見せかけカクテル
晴れ渡った日曜日。
ぼくの家でシーフードグリルが開催される。
いつもバーベキューに招いてくれる近所のひとたちや、友人たちをおうちに誘う。みんなでロブスターにサーモン、それから海老とか貝を焼いて、好きなだけ味わうんだ。
あんまり広くない庭だから、テラスの方に、フルーツとドリンクを用意していた。
パイナップルやマンゴー。コーラやフルーツパンチ、バタフライピーのソーダ。そこに入れるためのライムやレモンも切ってある。
もちろんマシュマロもたくさん積み上げられている。
表側だけじゃなくて、裏側も準備万端。
庭の陰にはゴミ袋やごみバケツ。魚介の殻が散らからないように準備してある。あと仮設手洗い場と使い捨てタオルを、大量に用意していた。
ほとんど父さんが支度してくれたんだ。
うきうきしていると、父さんが巨大なクーラーボックスを抱えてやってきた。それもふたつも。
新鮮な海産物が、アラスカから届いたんだ。
「見ていい?」
「待ちなさい。この陽気にボックス開封したら傷む」
そわそわした気持ちに突き動かされ、ぼくは庭を駆けまわる。
母さんがやってきた。ハイビスカスみたいなサマードレスを着て、デトロイト瑪瑙のイヤリングとネックレス。レインボー・クリスタルファイバーをレース編みにしたツバの広い帽子をかぶっていた。クリスタルファイバーは虹色の影をちらちら撒き散らしているた。
よそ行きのかっこうだけど、今日はたくさんお客さまをお招きするから華やかになってる。
「ギャラント。大がかりね」
「近所の凝り性は、もっと凄まじい」
父さんは重々しく呻いた。
「パピアが海産物を好んで、まだ気が楽だ」
「あら? どういう関連性?」
「近所のバーベキュー愛好家たちにとって、バーベキューは趣味ではなく宗教。肉の焼き加減やソースは、もはや宗派だ。下手にどこかに肩入れしたら、冷戦だぞ。近所付き合いが難しくなる」
「人間関係って大変ねぇ」
母さんが他人事のように呟いて、父さんの肩を撫でていた。
集合時間よりちょっと早くエデンが駆けつけてきた。大きな瞳をきらきらさせている。
「わー、シーフード! 水族館みたい」
「エデン、あんまりおうちでシーフード食べない?」
「食べるよ。でもガブリエルママは料理しないし、ブリギッテママはPB&Jしか作らないし」
ピーナッツバター&ジェリーのサンドイッチ。
おばあさんの食べ物って感じだ。
近所のひとや友達みんなが集まってきた。ホタテやロブスターのグリルして、お喋りと食事を気ままに繰り返す。
母さんは上機嫌でビールを呑んでいる。
今日は呑んでもいい日だから、幸せそうだ。
父さんはグリルの世話をしながらも、物言いたげな視線をたまに送る。くちには出さなかった。
タクシーがうちの玄関前に停車した。
幼馴染のケルシーだ。ひまわりプリントのワンピースを翻してやってくる。
「お招きありがとう、ちょっと遅くなった?」
「ううん。母さんが早く飲み始めただけ」
ケルシーの後ろにはグランマ。
21世紀めいたレトロなアクセサリーとツーピースを着こなしている。薔薇の花束を抱えて華やかだから、存在そのものがアンティークみたい。
父さんと同じアンドロイドだ。
上品な挙措で、母さんと挨拶してる。手土産に薔薇を渡すと、母さんは喜んでいた。
ぼくはケルシーに、果物のあるテラスを指さした。
「ケルシー。パイナップルとマンゴー、どっちも好きだったよね」
「ええ! ありがとね」
ケルシーは果物が大好物で、ランチもだいたい果物オンリーだ。
そもそも生きている状態と同じかたちをした料理は、どうしても受け付けないらしい。特に貝とか海老は駄目。サーモンは皮を取れば食べられる。
自分の好きなもの好きなだけ食べればいい。
ケルシーが果物だけ食べていても、別に誰もなんとも言わない。
ただケルシーのグランマは何も食べられないんだよな。
仲間外れみたい。
父さんだって普段なにも食べないけど、仲間外れじゃないって分かっている。ぼくらは家族だから。
だけどケルシーのグランマは招かれて、それほど親しくないひとちに囲まれて、何も味わえないんだ。
それって胸がチクっとする。
母さんが小さなグラスを持ってきた。
グラスには、オレンジ色とピンクのジュレ。いろんな花びら。金粉みたいなものも入っていた。日光を透かせば、きらきら輝いている。
「ケルシーのおばあさま。こちらのカクテルディフューザーはどうかしら?」
「まあ、アンドロイドの用のカクテルね。きれいだわ」
ケルシーのグランマは母さんからグラスを受け取る。
宝石を手にしたみたいだ。
ケルシーがパインステック片手に、グランマへと駆けつけた。
「グランマもカクテル飲むの?」
「カクテルを模した芳香水よ。こどもが飲んでも害はないけど、たぶん美味しくはないわね」
「バニラエッセンスみたいに?」
グランマは微笑みを含み、頷きを返した。
ケルシーのグランマはきらきら輝くカクテルを片手に、他のひとたちと談笑する。時間が経つにつれて、カクテルは芳香となってゆっくりと減っていった。
きれいなカクテル。見せかけのカクテル。飲めないカクテル。
だけど仲間外れじゃなくてよかった。
そんなこと思うのって、独りよがりなのかな。
いのちを食べられるぼくは、言葉にならない気分を抱え、海の幸を味わった。




