第十ニ話 川辺の告白
クレイの道案内の元、俺達は近くにあるという村に向かった。
気絶したラウラを俺がおぶり、ラウラのクソでかいリュックはクレイが背負う。
二つの重さを比べたところラウラの方がそれでも重かったので、この分担になった。
「なぁクレイ、村まではどれくらいで着くんだ?」
「このペースで歩けば数時間で着くぞ」
「そこそこ掛かるな。こいつが目を覚ませば楽なんだが」
そう言ってラウラをおぶり直す。
尻と太ももの中間くらいを下から支えてるが駄肉が結構指に沈み込んでくる。
耳元から聞こえる寝息はとても安らかで少し可愛い。
いつもの俺であれば多少の興奮もするのだろうが、しかし今はピクリともしなかった。
「クレイの顔、久し振りにゆっくり見だ気がする」
「うむ?先程から一緒に居たではないか。
何となく言っている事は分かるが……」
「短時間にいろいろありすぎてな……そういえば迷宮の出口、何の変哲もないない横穴だったな。どうしてアレがあんな奥まで続くようになっているんだ?」
「迷宮とはそういうものだ。一種の魔法空間のようなもので、入口さえあれば中の大きさは様々らしい」
「なるほどなぁ……」
「それはそれとしてアキリ、そなた先程、我の事を嫁と言っていたな。あれはどういう意味だ?」
「あぁ、それはな……」
あの時勢いで口走ってしまった事を思い出す。
クレイにしてみたら雑過ぎて失礼な言動に思えるかもしれないし……
良い機会だし思いの内をここで伝えようか?
いや、止めておこう。
「クレイ、その話はまた後でしよう。二人の時に話したい。それでもいいかな?」
「何だ、もったいぶるような話か?別に我は構わぬが」
「ならその話は後でな……」
俺達は軽い雑談をしながら村への道のりを進んで行った。
日も大分傾き、空の色は夕暮れだ。
村に入る際、俺の姿を見た門番に止められそうになったがクレイとおぶったラウラが一緒だったのもあって、訝しまれながらも村に入る事が出来た。
マントに女の子の縞々パンツ一丁でも何とかなるもんだ。
宿と食事の準備をする。
どうやらこの村には宿泊用のコテージがあるらしい。
近くの川を望む事が出来て、なかなかに景観が良いみたいだ。
クレイのおごりでコテージを借りる。
仕方が無いからと安い衣服の一式まで買って貰った。
優しい女の子の心遣いに俺は絶頂しそうになる。
ラウラのリュックから金をぶん取る事も考えたがクレイ曰く「卑しいぞ」との事なので止める事にした。
その潔癖さ……素直に射◯です。
コテージには4つのベッドがあるから一人一ずつつ使っても問題無いな。
ベッドにラウラを運び、クレイに置き手紙を書いて貰う。
腹が減ったので俺とクレイは食事に行く。
「ここ、酒場と食堂が併設されてるのか」
そこそこ賑やかな食事処で店員が席に案内してくれた。
「ご注文が決まりましたらお声掛け下さいね」
店員は若い女性で、はつらつとした声で仕事をしている。
異世界の食堂には何があるんだと思い、メニューが書いてある木の板を見てみる。
残念ですが俺には読む事が出来ません。
「クレイ、すまないが俺の注文も一緒に頼めるか?恥ずかしながら文字が読めない……」
「分かったぞ。代わりに読み上げてやるから、そこから選べ」
「助かる、ほんと優しすぎるぜクレイ……おごりだしな」
「金については後で返して貰うつもりだ。我は忘れぬぞ」
「おお、勿論だ。ちゃんと色を付けて返すぜ」
俺は【鶏肉と乳のスープ】とパン。
クレイは【獣肉のステーキ】と野菜スープとライス。
をそれぞれ頼んだ。
クレイのご厚意でラウラにサンドウィッチまで用意した。
気配りな彼女の気立ての良さに俺の遺伝子工場が本気稼働をしている。収まれ……収まれ……
食事自体はかなり美味くて、異世界の飯で悩む事はあまり無いかなと思った。
「宿代に8千ゴールド、シャツとズボンに1千5百ゴールド、飯代に約2千ゴールド使ったから、手持ちの金が無くなったぞ」
「ああ……」
村に入った後、所持金を確認したクレイが1万3千ゴールド、持っていたようで余裕を見せていたが……「フッ余裕だぞ。我に任せろ」
彼女は羽振りはいいが先の事はあまり考えなかったらしい。
そもそも日本円換算だと心許ないにも程がある。
「おい、道中で食べる携帯食料が買えないぞ」
クレイは普通に絶望していた。
「あいつから借りよう。それしか無いよ……」
「うむ、致し方無し……だ!」
俺達はサンドウィッチを持ってコテージに帰る。
ドアを開けようとしたとき中から声が聞こえた。
えっ誰かいる?
しかしラウラ以外の声だと思い警戒してしまった低い声は、よく聞けばラウラのものだ。
彼女が逃げる可能性も考えてはいたが、どうやらそれは無いらしい。
「あいつ何してんだよ?」
「確かめる必要がある。早く開くのだ」
俺はドアを開く。
そこにはベッドの上で一人遊びに耽るラウラが居た。
「おほぉっ……おっ、おっ…………ええっ!?」
暗がりの中、目の合ったラウラが驚きながら沈黙する。宙に浮かんだ腰がその姿勢を維持したままで滑稽に見え……いや、小刻みに震える圧倒的密度の下半身がエロい!
ラウラの奴、何て肉の量してんだ!
しばし見つめ合った後、俺は静かにドアを閉じた。
気を取り直し、今後の予定についてコテージから少し歩いた先にある川辺でクレイと話す事にする。
「この村を出た後、何か予定はあるのか?」
「一旦、我の住んでいる街に帰るつもりだ。そなたさえ良ければだが?」
「全然いいぜ。別に急いでやる事もないし、クレイの住んでいる街を見てみたいしな」
「そうか、その方が我も助かる。街に戻って準備をしたら、また迷宮に潜ろうではないか」
「楽しみだな、俺も少しは力が付いたがまだまだだ。これからもよろしく頼むよクレイ。もっといろんな迷宮を探索したい」
「無論だ。アキリ、聞いておきたいのだが、そなたはいつまで我と共にいるつもりだ?」
「えっ!そうだなぁ〜、ちゃんと考えた事無いけど……」
「無いのか?我はこの先もずっと共にあるつもりだぞ」
「えっ!?」
「そなたは魔装形態にまで至った特別な存在だ。
それに嫁、なのだろ。我はそなたにとっての……」
「クレイ……」
ただ驚きがあった。
ただ、彼女の思いがどうであれ、続きをこれ以上言わせる訳にはいかない。
それを言うのは俺の役目だからだ。だから先に言わせてくれ。
「俺はクレイの事が好きだ……初めて見たときからずっと」
「う、うむ」
「君を見たとき、すごい可愛いって思った。初めてだったよ。心が壊れそうになったのは」
「心が壊れるのか?」
迷宮での自分の醜態を思い出す。あの時、パニックになった俺を膝枕で落ちつかせてくれたんだよな。
今でも鮮明に覚えている。
クレイの事を考えると胸が痛くなり始めたのはあのときからだ。
「ああ、だから俺からも頼む。クレイ、俺と一緒にいて欲しい。まだ先の事なんて何も分からないけど、君と居たいから俺はもっと強くなるよ」
「うむ、我もそなたの事が好きだぞアキリ。
しっかりと強くなりたい意思も伝わる。なのに何故、もっと我を求めぬのだ」
「それは……どういう……」
「何故、ラウラとは身体的接触をしているのに我とはやらぬのだ」
「ああ、そうか。そういうことか……」
クレイはいつも無表情だから気付かなかった。いや俺は分かってだけど無視していたんだ。
彼女は嫉妬している。本人にその自覚はないかもしれないが……確かに俺は彼女を傷付けていた。
「気付かなかったよ。自分の馬鹿さ加減に……今からでも良いかなクレイ?俺は君ともっと深く繋がりたい」
「繋がる?」
俺は横に並んだクレイの顔と向き合う。
彼女はいつもと同じ無表情だ。
俺はゆっくりと、その繊細で綺麗な顔に近付いていく。
「好きだクレイ……」
唇を奪う。
最初は優しくゆっくりと。
「アキリ……」
彼女が火照ってきたのを感じる。
そのまま少しずつ激しさ増しながら俺達は口づけを続けた。
赤く染まったクレイの顔を確認する。
肌に伝わってくる体温が熱い。
俺は彼女の肩を抱き寄せコテージに向かった。
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当初の予定通り投稿時間は固定したいのですが、しばらくは時間がまばらになるかもしれません》