第十話 幻惑の名は
俺はラウラから受け取ったパンツを履いてみた。
サイズに心配はあったが、よく見るとラウラは尻がクソでかいので履けるのは道理である。
「何とか履けそうだな、伸びる素材で助かった」
「ウチも渡した甲斐があるっす!」
これで安心して人に会えそうだ。
「ありがとうラウラ。君のパンツ、少し締め付けはあるけど素材が良いね」
「それ、ウチのお気に入りなんすよ〜。大事に履いてくださいっす!あと、お兄さん靴も履いてないっすよね、男性用のサンダルならあるっすけどいるっすか?」
「それは助かる、サンダルも貰えるか」
「はいっす!」
地面にしゃがみ、リュックをガサゴソと漁り始めるラウラ。
肉付きの良い彼女の尻が柔らかい生地のショートパンツをガッツリと食い込ませている。
「じゃあこれどうぞっす。パンツと合わせて合計5万ゴールドっす!」
「何だ、金を取るのか?」
「当たり前っす。これはれっきとした商売っす」
正直話の流れでタダで貰えると思っていた。
彼女は一応商人なんだし金銭にしたたかなのは当然である。
「あいにくだが金の持ち合わせが無い。というより値段が高くないか、内訳はどうなってる?」
「ウチのパンツが4万5千ゴールド、サンダルが5千ゴールドになるっす」
「パンツの価値がたけぇな……」
『クレイはいくらぐらいゴールドを持ってるんだ?』
『8千ゴールドでくらいであるな。無論、我は出さんぞ』
『大丈夫、気になっただけだ』
円換算するとサンダルは妥当だが、いかんせんパンツが高すぎる。
「なぁラウラ、パンツの値段があまりにも高い、支払いはきっちりするから価格をまけてくれないか?」
「う〜ん。えぇと、お兄さんの強さなら迷宮で荒稼ぎ出来ると思うんすよね。だから出世払いでいいので値段は据え置きっす!」
「流石に商人だ、そういう事なら構わない。
ちなみにパンツの原価はいくらになる?」
「そのパンツは3百ゴールドっす!」
「分かった、付加価値が高過ぎる……」
「それと今回は後払いでいいので利子として少し護衛をお願いしたいっす」
「護衛?」
なんだか不穏な響きだ。
ファンタジーの護衛任務ってのは大抵、面倒事が絡んで来る。今回の話はその匂いがプンプンするぜ。
「はいっす!近くに迷宮探索用の駐屯地があるんすけど、ウチはそこに営業に行く途中だったんす。ウチ逃げ足には自信があって今まで殆ど護衛を雇って来なかったんすけど、最近なにかと物騒じゃないっすか!なので今回はお兄さんに守って貰えたら安心なんすよ!」
「なるほどなぁ」
マントに縞々パンツ、サンダルという見た目だけで言えば人を襲う側の出で立ちだが、それすらも牽制の役割を果たすかもしれない。
この少女、なかなか合理的だ。
だが一つ甘いとすれば俺に対して信用し過ぎている。そんな事で商人が務まるものか?
「君は俺を信用し過ぎじゃないか。裏切りなどは考えないのか?」
「それは無いっすね。ウチはこれでも商人っす。人を見る目が無ければやっていけないもんすよ!」
「まぁ、その感じでやってきてこれたのなら説得力もあるか……」
「何すかそれ!ウチのこと馬鹿にしてるっすか!お兄さんさんみたいな鴨にそんな事言われたく無いっす!」
「お前、今確かに鴨って言ったな!やっぱりパンツでぼったくってる自覚はあるんだな!」
「使用済みパンツとしては適正な価格っす!」
「随分あくどい商売をしてるんだな。自分の履いたパンツを売り捌くとかどんだけヤバいんだよ」
「需要と供給は商売の基本っす。それとウチが履いたパンツを売るのは今回が初めてっす!」
「ウチのは?他人のは売っているのか……」
「そもそもパンツは取り扱って無いっす。今回だけの特別っす。そんな事言うならもう返して欲しいっす……」
ラウラはそう言うとベソをかき出した。
『こんな優しい女の子を泣かすなんてアキリ、そなた最低だぞ』
『罪悪感がやべぇ……女の子に対して小物ムーブをし過ぎたな』
女の子に対して強く出過ぎた。パンツの価格だってふざけてるだけかもしれないのに何マジになってんだ俺は。ほんと余裕なさ過ぎだろ。
これは相当反省する必要がある。
「ごめん、言い過ぎた。全面的に俺が悪かったな」
「ほんとっす。あんたは人間のクズっす。グスッ……」
啜り泣きながら返答が来る。
うん、関係の修復をしたいがかなり嫌われたな……当たり前だが。
「どうすれば君に許してもらえるかな?」
「ウチの専属執事になって護衛として働くっす。それで許すっす。グスッ……」
「専属執事……? 」
『興奮しているな。残念な事に我には分かってしまうのだ……』
「ウチを主人と崇めて奉仕するっす!」
「なるほど、つまり君の言う奉仕とは何をするんだ?」
「そうっすねぇ……まず忠誠の証としてお掃除をして綺麗にするっす」
「俺はどこを掃除すればいい?」
「ここっす!」
そういってショートパンツを下ろすラウラ。
俺は膝立ちになり彼女の方に近付いて行った。
「いい子っす!早くお掃除するっす!」
「畏まりましたお嬢様……」
そして約15分が経った。
「どうされましたお嬢様、まだ掃除は始まったばかりですよ?」
「いや、もういいっすぅ……」
崩れ落ちるように腰を着けるラウラ。
トロンとした瞳が虚空を見つめる。
「一人でするのと全然違うっす……」
濡れそぼった自分を確認しだすラウラ。
彼女の声は小さく、いやにしおらしかった。
『随分と静かになったな』
『何だ、せっかく寝ているのだから起こさないで欲しいぞ』
『わりぃなクレイ……俺の中で寝れるのか……』
『大分回復してきたし、明日には外に出ようと思うぞ』
『なら、まだ掛かりそうだな』
『うむ、そうなる』
「ラウラ、こんなとこに長居しても意味無いだろ?場所を移動しよう」
「は、はいっす」
少し元気の無いように見えるラウラ。
「お、お兄さん……な、名前を教えて欲しいっす……」
「そういえばまだ言ってなかったな。俺はアキリだ、よろしく頼む」
しゃがみ込み目線を合わせて応える俺。
「アキリっすか。ウチもよろしく頼むっす」
そういって俺を手繰り寄せる彼女。
唐突に口づけをされた。
「このまま続きをして欲しいっす」
「えっ!?」
催促の声に少し驚く。
『おい、ちょっと待て。こいつ魔族だぞ』
そしてクレイの念話で俺は意識を取り戻した。
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