第一話 少女は剣
現実感が無いとはこの事だろうか?
寝そべった石畳は冷たく視界に映る景色は全面石壁だった。
ああ、ここは何処なんだ。
何故、全裸でこんな場所にいるのか記憶を辿っても全く覚えがない。
地肌から直接伝わる石畳の冷たさが夢では無いんだなと妙な説得力を持たせる。
俺こと志摩明里はしがない高校3年生の18歳。
訳あって一人暮らしをしている、これといって特徴の無い男だ。
座ったまま辺りを見渡すと壁に直剣が立て掛けられている。
やたら物騒に見えるそれはダークファンタジーのゲームで見るような立派な物だった。
そして姿勢を変え後ろを見るとそこにはこちらを見ている女の子がいた。
「うわぁっ!びっくりした……」
驚きのあまり声を上げる俺。
そんな俺の反応にも微動だにもせずに佇む少女。
彼女はモノトーンの衣服を身に纏っていて一見すると修道女のような静謐な印象を持たせるが短いスカートとそこから伸びる肉感的な太ももが男の劣情を誘うようだった。
肩にマントを掛けているので全体のシルエットは分かりづらい。
しかし大きく膨らんだ胸部としっかりくびれた腰回りはマントの開いた中央から確認出来る。
全裸の青少年にはそういった刺激は与えないで欲しいと思いながら彼女の顔と向き合う形になった。
水色の短髪と同じような色の瞳。
凍えるような冷たさを放つ視線に先程までの劣情は鳴りを潜めるどころか、かえって勢いづいてしまう。
残念ながら俺はそういった性質なんだ。
取り敢えず話し掛けてみるか。
このまま黙っているのはいささか気まず過ぎる。
選択として正しいか分からないが意を決して声をかけてみた。
「さっきは大きい声を出してごめんね。
俺は明里、志摩明里って名前なんだけど。
その今裸なのは俺の意思じゃなくて気が付いたらこうなっていたというか……」
言葉が通じるか分からないが思いつく限り自己紹介と状況の説明を簡潔に済ませた。
これで何か返答をしてくれると嬉しいんだがとあまり期待せずに伺っていると……
「そうなのか」
と反応があった。
鈴の音がなるような綺麗な声だ。
まだ何か話してくれるかと思って少し待ってみてが状況はそこで停止してしまった。
会話が出来るなら少し質問でもしてみようか。
「君は此処で何をしているんだい?
俺の方は記憶が曖昧で此処がどこなのかも分からないんだ」
「記憶喪失?」
「まぁそんな感じになるのかな?」
彼女は反応してくれる。
正直嬉しいし人の声を聞くと安心出来る。
「我はクレイという。
そなたの近くに立て掛けてある剣のウェポンズゴーレムである」
「……ウェポンズゴーレムって何?」
「……」
しばしの沈黙、そして。
「ウェポンズゴーレムはウェポンズゴーレムである」
彼女の知性が垣間見えたところで悪い質問の仕方をしたのだなと自省した。
なるほど彼女の名前がクレイである事は分かった。
そしてウェポンズゴーレムである事も。
「教えてくれてありがとうクレイ。
後、俺の事も明里って呼んで欲しいな」
「そなたの名はアキリだな。ではそのように呼ぶとしよう」
おう、名前を呼ばれるとちょっとテンション上がるな。
このまま協力的な関係を築きたい。
そしてあわよくば衣類などの調達を手伝って欲しい。
「そうだクレイ、あの剣は君の物なのかい?
あれ、格好いいよね」
「我の物では無い、あれは我の半身である」
「なるほどなぁ、それぐらい大事なんだね、あの剣」
「そうである。……アキリ、あの剣が欲しいのか?」
「えっくれるの?」
まさか俺をぶった斬るって意味ではないと思いたいけど……
「そなたが欲しいのならやろう。
剣とは求められ使われてこそ、その真価を発揮する物だ」
「でもクレイの半身だって言うほど大事な剣なんでしょ。
そんないきなり出会った素性も分からない俺に渡すのは嫌じゃないのか?」
「構わない、道具は使われてこそだ」
「君が使う選択肢は無いのかい?」
「無い。我は剣の半身であり所有者ではないのだ」
「う〜ん、ちょっと難しいけど。
それじゃ貰っておこうかな」
「そうするといい。思うがままにあの剣を振るえ」
俺は立ち上がり剣のそばまで近付いた。
近くで見ると尚の事、刃物としての威圧感を感じる。
重量的に持てるか心配だったけど持ち上げてみると案外普通に使えそうだ。
ただ鞘が無いんだよなと抜身の刀身を見て思う。
これでは移動するときに切り傷をたくさん作りそうだ。
クレイの方を見てみると既に俺の横に立っていた。
近距離で向かい合うとその美しさに驚く。
俺の半身も飛び跳ねるように驚いていた。
息を飲むような時間を壊すようにクレイからある物を渡された。
「これを使え」
剣の鞘だった。
「ありがとう、これで持ち運びやすくなるよ」
「刃を摩耗させない為にも鞘は必須である」
じゃ何で抜身で立て掛けていたんだよと内心思いながら鞘の中に剣を入れる。
そして気になったのでやっぱり理由を聞くことにした。
「どうして剣を立て掛けていたんだい?
やったのは君なんだろう?」
「我は剣の所有者を探していた。
そこでたまたま倒れているそなたを見つけたとき、起きたそなたが欲しがればくれてやろうと思ったのだ」
なるほど訳分からん。
「なぁクレイ、厚かましくて悪いんだが何か着る物とか無いか。
あればで良いんだけど、この姿でいるのは気が引けるというか恥ずかしいというかさ……」
「我の服ならやるぞ」
「それはサイズ的に厳しいんじゃないかな」
「試して見なければ分かるまい」
そう言ってマントを外すクレイ。
そのままの勢いで手早く服を脱ぎ始める。
あまりの出来事に止めるのが遅れたが俺は急いでクレイを静止した。
「ちょっと待てって!脱がなくていいから」
そんな俺の言葉も虚しくクレイは既に黒色をした下着姿になってしまった。
異次元のサイズを誇る豊満なバストそして規格外のボリュームで女性を主張してくる下半身に今までで一番の非現実を感じた。
ウエストも細いながら肉感的で彼女全身の柔らかさを視覚だけで伝えてくる。
「折角脱いで貰ったけど服は君が着ていてくれ、俺はマントだけ貸してくれれば大丈夫だから」
目を背けながら必死に訴える俺。
そんな事もお構いなしにクレイは服を渡そうと近付いて来る。
「取り敢えず試してみろ、案外着れるかもしれないぞ」
「いや、だからいいって…………えっ!?」
チラ見した俺の視界に入ったのは下着すら付けていない状態のクレイだった。
内側にめり込んだ先端が完全に視界に入り俺の半身がひとりでに踊りを始める。
「勘弁してくれ、君に服を着ていて欲しい。
お願いだ、分かってくれ」
「そこまで言うなら引き下がろう。
無駄な労力を消耗した」
「ホントすまない、君が脱ぐとは思わなかったんだ」
脱いだ服を着始めるクレイ。
俺は一息ついて収まる気配の無い半身を無理矢理落ち着かせていた。
クレイのマントを借りて鞘のホルダーを上から斜め掛けする。
それで俺の着替えも終了だ。
「服は着れたみたいだな。
クレイ、俺はこれから此処を出ようと思う。
君が良いなら一緒に行動したいんだけどどうかな?」
「構わぬ、そなたが我が半身を持っている以上、言われなくても付いて行くつもりだ」
「よしっ、なら行こうか。
というかやっぱりクレイは変わった人だな。
見ず知らずの相手に警戒心無さ過ぎだって」
「我は人ではないぞ、ウェポンズゴーレムである」
「だから何なのそれ?」
「ふん、では我の能力の一旦を見せてやろう」
「えっ!?」
クレイの体が一瞬で光の塊に変化してそのまま俺の背負った剣に吸い込まれて行くように消えてしまう。
「クレイっ、何処に行ったんだ!いやもう訳わかんねぇよ」
「我は此処に居るぞ」
背中からクレイの声が聞こえる。
俺は肩から鞘を外しマジマジとそれを見つめた。
驚愕の中クレイに問い掛ける。
「……まさか剣と合体したのか?」
「そうだ、これが半身同士が成せる融合である」
やっぱ現実世界じゃ無いと何でもありだな。
そんな事を思っていると剣からクレイが出てくる。
「ウェポンズゴーレムは融合の他にも出来る事があるのか」
「無論である」
「それじゃ道すがら、いろいろと教えてくれよクレイ?」
「構わぬぞ、我が能力を知っていて貰った方が都合も良い」
そうして俺達は迷宮の出口を目指す事になった。
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