あげたい、好き
ぼくの部屋の壁は、ちょっとだけ海になってる。
青くなっている壁に、クジラやイルカのシールをぺたり。この青い壁はぺたっと貼っても、あとで剥がせるから海なんだ。他の壁は陸だから、クジラやイルカはいちゃだめ。
お誕生会でもらったシールを、海にぺたぺた。
月とヒトデのシール。ぷっくりしたシールで、いまは黄緑だけど、夜ひかるって。
夜にしよ。
カーテンを引っ張って閉める。
「あんまり夜じゃない……」
引っ張っていると、ノックが響いた。
「パピア。今なら母さんがお喋りできるが、繋ごうか?」
「母さん! 見て、シールもらった」
父さんはディスプレイ片手に入ってくる。母さんが映っていた。
「見て見て、ヘイゼルのお誕生会だったから、もらったの。月とヒトデ。かっこいいね。夜になったら光るよ」
「カワイイ……」
「かっこいいの!」
ぼくは力説する。
「ヘイゼルのグッディバッグはね、夜に光るシールとね、きらきら粘土だったよ」
ミニバケツから出す。ラメできらきらした青い粘土だ。
こねこねするの楽しい。
「くじらを作るんだ」
「いいわね。母さんも昔、そういうの入れる専用の宝箱に入れてたわ。お菓子はすぐ食べたけど」
「お菓子はだめでしょ。グッディバッグに入れちゃだめ」
「今はそうなの?」
何故か母さんが驚く。
父さんが頷いた。
「ああ、うちの学校は飲食物が一律禁止になってる。アレルギーとハラル対応だ」
「ナッツフリーの市販品なら良かったのに、今は厳しいわね。じゃあ学校のお誕生会のケーキはどうしてるの?」
「購買でアレルゲンフリーのカップケーキから注文する」
「そういうシステムなのね。そこは楽になったけど、グッディバッグにお菓子に入れられないと、何入れるか迷うわね」
「母さん。エデンはね、シャボン玉と風船とハンカチだったの。ふつー」
友達のエデンは、ふつーだった。
でもシャボン玉はいくつあってもいい。楽しいから。
「もっと変わったグッディバッグの子いたの?」
「プルデンスは変わってた。フランス旅行した時にオペラとか映画の広告とっといてね、栞にラミネートしたの。それとランチョンペーパーとね、入れてたエコバックもパリ土産だって」
「今時のグッディバッグ、そんなに………そんなに凝らなくちゃだめなの……?」
母さんが疲れたような声を出す。
「ケルシーはりんごの消しゴムと、クッキーの鉛筆削り、あとUVビーズでミサンガだよ。自分で編んだって」
もらったグッディバッグの中身を見せていく。
「パピア。ケルシーちゃんはミサンガ、クラス20人分編んだの?」
「結ぶところだけグランマがやったって」
でもミサンガは別にいらないな。
消しゴムはいい香りがするから使う。
「ぼくのグッディバッグ、何がいいかな。みんなと同じじゃ、いやだな」
粘土と消しゴムのカスを混ぜながら考える。
すてきで、すごいのがいい。
父さんが微笑んで、ぼくのとなりに腰を下ろした。
「パピア。グッディバッグはすてきな気分のおすそ分けだ。みんなと違うものを考えるより、自分の好きなものを考えていた方が楽しいだろう」
「じゃイルカのキーホルダーとかクジラのバッチ」
「それも名案だな。だけどそれはお前の欲しいもので、好きなものとはちょっとだけ違うが」
「好きと欲しい。違うの?」
「グッディバッグは誕生日を祝ってくれた友達に、感謝の気持ちを込めて贈る。自分自身の持っている楽しみから、おすそ分けするんだ。好きと欲しいは少しだけ異なる」
「好きだけど、欲しくない?」
「好きで、あげたいだ。グッディバッグは誰かにあげたい好きを詰める」
あげたい、好き。
「じゃあ……」
ぼくは誕生日が六月の終わり。
夏休みに誕生日がある子は、五月に開催する。だから五月は毎日誰かの誕生会だ。
今日はぼくの番。
風船でいっぱいになったクラスルーム。ぼくは飾り付けにクジラがいいって言ったから、父さんがクジラ風船を追加で買って、学校に入れてもらった。
みんなにハッピーバースデーを歌ってもらって、記念写真する。カップケーキを食べて、最後にグッディバッグを配る。
銀のラッピングバックに、水色リボン。
「パピアだから絶対にイルカかクジラだ」
「どっちだろ」
グッディバッグを開けていく。
「形はイルカだ」
「クレヨンだよ」
イルカのかたちにした手作りマーブルクレヨンだ。
20人分作るの、たいへんだった。
あとはミニスケッチブック。
喜んでくれる子も、あんまり喜んでくれない子もいる。
ああ、ぼくが欲しいものをあげて喜んでくれなかったら、すっごい腹が立ってたかも。でもこれはぼくが誰かにあげたい好きだから、そこまで許せなくない。
「パピアくん、これサイコーね。ありがと」
幼馴染のケルシーは満面の笑みだった。
ぼくの好きを喜んでくれて、嬉しい。
にこにこのケルシーは、さっそくぼく作ったマーブルクレヨンでお絵描きを始めた。




