第二話 空腹の解消方法
俺達のいる建物は天井も石張りだが、壁に埋め込まれた光る石が電球の役割を果たしていて視界は良好だった。
俺と行動を共にしている少女【クレイ】は歩く度にその豊かに実った乳房を上下に揺らしている。
彼女は小柄で身長は150台半ばだろうか。
胸元が開いているので必然的に身長差で上から谷間を覗ける形になってしまう。
「なぁクレイ、君はここから出口までの道のりが分かるか?
取り敢えず歩きだしたは良いがこの道で合っているか心配なんだが」
「問題無い、このまま一本道を進んで行けば出口に辿り着く」
「そうか、ならいいんだけど。
それと此処がどういう建物か教えてくれないか?」
「此処は最近出来た迷宮。
新しい迷宮はアキリみたいに面白い物が落ちているから我もこうして探索したりしているのだ」
「俺は物か!いや迷宮に人が寝そべっているというか、死んでたりする事はよくあるのかよ」
「我の知る限り全裸で寝ていたのは、そなたが初めてだアキリ。
だからつい気になってしまったのだろうな。
男の裸を見たのも初めてだったからつい観察してしまったぞ」
「観察してないで起こしてくれ。
あと裸なのは別に俺の趣味じゃ無いからな。
こちとら記憶が曖昧な訳だし、露出癖呼ばわりされるのは不服だぞ」
「我は起こそうとしたぞ。
起きなかったのはそなただ、だが下腹部を触っている時に一部分だけとても元気に起きていたな……アキリお前の股に付いているそれは何なのだ」
「なんすかその羞恥プレイ!俺寝ている間に体を弄ばれていたのか!起こそうとしてくれたのはありがたいが人の体で遊ばんでくれって……え、待って股に付いてるこれ、知らんの?」
「うむ、寡聞にて知らん」
「嘘でしょ……」
「少しだけ知ったぞ、握るとデカくなるのだな」
「やめろ……それ以上言わないで下さい」
「しかしさっきは握ってないのにデカくなっていたな……一定時間で大きさが変わる代物なのか?」
「違います、敢えて言うなら感情に左右されたりしちゃいます」
「なるほどなぁ、では今またデカくなっているのはどんな感情なんだ。教えろアキリ」
「恥ずかしいけど見られて嬉しいという感情です」
「やっぱり露出を楽しんでいるのだなそなたは」
「ごめんなさい、さすがに否定出来ません」
「……なるほど何となくわかったぞ、そいつは性器だな」
「…………う〜ん、ご名答!」
やべぇ会話を切り上げて俺達は道を進む。
周囲の景色はあまり変わり映えしない。
「どれくらい歩けばここを出られるんだ、半日くらいか」
「我が此処に入ったのは数日前だ。無論出るにも同じくらいの時を必要とするだろう」
「ん?つまり食料とか飲み物を摂らないと死ぬかもしれないじゃないか!クレイは数日間どうやって過ごしたんだ」
「食料ならあるぞ」
「流石だクレイ!何処にあるんだ」
「此処だ」
そう言ってクレイは胸元に手を突っ込みおもむろに小さな袋を取り出した。
クレイの汗で濡れたそれは表面が湿っている。
「いろいろと突っ込みたい気持ちを抑えて聞くがそれが食料か?」
「そうだ」
「少なっ!」
「何を言う、この袋に入った【栄養濃縮棒】は一本食べれば一日は腹が空かないすぐれものだぞ。
……だが確かにこの量で二人分を賄うのは不可能と言える」
「まじか、やばいなそれは……迷宮で食料は取れないか?食えれば何でもいいんだか」
「無論ある、魔物を食べればいい」
「魔物って食べれるのか……
まぁ何でも良いや、空腹よりましだし」
「大半は美味しく無いがな」
「それは想像できる、そういえば結構歩いているが魔物に出くわさないな。
クレイは来る途中に遭遇したか?」
「ああ、我に歯向かって来た奴は全て殴り伏せた」
「剣を使えよ!でもやるなぁ、じゃどっかに魔物の死体が落ちてるんだな?」
「それは無い此処で死んだ生き物は全て迷宮に吸収される。我が殺した魔物は既に痕跡すら残していないだろう。それは人も例外でない」
「何それ恐いな、それだと全裸で迷宮に寝そべる男はかなりレアな光景になるよな」
「当然だ、そんな趣味をしているのはそなたくらいであろう」
「趣味じゃねぇし、もういいけどさ」
グゥ〜
そんな話をしていると俺のお腹が勝手になった。
食料の話をして意識してしまったのか、結構腹が減っている事に気付く。
「空腹か、アキリ?」
「いや悪い、気にしないでくれ」
「仕方の無い奴だ、私の濃縮棒を半分やろう」
「残り少ないのに、良いのか?」
「ああこれから戦闘になるかもしれないときに空腹だと動けないからな?
その分しっかり働いて貰うぞ」
「ありがてぇ、感謝するぜクレイ!」
そう言って半分〈1/3〉を俺は受けとった。
半分に割れなかったのを悔やんでいるのかクレイは苦い顔をしている。
彼女の本意は分からないが残りの棒を口に放り込んだ後、少しにやつき、また無表情に戻った。
多分美味しいのだろう、しかしニヒルだ。
俺も顔にカロリーバー〈1/3〉を近づけてみる。
んっ!?何だこの独特の匂いは!
この匂い恐らくクレイの体臭が移っているに違い無い。
そりゃあんなところに保管していたら匂いも移っちまうよな!
妙に濃厚な香りのする食料を口に入れる……
「上手い……これかなり上手いぞクレイ!」
「であろう、だがさすがに喜びすぎだぞアキリ」
そう言って彼女は視線を落とす。
俺の半身は喜びのダンスをしていた。
「何だこれコントロール出来ない、匂いに反応しちまったんだ」
「そなたの半身だろ?ちゃんと躾けておけ」
「そうだな……本当に申し訳ない」
貴重な食料を飲み込んで腹を満たすと今度は喉が乾いてきた。
そういえばクレイはどこに水分を携帯しているのだろう?
「クレイ、悪いんだが何か飲み物を貰えないか?喉が乾いてしんどいんだ」
「良かろう、そこにしゃがめ」
「ああ、こうで良いか?」
喉が乾いていて判断力が落ちたのか、俺はクレイの言葉に疑問を持たず膝立ちになった。
「では水を出す、しっかり飲むのだぞ」
そう言ってクレイは俺にキスをした。
彼女の口から溢れ出す水流を俺は全力で受け止めた。
何を飲まされているんだと思いながら唾液では無いなと確信している。
さらさらとした水分は甘い。
それが何の味なのかはさて置いて彼女の小さな口と、思わずむしゃぶりつきたくなる程柔らかい唇の感触に俺は夢中になっていた。
フワフワした頭でクレイを見ると彼女もまた恐らく俺と同じような表情をしていた。
数分間の口づけが終わり彼女が離れる。
赤く火照っ頬はやけに色っぽかった。
「どうだ。フンッ、美味かったみたいだな?」
彼女が視線を落とす。
俺の半身が逆立ちした状態で固まっていた。
怒髪天を突くとはこのことよ。
半身は衣服を着てない俺の腹をペチペチとドラミングしている。
今なら軽く触れただけで暴発するだろう。
俺からすれば、まだ暴発してないほうが不思議なくらいだが。
「アキリの半身は三日月のようで中々おもむきが有るのだな」
そう言って彼女は横から覗き込んでくる。
俺は華麗に無反応を決め込んだ。
「なぁ、いったい何を飲ませてくれたんだ?
特殊な飲み方をしたせいでかなり気になるんだが」
「そなたに飲ませたのは我の水魔法だ。
粘膜から発現させる事により飲料水として問題の無い水質の物を出す事が出来るのだ。
我が我の分の水を飲むときは直接口の中に魔法を発現させて、それを飲んでいる」
「そうなのか」
「そうなのだ、しっかり覚えておくのだな」
水魔法を飲むという発想は無かった。
というより初めての魔法体験が口移しになるとは異世界に旅立った数多の先人達と比べても稀有な体験が出来たんじゃなかろうか?
「ああ、取り敢えず美味かった!
ありがとうクレイ、元気が出たぜ」
「ならば先を急ぐとしよう。
この先に雑魚だが魔物の気配がある、アキリにはそいつの相手をしてもらうぞ」
「分かった、だけどクレイは戦わないで俺一人でやるのか?」
「無論だ、我が手を出したらそなたの為にならぬ。
剣の使い手としての手解き、我が直々に教練してやるぞ」
「少し心配だが、まぁお手柔らかに頼むな」
「うむ、では行くぞ」
そのまま歩いて行くと薄っすらと魔物の影が見えてきた。
いったい何がこの先にいるのか、不安と好奇心が混ざった感情で俺は歩を進める。
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