【30秒で読める怪談】私になにが憑いてますか?
私の仕事は怪談ライターです。
そういう仕事をしていると、たまに聞かれることがあります。
「私に霊が憑いているかどうかわかりますか?」
ご本人は軽い気持ちで質問しているのでしょう。
たとえば医者の友人がいる場合に、その人に自分がかかってる病気のことを聞く、みたいな。
いずれにせよウソをついても仕方ないので、私は正直に答えることにしています。
「ええ。あなたには若い女の霊が憑いてますよ」
とか、
「後ろにおばあさんがいます。きっと5代前のご先祖じゃないでしょうか」
とか、
「お母さんが成仏できずに、この世をさまよっているようです。今すぐお墓参りへいきましょう」
とか。
そう言われた人たちは、びっくりしながらもハッとして、どこか後ろめたそうな顔をします。
思い当たる節があるのでしょう。
とはいえ、私の目に映った光景すべてを伝えているわけではありません。
私が教えるのは、ほんの一部。
あえてそうしているんです。
なぜなら、私が見たすべてを教えたら、ショックを受けるだろうから。
こんなことがありました。
50代くらいの社長さんがいました。
仕事上で付き合いのある人だったのですが、話の流れでInstagramでフォローし合うことになりました。
それはいいのですが、私の投稿を見て、怪談ライターをやっていると知ったらしく、例によって「オレに危ない霊が憑いてないか見てよ」と言ってきたのです。
「いやいや、変な霊が憑いてたら、〇〇さんの会社は今頃、倒産してますよー」
冗談ぽく言って、私はごまかしました。
そんなふうに答えないと、その社長さんを嫌いになりそうだったのです。
社長さんには、確かに霊が憑いていました。
しかし、人間ではありません。
牛です。
牛の霊です。
しかも、その牛は首から上がないのです。
スパッと切りとられたように、首のない牛。
切り口からは、まだ血がドクドク流れ落ちていました。
そんな奇妙な牛の霊が、社長さんの後ろから、のそのそついてきているのです。
私が社長さんと横並びで歩いているとき、ふと後ろを振り返ると、首のない牛がいます。
首がないはずなのに、「モー」という悲しげな鳴き声が聞こえます。
きっと社長さんと牛の間で、なにかがあったのでしょう。
牛の魂を傷つける、悲惨な出来事が。
なにがあったのか?
わかりません。
でも、その社長さんの会社は、今でもかなり順調に業績を伸ばし続けています……