。
自室には浴槽は無く、一階の大浴場に行かなくてはならない。
「この時間なら朝風呂に入れるかな?」
と、準備してバトラーのハミルトンに確認しに行くと、背後から
「リリアちゃん!! _」
と、いう聞き覚えのある声がした。
「アイラちゃん、アイラちゃんも寮生だったの?」
その声に振り返ったリリアーナが驚いて尋ねた。
「そうなの。家族とレッドリオン公国から帝都に引っ越して来てはいるんだけどね」
「ここから通う方が便利じゃない?」
と、アイラは答えて、リリアーナの耳元に顔を寄せた。
「ただで、こんな美味しいご飯を食べられて、宮殿に住めるのよ?寮に入らない理由はなくない?」
と、アイラはそうつぶやきながら、ぺろりと舌を出した。
アイラも朝風呂派だということで、ふたり仲良く宮殿の豪華な広い風呂を堪能した。
リリアーナは、心の中で思った。
「もしかしたら、私の前星の行いは良かったのかもしれないわ」
「そうじゃなければ、こんな恵まれた生活はできないよね?」
「ということは、アイラちゃんもかな?」
と、湯船に浸かりながら考えていた。
アレキサンダー先生のお話は、リリアーナの人生観を一転させるものであったが、まだまだ聞いてみたいこと沢山あった。
アイラの言うように、知らないことはないかのように話は奥深く、既知に富んだ魅力的なものだった。
もっと色々教わりたいと思ったが、アレキサンダー先生は、皇室の専属相談役であり、大学には特別講師として稀に来るだけとのことだった。
それだけ偉大な方に一度でも会って話せただけでも貴重なことなのかもれない。
昨日のことは、一字一句忘れたくないなと思った。
それと同じくらい、ガブリエラ先生の『レッドリオン公国の成り立ち』の講義の続きが楽しみでたまらなかった。
そして、今また西の国境付近へ行くと言っていたアランの身を案じた。
「アラン様、辺境伯領付近へ行かれるとおっしゃっていたけれど、なんだか、ラファエル大公様の若い頃のお話を伺ってからだと心配になってしまうわ」
「どうか、ご無事に戻られますように!」
リリアーナは、アレキサンダー先生の言う神に祈らずにはいられなかった。




