アイスチョコバー
13歳にもなれば、子供だけでショッピングモールへ遊びに行ける。
友達のダコタやエデンたちと来たのはいいけど、ショッピングモールのゲームセンターは、光や音が強くて疲れる。網膜と鼓膜が痺れて、頭痛一歩手前の感覚だ。
ほんとうに安全基準に達しているんだろうか。
他のみんなはまだ夢中で遊んでいる。あのはしゃぎ方からして、過剰な騒音も閃光も平気そうだ。
たぶん、ゲームセンターがぼくには向かないだけだろう。
自販機でアイスチョコバーを買い、ゲームセンターの喧騒から距離を取った。吹き抜けホールのソファに腰を下ろす。
冷たいチョコがぼくの脳みそを安らげてくれる。
ぼんやり甘さを味わっていると、吹き抜けホールの向こう側を知った顔が通っていた。
クラスメイトの女子、ぼくの幼馴染のケルシーだ。
ケルシーも来てたのか、偶然だな。
いつもよりおしゃれだ。ワンピースはブルーベリーとラズベリー模様、リボンのついたバッグと靴。可愛らしいファッションブランドの紙袋を提げている。後ろにはグランマが付き添い、上品に見守っていた。
ケルシーは大好きなグランマとショッピングできて、今にも踊りだしそうな笑顔だった。
グランマの姿勢もしゃんとしているし、足取りも淀みない。
臓器移植の経過は良好みたいだ。よかった。
もしケルシーがぼくに気付けば挨拶していい、気づかなかったら別にいい。疲れているから立ち上がりたくないんだ。
うすらぼんやりしていると、クラスの男子がぼくに近づいてきた。コールドウェルだ。こいつは友達じゃないけど、友達のダコタと仲がいいから仕方ない。
「パピア、ゲーム酔いした?」
「ちょっとね」
心配して覗きに来てくれたのかな。
こいつは悪い奴じゃないんだ。
コールドウェルは隣に座る。栓を抜いたコーラを一気に飲み干した。
「あっちにいるのって、ケルシーだよな」
「いるね」
そりゃ学校からいちばん近いショッピングモールで、今日は日曜日なんだから誰がいたって不思議じゃない。
先生と鉢合わせる可能性だってある。
校内以外で鉢合わせたくないけど。
「あいつんちのアンドロイド、EバイオニクスのGM-Kc17型じゃん。セミオーダータイプのやつ、高級だな」
「……ッ!」
コールドウェルの言葉で、口の中のアイスチョコが泥になったような気分だった。
こいつ、アンドロイドを、製造番号で呼んだ!
自己紹介でアンドロイド自身が製造番号や登録番号を名乗っても、絶対に呼びかけに使わない。
ぼくだって国際キャンプでアメリカ人って自己紹介はするけど、「アメリカン」って呼ばれたことはないし、もしそんな呼び方してきたやつがいたら注意される。校内だったら指導室に呼び出されるし、SNSなら凍結だ。
それと同じ。
製造番号はデッドネーミングに等しい。
「コールドウェル……」
「なに?」
「ケルシーの前でグランマをそういう風に呼んだら、たぶんクラスの女子全員から絶交されると思うよ」
なるべく穏やかなふりをして伝える。
コールドウェルの両親がロボット工学者で、工学観点からアンドロイドを見ているのは理解している。
こいつ自身が悪いやつじゃないのも理解している。
だけど、その感性は相容れない。
きっとケルシーも受け付けないだろう。
「女の子って分かんねぇな……」
そういう問題じゃないよ。
とはいえショッピングモールで喧嘩なんてしたくないから、ぼくはアイスチョコと一緒に言葉を喉に流し入れた。




