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第五話 死灰の骸骨騎士

空腹で目が覚める。

寝起きから元気な半身を見て調子が良いなと確認。

そんな俺の横ではクレイが既に目覚めていた。

事もなげに天井を見つめていた無表情な彼女と目が合う。


「おはよう」


「うむ、おはよう」


彼女も上体を起こし目線が近付いた。


「調子は良さそうだな、軽く水浴びをしたら食事にするぞ」


彼女の立ち上がった動作で巨乳がゆさゆさと揺れて、踏みしめた足の反動で跳ねるように臀部をブルンと震わせた。

朝元気をそのままに俺とクレイは軽く水浴びをしてから衣服を身に付ける……当然俺はマントだけだった。

食事を取るため、クレイが持参した小袋から栄養濃縮棒を取り出す。

手で半分に折るとまた失敗すると思ったのか今回は半分まで彼女が齧り、残った物を手渡された。


「この方が正確に量を分けられる」


そこまでしなくても良いのにと思ったが彼女の思い遣りは素直に嬉しい。


「頂くよ、ありがとうクレイ」


彼女は既に咀嚼を始めている。口角を引きつらせたニヒルな顔は食事に満足している事を意味していた。


「やっぱ美味いなこれ、迷宮から出たらもっと沢山食べたいくらいだ」


「濃縮棒の美味さについては無論の事だが、食べ過ぎると臓器に負担を掛けるらしいぞ?」


「そりゃそうか。このサイズで腹を満たせる訳だし胃に詰め込みまくったら絶対に体のどこか壊すよな」


「うむ、そういう事だ」


そういえば異世界の食事事情ってどうなってるんだ。

まだまだ知らない事ばかりだが、そんな当たり前な事にも興味を向けられるくらい余裕が出できたのかと軽く自嘲した。


「一息ついたら出発するか?」


「我はもう行けるぞ、そなた次第だ」


「じゃあ行くか……わりぃ、その前に水分補給してもらっていいか?」


「だから悪くはないと言っているであろう」


クレイが近付いて来た。

阿吽の呼吸で俺はしゃがんだ体勢を取る。

そういえば、胸を下から支えるんだったっけ。

考えている内に彼女の唇はもう目の前だ。

心なしか躊躇しているように感じるクレイの動きに思い当たる節がありすぎる俺は酷く申し訳なない気持ちになる。

まぁ胸は支えるんだが……

水分を飲ませて貰うためクレイと口づけをして、俺は胸を支えようと手を添えた。


「こ、今回は支えなくて大丈夫だ」


クレイに拒否られてしまった。

確かに俺の感覚が麻痺していただけで普通に考えれば胸支えないよな。

記憶が合っていれば提案したのは彼女だが……


「すまない、嫌だったか?」


「そうではないぞ!……今回は必要無いのだ」  


強く否定されるとますます分からん。

取り敢えず今は有り難く飲み水を貰うとしよう。


「そうか、それじゃあ頼む」 


「いくぞ」


クレイが口の中で水魔法を生成して、それを俺は口移しで飲んでいく。

回数をこなせば慣れるようなタイプの恥ずかしさでは無いなと思いながら彼女の唇に吸い付いた。


「っん……んっく」


何かやたらとクレイが熱を発している気がするが気のせいか?


水分補給が終わり体を離す。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


「ありがとう……様子がおかしいが、どうかしたか?」


「……問題無いぞ」


「……もしかして魔力の使いすぎか?だとしたら無理させたよな。ごめん」


「違う、本当に大丈夫だ」


そう言ってクレイは手で胸を抑えている。

そのまま様子を見ていたがしばらくしたら落ち着いて、いつもの無表情な彼女に戻っていた。


「待たせたな、もう行けるぞ」


「分かった、何かあったら言ってくれ」


「……うむ」


前より少し距離を感じるような気がするが今は迷宮の脱出に意識を切り替えよう。

いつまでも同じ場所で留まっていたら出られないからな。


そうして俺達は行動を再開する。

出口に向かう途中、魔除けの湧き水が出ている場所がいくつかあった。

そこで途中休憩を挟みつつ順調に足取りを進めていく。

現れる魔物といえばスライムくらいなので俺一人で処理した。

クレイが指示してくれた事もあり同時に三匹までなら既に相手取れる。


「油断すれば足元を掬われるぞ」


「安心しろ、そんな余裕無い」


「それはそれで駄目だ、戦闘には多少の余裕を持って挑め」


クレイが繰り返し注意をしてくれるから俺は調子に乗ることなく少しづつ戦い方を覚えていった。

サイズの大きいスライムも剣の当て方を次第で切り倒せる。

彼女の言った通り実戦による成長速度というのは想像以上だ。


このまま何も問題が起こらず迷宮を出られる、とその時までは思っていた。

楽観視……俺は甘く見ていたんだ迷宮を。


「……あいつ何だ!?」


コツン、コツン、コツン……

俺達が進む先、その奥の方から妖しい瘴気を纏った灰色の骸骨が歩いてくる。

さっきまであんなのいたか!?

俺はその禍々しさに言葉を失う。

骸骨は全身が深い灰色に染まっていて片手には大振りの剣、体の部分は骨と鎧が歪みながら混ざったような見た目をしている。

眼球部分は黄金に輝き、時折脈を打つかのように全身を光が駆け巡った。

どう見ても化物!それもとびきりヤバい奴。


「……闇種だ」


クレイが重々しく口を開く。


「迷宮には時折現れるんだ。探索する者を殺戮する化物じみた強さを持つ魔物が。

それが今、目の前にいる……あいつだぞ」


「闇種?」


「全身に闇を思わせる暗い瘴気を纏っているだろう?

それとあの黄金に光った目。どちらも闇種の特徴的な要素だ」


確かに邪悪かつ目立った外見をしている。

なるほど、殺戮の魔物と言われても否定する要素が無い。


「下がっていろアキリ。我が一人で対処をする。

分かってはいると思うが足手まといになるから余計な手出しは無用だぞ」


「クレイ!?」


「ここから抜け出せ。我が隙を作るからそなたは逃げろ」


「一人で勝てるのか?」


「無論だ」


「じゃあ俺も逃げる必要は無いな、遠目から観戦させてもらう事にする」


「おい、我は危険だと言っているのだ!言う事を聞け!」


「何で俺を助けてくれるんだ?」


「……無駄話をしている暇は無いぞ」


「教えてくれよ、クレイ」


「巻き込まれて無駄死にするかもしれないからだ。我はそれを良しとしない……それだけだ」


「俺は別に死んでもいいぞ、クレイをここで一人残していくくらいならな」


「勝手な事を言うのだなそなたは。

格好を付けるのも時と場合を選んだらどうだ」


「格好は付けて無いさ。こんな俺にも曲げられない物がある。それだけだぜ」


「そなたのような奴を愚か者だというのだ」


「愚かで結構。あのなクレイ、仮に俺が逃げられたとしても君が死んだら終わりなんだ。

話したろ、一緒にいろんな迷宮を探索するって。

俺は本気にしたからな、あの時の言葉!」


「それは……」


「雰囲気で分かるんだよ、クレイ一人じゃ勝てないかもしれないって。

だから俺の意思で戦う。君を置いて逃げたりしない、絶対にだ……」


「……まったく。強情なのだなそなたは。

いいだろう、その覚悟があるなら共に戦うぞアキリ」


「そうこなくっちゃな」


「しかしアキリ、今のそなたの実力では足手まといなのは事実だ。何か策でもあるのか?」


「あるっちゃあるが、まぁクレイ頼みになる。

聞いてくれるか?」


「早くしろ、あまり時間は無いぞ」


「いや大した事じゃない、単なる挟み撃ち作戦だ」


「挟み撃ちか……なるほど」


「この通路、一本道を利用して俺とクレイの直線上の中央に魔物が位置するようにする。

基本的にはクレイが正面を俺は背後から追加攻撃を行なって相手を撹乱させるんだ。

魔物の注意が俺に移ったときはとびきりの一撃をかましてやってくれ」


「悪くない、合理的な作戦だ。だが少し我が工夫を加えるぞ」


「工夫?」


「うむ、そなたの動きは我が全て指示をする。

それが今の我らにとって慣れ親しんだ最適な戦い方だ」


「強い魔物と戦いながら、そんな器用な事が出来るのかよ?」


「あまり我を侮るなよアキリ?

そなたは指示を送った部位を斬りつけてくれればいい。

生憎あいにく、奴は人型だ。我らも連携を取りやすいだろう」


「確かにな、それじゃあ頼もうか。

俺もそっちの方が良いと思うから指示でも何でもこき使ってくれ」


「うむ、それと少しそなたを強化しておく。剣を前にかざせ」


「ああ……こうか?」


「それでいい、今から我の魔力を注ぎ込んで氷の力を付与させる。そなたの実力だとこの剣の真価はまだ発揮出来ないから、損傷ではなく氷の力で相手の動きを固める事に意識を向けて欲しいのだ」


「それは良いアイデアだぜ。氷の力ってそんなに強いのか?」


「刀身に触れるなよ。普通に怪我じゃ済まないからな。それと剣を通じて念話を出来るようにしておいたぞ」


「念話だと!?」


『聞こえてるかアキリ?』


クレイの声が直接頭に響いてくる。


「うわっ!……聞こえる。ちゃんと聞こえてるぞクレイ」


『成功したみたいだな、そなたからも何か念じてみてくれ。頭の中で伝えたい言葉を投げつける感覚だ』


「ああ、やってみる」


『…………いつも思ってたけど、クレイって本当に可愛いよなぁ』


それを聞いたクレイがジト目になる。……レアな表情だ。

そして近付いて来たクレイがこちらを見ながら一言。


「そういうのは直接、口で言って欲しい」


「うっ」


可愛いダメ出しだった。

戦闘間近である事を失念しそうになる。

勿論、原因を作ったのは俺。


「ふんっ」


肘で軽く小突かれた。

彼女も現実世界に戻って来たのだろう。

張り詰めた表情はしかし先程より余裕がある。

この場合それが正しいのかは分からないが。


気を取り直して魔物の方を向く。

さっきより大分距離が近くなっている。


「俺達、勝てるか?」


「はぁ、急に弱気な発言をするなそなたは。

先程までの頼もしさは何処に行ったのだ」


「すまない……」


「案ずるな、いざというときの秘策も用意してある。それで無理なら諦めた方が良いくらいの物をな」


「もしかしてそれって例のゴーレムの話か?

やっぱり剣と融合するのが秘策なのか?」


「違うぞ、あの状態より我が分離して戦った方が強い。あと例のゴーレムとはなんだ。

ウェポンズゴーレムである、失礼であろう」


「分かったよ、いつの間にか魔物が近くまで来てやがる。文句は倒した後に聞くぜ」


「調子の良い奴だ」


魔物との距離は5メートルも無い。


「そんじゃよろしく頼むぜクレイ」


「うむ!」




《この度は【クレイモア戦記】を読んでいただき誠に有難うございます。


続きを読みたいと思われましたら評価やブックマークをして頂けると大変ありがたいです。


また感想やご意見なども気兼ねなくお書き下さい。


作品の質を向上出来るよう努めて参ります


投稿時間は出来るだけ安定させたいと思っています。


応えられるかは分かりませんが、ご希望の時間などがございましたら感想ページ等に書いて頂ければ参考にさせていただきます。


現状では朝の5時〜6時が良いのかなと判断しております。


話の区切りまで後一話掛かる事になりました。予定からずれてしまい至らなさを痛感しております》

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