第八話 氷晶の魔装
重たい瞼をゆっくりと開いた。
かすれた視界が映し出したのは地面に這いつくばる骸骨の魔物。
……徐々にはっきりとしていく視界。
壁面全体を覆った分厚い氷の膜が化物の姿を反射していた。
「これが俺なのか……」
……人では無い……魔物でも無い。
“これ“は何だ?
『我の声が聞こえるか?』
クレイの声が念話を通して聞こえる。
『クレイ?……何処だ、何処にいる!?』
『そなたの中だ、アキリ』
『何っ?』
『只今、融合が完了し我らはこの世界において比類無き強さを得たぞ』
『……どういう事だ?』
『そなたは最強の名を冠する【魔装使い】になったのだ』
『魔装……使い』
氷に映った自分の姿をもう一度見てみる。
髪と目は淡く発光をした水色をしていて、透き通るような肌はクレイのそれよりもさらに白い。
そして何処から現れたのか、白と水色でまとめられた豪奢な異装を身に着けている。
背中のマントは細長く五つに分かれ、蛇腹剣を思わせる刺々しい形状の物がゆらゆらと垂れ下がっていた。
人型ではあるが、あまり人らしさは感じない。
人と魔物の中間くらいの位置づけのように感じられる。
『う〜ん……何とも面妖だな』
『おい、気を抜くなアキリ。骸骨の攻撃が来るぞ』
『っ!?』
奥に見える骸骨に動きがある。
「「「ガガガガガガガァー!!!」」」
骸骨が放った怒号が迷宮内に反響する。
大きく開かれた髑髏の顎に真紅の魔力が収束していく。
這いつくばった姿勢のまま、固定砲台のように手足で体を地面にロックさせて特大のエネルギーをこちらにぶつけるつもりだ。
『この狭い迷宮でアレを放たれるのは不味いぞ。こちらが先に仕掛ける、奴が発動する前に特大の水魔法で吹き飛ばせ』
「了解だ」
剣先を骸骨に向けたとき、剣の形状自体が大幅に変わっている事に気付く。
分厚くゴツいがどこか流麗さを感じる。
蛇腹剣に似た凹凸のある刃が特徴的だ。
「すまない、魔法を使うにはどうしたらいい?」
『使いたい魔法を頭で想像しろ。それが実現可能な物なら勝手に魔力が集まっていく。後の調整は使い手次第だ』
『よし、じゃあ初魔法試してみるか』
蛇腹剣の先端に青白い魔力が溜まっていく。
刃の裏側の傘になったような部分に追加する形で氷の装飾が形成された。
装飾がファンのように空気……いや魔力の吸込みを始める。
周辺に霧散しそうになっている魔力を物凄い勢いで過吸引し、掻き集め、氷の砲台は攻撃準備を完了させた。
迷宮ごと破壊しないように力を収縮させ、骸骨にだけ当たる太さになるように調整する。
そして俺は突き出した剣先から魔力の渦を放出させた。
爆発音のような音が轟く。
魔力の反動で壁面の氷が一斉に悲鳴ような甲高い音を出しながら割れたいった。
剣先から放たれるビームの如き水魔法が骸骨を迷宮の出口の方に向かって一気に吹き飛ばしていく。
魔法は収束していくが骸骨の姿は既に見当たらない。
『一気に追うぞ。アキリ、飛行をするのだ』
「飛行!?それは飛ぶって事か?」
『当たり前だ。背面に分かれた形でマントが付いている。それが翼の代わりとなり我らを飛翔させるのだ』
『そんないきなり言われてもな……』
『想像しろ。そなたにならそれくらい出来る』
『まぁ、クレイにそこまで言われたら……いっちょやってみますか』
自身の背面をイメージする。背中に付いた蛇腹剣のようなマントが魔力の放出を始める。
ゆっくりと浮かび上がる俺の体。
体を前傾に傾かせ飛行を開始する。
「と、飛べたぞ!?」
『いい感じだ、このまま奴との距離を縮める。
もっと速度を出していけアキリ』
「了解だ!」
背面の魔力を一気に放出させ加速する。
全身を覆う魔力の層が風の抵抗から身を守ってくれた。
『クレイがやってくれたのか?』
『この程度、造作も無い。そなたは戦いに集中しろ』
クレイの気遣いに喜んだ全身がビクつく。
魔装使いになっても人間としては変われなかったようだ。
飛翔を続けていると、あっという間に骸骨を捉える。
水魔法が消えた後もその反動で浮遊しながら吹き飛んでいるのだ。
骸骨も俺を捉えたようで真っ赤な視線と目が合った。
途端、骸骨の形状がさらに変化する。
背中から恐竜の骨格のような翼を生やし奴は空中でのコントロールを得たようだ。
迷宮の出口が近付く。
決戦の場として両者共に空中戦へと移行を決めたのだ。
異世界の空は絵画で見たような濃淡の強い幻想的な風景だった。
灰色と濃い青が混ざったような広大な空、分厚い雨雲がゆっくりと動いている。
その間を照らすように太陽の鈍い光が雲に反射している。
見下ろす地面はまばらに緑の生えた丘陵のようで遠くに見える森の木々は西洋の品種に近かった。
魔装使いとしての初戦は最終決戦のような趣きで開始されるようだ。
高く飛んだ骸骨を捉える。
『一気にかたをつける』
『その意気だ』
骸骨は空中で反転し、こちらに対して赤い砲撃を放って来る。
五つの手から放たれる光線は大気をつんざくような音を鳴らしながら高速でこちらに迫ってきた。
魔力を放出しながらクイックに避けていく。
上下左右に動いて光線の軌道からずれるように加速する。
そして眼前に骸骨を据えて魔力を込めた一太刀を振りかぶった。
それを受け取れる骸骨の剣。
さらには空いた手で追加の光線を放とうとするが……しかしそれは叶わない。
俺の剣に触れた時点で奴の全身は氷ついているのだ。
動かない骸骨、俺はクレイの技のような回転蹴りで奴を上方へと蹴り上げた。
物凄い勢いで吹き飛ぶ骸骨。
最後の悪足掻きだろうかこちらを向いた頭部が赤く光っている。
表情の無い髑髏はしかし怒りに満ちていた。
「無駄な足掻きだぜ」
『無論だ』
奴の願いが果たされる事は無い。
剣先に魔力が集中する。
剣に装飾された氷の刃ファンのように稼働し周辺に散らばる骸骨の魔力まで吸収、濾過をしてこちらの魔力に変えてくれる。
そして骸骨を滅ぼす一撃が放たれた。
眩い光を放つ青白い斬撃が極大のビームのように空間ごと襲い掛かる。
空を覆う厚い雲を突き抜け、暴走した骸骨の魔物跡形も無く消滅させた。
「……やりきったな」
『うむ、我らの勝利だ。此度の戦い、なかなか良かったぞ』
空中に一人佇み、俺達は二人で戦った初めての勝利を噛み締める。
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今回で迷宮脱出のプロローグが終わりとなりました。
明日の更新から新しいキャラクターが登場します。
お付き合い頂けると大変嬉しく思います》