さえずりの守り
家のすぐ近くの公園。
ボール遊びできるグラウンドもあるし、噴水を囲むベンチもある。ぼくがお気に入りな場所は、木陰をいっぱい作ってくれる林だった。
「ぼく、あっち探検するね」
父さんが何か言う前に、林に飛び込む。
他の場所より静か。
緑の陰に入ったら、ひんやりとした土の匂いと感触に包まれる。
それからR.ロビンたち。
ほっそりとした木々の上に、いくつか巣箱がある。
木陰や巣箱の近くにいるのは、オレンジ色のチョッキを着たような色の灰褐色の小鳥。
アンドロイド・ソングバード、R.ロビンだ。
「こんにちは、R.ロビン」
ロビンたちに手を振ると、優しいさえずりが降ってくる。
ピョ、ピョ、ピリリィ………
ここは安心だよって教えてくれる。
ぼくの暮らしている町は最先端スマートシティ地区。アンドロイド・ソングバードたちが公園とか大通りにいて、防犯カメラの瞳でぼくらを守ってくれるんだ。
独りでも安心して、探険ごっこできる。
「みなさんはご存じでしょうか、海洋酸性化。地球温暖化は空気のみならず、海にも及んでいるのです!二酸化酸素を吸った海、そこでは小さないのちが危機に瀕しているのです」
急な階段を昇って、木の根っこを越え、藪をくぐる。
湿った地面の石を拾う。
「ここは深海1000メートル。そこに住まう蝶々は、アラゴナイト結晶の殻を持っています。その殻は海洋酸性化によって溶けているのです。滅びゆく深海の蝶、有殻翼足類を救うのは、アンドロイド・ドルフィン」
ぼくは良い感じの小石を集めて、暗がりを進む。
見知らぬ大人たちがいた。
カラフルな服装の男の人たちだ。
誰だろう。
近所のバーベキューとホームパーティーには一通り誘われたけど、一度も挨拶した記憶がない。だから近所の公園にいるのは、ちょっとおかしいんだ。関わらない方がいいかな。
男の人たちは、ぼくを一瞥した。
嫌な感じがする。
「なんだ? ボールでも探しにきたのかよ。こっちに無ぇぞ」
「あ。あいつ、ほら、あのセクサロイドある家の」
「へえ。あのマジでイケけるボディの」
チケッ! チケッ!
たちまち巣箱から鋭い鳴き声が響く。木陰を切るような甲高さだ。
これは警戒音だ。
R.ロビンが危険を知らせてる。
暴力や武器、危険物、薬物……他人に言っちゃいけない言葉が発された時も、R.ロビンは警戒してくれていた。
鋭い警戒音に、男の人たちは眉を顰めて、悪態じみたものを口の中でもごもごさせる。R.ロビンに小石を投げつけ、公園から立ち去った。
静けさが戻ってきたけど、心臓がどきどきした。
ぼくは、何か、言われちゃいけないことを言われちゃったんだ。
「パピア! 大丈夫か?」
父さんが駆けてきた。
いきなり抱き上げて、バイタルチェックする。
青い瞳がぼくを映した。
「R.ロビンのさえずりが聞こえた。怪我はないようだが、何かひどいこと言われたのか?」
「………」
ひどいこと。
きっととんでもなくひどいことを言われてしまったんだろう。
──セクサロイド──
でも、たぶんそれは、ぼくじゃない。
父さんに対してだ。
ぼくはぎゅっと目を瞑る。
「聞き取れなかった」
「なら、いいんだが……」
頭を撫でられ、額にキスされる。
ぼくのついた嘘に、父さんは感づいているかもしれない。
だけどひどい言葉を口から出したくないし、父さんに聞かせたくなかった。だからぼくが忘れてしまえばいい。忘れてしまえば、きっとそれでいい。
親鳥に抱き締められる雛みたいに、ぼくは小さく丸まった。




