第九話 行商人のラウラ
地上への降下準備をする俺ら。
『魔力に余裕はあるが、これ以上の魔装形態を維持するのは肉体的に危険と判断出来る。地上に降りたら一度解除するぞ』
『そういうものなのか。分かった、よろしく頼む』
念話を用い会話する俺達。
融合したら、もう元の姿に戻れないなんて事は無くて安堵した。
開けている丘陵ではなく木々が生い茂った森の近くに無事着地した。
早速融合を解こうとする。
『クレイ、解除を』
『待てアキリ、誰かいるみたいだぞ?』
『何だと』
すると森の方角から声が聞こえてきた。
「か、か、格好良いっす」
「誰だ?」
反射的に声を上げてしまった。
「ひうっ」っといった声を上げ、奥の木から顔だけ覗かせるようにこちらを見つめる人の顔がある。
「こ、殺さないで欲しいっす!」
こちらに向かってダッシュお辞儀を決める短髪の……少年?、いや小柄な少女だな。
顔を上げながら少し卑屈な笑みを浮かべる少女。
口から覗く八重歯がチャームポイントだと思う。
髪型が茶髪のベリーショートであるのと中性的な整った顔立ちで少年と見間違えたのだ。
「そんな物騒な事はしない、君はさっきの戦闘を見ていたのか?」
「そうっす。めっちゃ凄かったっす。まるで御伽話に出でくるような英雄みたいっす」
「そんな事は無い、言い過ぎだ」
と言ってから現在の自分の姿を思い出す。
ああ……やたら豪奢な格好をしていたな。
「貴族様の冒険者っすよね。貴重な戦いを見させて貰って感謝っす」
そう言って深くお辞儀した彼女は、ついでのように俺へと手を差し出してくる。
『こいつ、まさか握手を求めているのか?』
『握ってやるといい、そいつから敵意のある魔力などは感じないぞ』
『まぁ、大丈夫か』
俺達にしか聞こえない念話で意見交換を実施。
差し出された手を優しめに握ってみる。
途端、両手で握り返されブンブンと上下に振られた……何となく予想は出来ていたが。
「はぁ、感激っす……これでウチの商売も運気も爆上がり間違い無しっす」
「商売?運気?」
「も、申し遅れたっす。ウチは行商人のラウラと申しますっす。今後ともご贔屓によろしくっす」
「ご贔屓も何もまだ何も買っていないが」
「そーっしたね。なら今から商品を見てみて欲しいっす」
彼女は背負っている馬鹿でかいリュックを地面に下ろした。
「出会ったときから気になってはいたが、君の体格でよく持ち運べているな」
「ウチはこう見えて力持ちなんすよ」
先の広がった長袖の上着を捲り、力こぶを見せてくる。確かに凄く細い。
民俗風の変わった衣装に見えるが異世界のスタンダードが分からないので何とも言えないな。
下に履いたショートパンツは少年にしては腰幅が広がり過ぎていたし、やっぱり女性なんだ。
チラ見えする引き締まった腹と縦に窪んだへその穴が普通にエロい。俺は指を突っ込みたい衝動に駆られた。
自身の半身を窘めつつ彼女が広げ始めた商品を見やる。
『いつまでダラダラ話をしている、そろそろ魔装を解除するぞ』
『ああ、すまない。突然の事で意識が逸れていたな。解除を頼む』
『うむ、魔装解除』
俺は光に包まれた。
「うわっ何すかこの光!?ウチやっぱり殺されるんだ〜!」
俺とクレイより一回りは大きい声で話すラウラの絶叫が聞こえる、うるせ〜。
解除が終わり視界が開けたので改めてラウラを見る。彼女は手で目を覆い固まっていた。
「驚かせて悪いな」
「はぁ、びっくりしたっすよ。いきなり光るなんて聞いて無いっす」
ラウラは再びこちらを向く。少し怯えた彼女は俺を見て困惑していた。
「えっ、誰?」
「色々あってさっきとは違う姿だが、まぁすぐに慣れるだろう」
「誰すか、あんた!貴族様を何処にやったんすか!」
「俺だよ、さっきまで話していただろ。……もしかして今の光で記憶が飛んだとか?」
『それは無いぞ』
『流石に無いか。あれ、クレイは何処にいるんだ』
『まだそなたの中にいるぞ。魔装形態の反動で我の魔力が少し乱れている。今すぐに出ることも出来るが魔力の調整を優先したいのだ』
『なるほど、それならクレイの好きにしてくれ。
あれだけの戦闘をしたんだ、相当に疲弊しているんじゃないか?少しは休んで欲しい』
『うむ、助かるぞアキリ』
「えっ何なんすか、この状況……」
「ああ、だから俺がさっきの貴族だって」
「あんたは貴族様じゃないっす!絶対嘘っす!」
相変わらずうるせぇな!このへそ出し少女は!
少しムカつくぐらい声がでかい。
「いい加減現実を受け止めろよ」
「誰か助けて〜!ここに全裸のマントがいるっす〜!絶対悪い奴っす!ウチ襲われるっす〜!」
『不味いぞアキリ、一切否定が出来ない。
そなたはこの状況をどう切り抜けるのだ?』
『否定するからな。こう見えて無害……とは言えないな』
『安心しろ、我が成行きを見届けるぞ?』
失念していた。俺は裸にマントだけの男だった。
弁明の余地無く歩く十八禁である。
ん?つまりそういう事か。解決の糸口が見えた!
「俺は悪く無い、何故なら既に18歳で成人しているからだ」
『我と同い年だぞ』
「意味分かんないっす〜!」
「つまりだな、俺は服が欲しいんだ」
「えっ?」
「くれないか、君の服?」
「そ、それはだめっす!」
「何故だ、商人なんだろ!?パンツだけでもいいんだ!俺にくれ君のパンツ!」
「ぱっぱっぱっぱっパンツっすか!?」
「ああ、今すぐ欲しい!」
『会話の踏み込みが甘いぞ、もっと具体的に』
「素材は綿だと良いな。俺皮膚弱いからさ、擦れると生地によっては痛いんだよね」
「パンツの生地まで指定してきたっす……」
『具体的の方向性を間違えているぞ!だが悪く無い』
ドン引きの表情で俺を見るラウラ。
理由は分かるのでしっかりと嫌悪感を受け止める。
『あと一押しだ。我との訓練を思い出せ。ここで一旦避けるんだ』
「本当に悪いと思っている。こんな俺が迷惑をかけて嫌な思いさせたよな、ごめん」
「その通りっす、現在進行形で迷惑掛けてるっす。見えない暴力っす」
『詰みそうだぞ』
『いや、まだいける』
「だからこそ、こんな俺を今救えるのは行商人の君だけなんだ。本当は俺も隠したいんだよ……」
「……何か事情があるんすか?」
『フッ勝ったな』
『そなた……凄い自信なのだな』
「俺は迷宮で目が覚めたら裸で寝ていたんだ。
記憶も曖昧で……俺自身、状況が掴めていなくて困惑しているところだ」
「えぇ、そんな事あるんすか?わざわざ迷宮で……もしかして面倒な恨み事でも買っているとかっすか!」
「いいや、まったく身に覚えが無い」
「でもお兄さんを倒せる冒険者なんていないと思うんっすよね。そんな人を攫って放置するなんて命知らずにも程があるっす」
「君から見て俺、というかさっきのアレは強く感じたか?」
「強いなんてもんじゃないっす!
さいきょーっす!王国にも勝てる相手なんていないと思うっす」
『クレイ、魔装状態の俺達はそんなに強いのか』
『無論最強である』
『クレイはチートギフトだったのか……』
『うむぅ?』
まぁあの強さは只事じゃ無いよな。
自分がやったとは未だに信じ難い。
「教えてくれてありがとう。本当に記憶が無くてな、常識とかもいろいろ欠けているかもしれない」
「そうだったんすね。あっ!だからさっきのパンツに繋がるんっすか!」
「分かってくれたか!?」
「はいっす!いろいろと事情を聞いていたら、何か可哀想に思えてきたっす」
「君は心の優しい人なんだな」
「そ、そんな事ないっすよ〜!」
『うむ、聞き流してる内に懐柔したようだ』
『ちゃんと聞いてアドバイスをくれよな』
「あのぉ〜、欲しいなら良いっすよウチのパンツ。あげるっす」
「ん!?本当か?」
「は、はいっすぅ。で、でも少し恥ずかしいっす!」
「恥ずかしがる事はないんじゃないか?君の親切心は誇らしい物だと俺は思う」
「そうっすかね〜?いやぁ〜照れるな」
『アキリ、我は今胸が痛いぞ。これが悪という物なのだな』
『何を言っているんだクレイ。今度は君がおかしくなったのか?』
『我はもう何も言うまいぞ』
「それじゃ、ちょっと恥ずかしいんで後ろを向いて待ってて下さいっす」
「後ろを向けばいいんだな」
『何故、こんなにおろしろい事なるのだ……』
俺はこの時、疲れていたのかもしれない。
ラウラの言葉に従い素直に後ろを振り向いた。
商人のバックは企業秘密のような物なんだろうと、頭の足りない脳が答えを導き出していたのだ。
「お待たせっす!もういいっすよ!」
「あぁ、ありがと……」
俺はラウラの方に振り返る。
先程と違い林檎のように赤く染まったラウラの顔がどこか可笑しい。
「う!?」
「こ、これどうぞ!ウチのパンツっす!」
驚いた事にラウラが手に握っていたのは女物の縞々パンツだったのだ。
当初の予定通り俺はラウラからパンツを受け取る事に成功した。
失敗しそうになっても折れない強い心。
挫けそうな不安を解消してくれる頼もしい仲間のアイデア。
そしてなにより相手を信じ抜く真心!
俺は素晴らしい経験を積み、人として、また一つ成長したのだ……
『な訳あるかーーーーーい!』
『おい!念話で叫ぶな。うるさいぞ!』
俺が手にしたラウラのパンツはしっとり暖かかった。
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