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絶対に追放されたくない聖女

作者: きとく

「聖女アリサよ、お前の任を解き国外追放とする!」


「イヤです」


「何だと?!」


 急に言われたから、思わず返してしまった。


 私の名前はアリサ。腰まで伸びたストレートの黒髪が自慢。見た目は地味ですが聖女をやってます。


 んで、いきなりやって来てクビを宣告してきた長身で金髪のイケメンはリチャード様。この国の第一王子です。


「急に言われたもので、つい……。どのようなご用件でしょうか」


「聞こえなかったのか? 追放だと言ったのだ。この国に、もはや聖女は不要だと判断した。国内の魔物はほぼ一掃され、瘴気が溜まっている場所も瘴気に侵される人も皆無。平和そのものだ。そんな状態が長らく続いている今、聖女は不要なのだ」


 それは、私が日頃から頑張って務めを果たしているからなんですが?


 あと、長らく平和って言いましたけど、まだ1年くらいですよね?


 それに、不要だからクビだと言うならまだしも、いきなり国外に追放とか。しかも事前の通告もなし。


 意味がわからないんですけど……。


 聖女の仕事はいくつかあって、その中でも重要なのが国を覆ってる結界の維持。


 物理的な壁があるわけじゃなくて、薄っすらとした魔力の壁が作られてる感じ。私が祈りを捧げるとソレに魔力が注がれて、魔物や瘴気の侵入を防ぐことが出来る。原理はわかんない。


 次にやる仕事が、瘴気の除去。


 国内で瘴気が溜まっている場所があれば現地に行って浄化したり、瘴気に侵された人を治療したり。瘴気による病は聖女が持つ魔力で治療するのが一番効果があって回復も早いらしい。


 それ以外だと、治療が必要だけど私のところまで来れないほど弱っている人を直接治療しに行ったり、一応聖女として持ち上げられてるからあちこちに顔を出したり、逆に訪ねられたり……。


 忙しいときは結構忙しかったりするんですよ。


 まぁ、ここ1年くらいは全然忙しくはなかったけども……。


 私は聖女を辞めたくないし、辞めたら国が悪くなることも分かってるから、目の前の王子様を説得したいわけなんだけども。


 そもそも、何をどう考えたら聖女わたしが不要だって結論になるんだろう?


 うーん、わからない。


 このままだと理不尽に追放されてしまう……。


 何とか一計を講じなければ……。


「どうした? 何か言い訳があるのか? 無いというのなら……」


「わかりました、殿下」


 私はそう言いながら両手をパンと叩き、言葉を続ける。


「ここはひとつ、検証をしましょう」


「検証だと?」


「はい。聖女わたしが必要か不要かわかれば良いんですよね。でしたら、こうしましょう」


 私は合わせた両手を軽く広げる。


「今日から私は、聖女としての務めを果たしません。それで国内が悪くなるなら、私、つまり聖女の力は必要。何も変わらないなら私は不要。いかがでしょうか?」


「……ふむ。なるほど。いいだろう、その提案に乗ってやろう」


 あら、意外とアッサリ通った……。


「だが、どうやって判断するというのだ? 簡単に分かるものでもないだろう」


「そうですねぇ……。では、半年ほど様子を見るというのはどうでしょう。そのくらいの期間があれば、わかりやすく変化があるものかと」


「よし、わかった。では半年間、様子を見るとしよう。だが、何も起きないようであれば半年を待たずに追放処分とするからな!」


 そう言ってリチャード殿下はサッサと帰っていった。


 何なの、あの人。てっきり問答無用で追放されると思って身構えてたのに。


 その場しのぎの計画を提案したら簡単に受け入れるし……。結構、単純な人なのかな?


 なんか引っ掛かるなぁ。


 まぁ、それはともかく。


 私は追放処分を免れ、半年間の猶予を手に入れた。


 何とかする方法を考えるとしますか。




 ◇ ◇




 私ことアリサは、ごく平凡な町娘として生まれた。


 地方の田舎町の、裕福でも貧乏でもないくらいの家で、両親と私の3人暮らしで平和に生活していた。


 そんな私は生まれつき魔力が強く、魔法の才能もあったみたいで。両親の手伝いをする年齢になったころには治癒魔法が使えるようになって、簡単な怪我や病気なら治せるようになった。


 それからは成長するにつれて、いや、魔力だけやたら強大になって。重傷者は全快させられるわ、瘴気が溜まった場所を浄化できるわで、いつの間にか噂も広まって私の力を必要とする人が訪ねてくるようになった。


 その噂が王都まで届いたようで。王城からの使者を名乗る人に王都まで連れられて、貴族や王族の方たちの前で治療したり瘴気溜まりを浄化したりして。


 そんな私を『聖女』と認定したらしく、国のために働いてほしいと言われ、国王陛下と謁見することにもなった。


 あのときは緊張したな~。


 その謁見のときに、私の後見人としてリチャード殿下を紹介されて。王都の結構良い立地のところに立派な屋敷まで用意されて、私はそこに住んで聖女としてのお務めに励むことになった。


 それから、あっという間に3年の月日が流れた。


 聖女としての日々は、快適そのものだった。


 めっっっっちゃ快適だった。


 地元じゃ見たこともない美味しい料理の数々!


 キレイで華やかで着心地抜群のお洋服!


 どこまでも体が沈んでいく温かいお布団!


 仕事も気遣いも完璧な私専用の使用人のみなさん!


 他にも、広いお風呂とか香りも味も最高のお茶とか……挙げていったらキリがない。


 そりゃ、初めは戸惑ったし、聖女としてのお仕事もあって慣れるまでは大変だったけど。


 使用人のみなさんが私の体調もスケジュールも管理してくれてるから、忙しくても体調を崩すようなことも無かったし。


 仕事がお休みの日もあるからストレスも発散できる。外出は気軽には出来ないけど、したいと言えば護衛の人が付いてくれて買い物にも観光にも行くことができる。


 そんな環境で働いてるから、私のモチベーションも高くてバンバン働けて、その結果として国は良くなるし、人に感謝はされるし。


 まさに良いこと尽くし。


 王都で暮らすことが決まって、家を出るときには両親と涙の別れもしたけれど、もう地元での生活に戻れる自信がない。


 ゴメンね、お父さんお母さん。


 今のこの暮らしを手放したくないんですよ、私は!


 追放なんかされてたまるもんですか!




 ◇ ◇




 リチャード殿下の追放宣言から3か月が過ぎた。


 その間の私の生活は、まぁ、パッと見で言うと自堕落だった。ゴロゴロしながら読書したり、お菓子作りに励んだり。


 表向きは体調を崩して休んでいることになってるから、出掛けたりは出来ないけど、欲しいものや食べたいものがあれば買って来てもらえるから、何も困らない。


 使用人のみなさんも、殿下とのやり取りを説明したときは驚いてたけど、すぐに受け入れて仕事に戻っていった。


 私が追放されたら自分たちもお払い箱なのか、的な心配をしてる人もいなかった。


 まぁ、みなさんめっちゃ優秀ですし、貴族とか王族とかの関係者とツテのある人ばっかりだから、困ることはないでしょ。


 そんな悠々自適な生活を送っていたある日、リチャード殿下が来訪。


 私の部屋に来た殿下は、疲れ果てた顔と声で、私に聖女として復帰するよう言ってきた。


「アリサよ、お前の力が必要だということが分かった。聖女として働いてくれ……」


 その言葉を私は、ソファーにごろ寝して読書をしながら聞いていた。


「まだ3か月じゃないですか~。半年までまだ半分ありますよ。もうちょっと様子を見てみましょうよ」


「そんなことをやっている時間は無いのだ! 今、この国がどうなっているか……」


「知ってますよ~。結界が弱まってるせいで魔物も瘴気も増えて、対応が追い付いてないんですよね」


 それを聞いた殿下が、ぎょっとした顔で私を凝視してくる。


「しかも、そのせいで被害を受けた人たちが溢れてるのに、聖女は何をしてるんだって苦情が殿下に殺到して、殿下が怒りや不満の矛先になってるんですよね」


「な、なぜそこまで知っている!」


 そりゃぁ、貴族の方を抱き込んで情報を流してもらってますから。私も遊んでたわけじゃないですよ。


 私がやった作戦……裏工作はこうだ。


 まず、王城に出入りしている有力な貴族をピックアップ。


 その中で、ちゃんとお仕事をされてて聖女わたしの必要性をわかっている人を絞り込む。


 あとは、結界が弱まって、その人や周りの人、領民の人たちが瘴気に侵されたり魔物の被害にあったりするのを待つ。


 そしたら私に治療を求めてくるけど……というか殿下に求めて断られるけど、内密に連絡を取って治療する。そのときに事情を話して、私に協力してもらえるように頼むのだ。


 結果としてはまぁ、思った以上に上手くいきまして。数件のお家が協力を快諾してくれて、私に国内の情報をくれたり、私を追放しようとしてる人を探ったり、殿下の良からぬ噂……聖女わたしを軟禁してるだとか……を水面下で流したりしてもらった。


 苦情と噂で追いつめられた殿下は私に復帰しろって言ってくるだろうから、そこを追い込めば……と。いや~、作戦的には半年ってギリギリだったからどうなるかと思ったけど、まさか3カ月で決着がつくとは。


 ちなみに、半年以内に治療してほしい人とか協力してくれる人が見つからなかった場合は、ピックアップした人に片っ端から泣きついて、殿下に軟禁状態にされてるから助けてほしいって訴えるつもりだった。


 改めて考えると、行き当たりばったりな作戦ね……。


 まぁ。


 それとは別に『()()()』も抱えてるから大丈夫でしょ。


「いや、事情を知っているなら話が早い。今すぐに聖女としての務めを果たせ! 民たちが苦しんでいるのだぞ!」


 そこで私はようやく、読んでいる本から顔を上げる。


「でも、平和になったら追放されるんですよね? 私は」


「なっ……そんなことを言っている場合か!」


「いや、私もお力になりたいって気持ちはあるんですが、その代わりに自分がどうなるかわからないって考えると……。ほら、私って、聖女の力があること以外はただの小娘ですから。路頭に迷ったら死んじゃいますよ」


 薄情に聞こえるだろうけど、殿下(というか私)に直接助けを求めてる人の大半が有力な貴族だって知っているから。


 魔物のせいで被害を受けたり、瘴気に侵されて苦しんでる人は、貴族・平民問わずいる。困っている人が大勢いることは知っている。その中で、領地の人たちを差し置いて自分を助けろって要求する貴族の人たちを助けたいかって言われたら、ねぇ。


「ぐっ……。わ、わかった。追放は撤回する。これまで通り、聖女としてこの国を助けてくれ……」


「これまで通り、ですか……」


 謝罪するように片膝をついてそう言う殿下を見た私は、体を起こして座り直し、考える素振りを見せてからこう言った。


「実は私、いろんな国からお誘いを受けてるんですよねぇ」


「何だと!?」


 これは本当。これが私の『()()()


 その気になれば、私はいつでも他国に避難、もとい移住できる。


 聖女に来てほしい国はいくらでもあるからね。


 たった3か月で国内が乱れてるっていう、ちょっと異常事態のときに聖女わたしが居なくなればどうなるかなんて、火を見るよりも明らか。


 選択の余地なんてないでしょ。


「ウチの国を助けてくれないか、って。聞いた感じでは待遇も結構いいみたいで……そうですか、これまで通りですかぁ……」


 頬に手を添えながら明後日の方を向き「う~ん」と言いながら悩む。


「何が不満だと言うのだ!? 屋敷も、生活も、使用人たちも、すべて不足はないハズだ! これ以上に何を望む!?」


「いや、ここでの暮らしもお仕事も不満はないですけれど。なんて言うか。私って、大事にはされてないじゃないですか。今回も、あらぬ疑いで追放までされそうになりましたし。落ち着いたら結局また、同じことの繰り返しになるんじゃないかな~って」


 それならもう他の国に行ったほうがいいんじゃないかな、と続けたら殿下は一瞬呆然とし、両膝をついて項垂うなだれた。


「わかった……今回の件については、しっかりと調査をする……。待遇についても、話し合おう……。だから……」


 最後の方は消え入りそうな声だった。


 よっぽど参ってたんだなぁ。


 まぁこの辺が落としどころでしょ。


 私はソファーから立ち上がり、凝った体を伸ばす。


「3か月の休暇かぁ~。長かったな~」


 やり取りを聞いていた使用人の人たちが私の着替えを準備し始める。一応、お務め用の服があるのだ。


「言ったからにはお願いしますね、殿下」


「あ、ああ……わかっている……」


「あと、今回の件は、私を排除しようとした一部の貴族が殿下を誘導した結果です。殿下も反省してくださいね」


「なっ……?! わかった、反省する……」


「返事は『はい』です」


「は、はい……」


「あとで情報を届けさせます。頼みましたよ」


「はい……わかりました……」


 私は着替えるために別室へと移動した。死んだ目になっている殿下を置き去りにして。




 ◇ ◇




 聖女として復帰した私はバリバリ働き、国内の問題を一掃していった。


 各地を巡って浄化と治療をして回るっていう、シンプルながら大変な旅をすることになったけど。抱き込んだ貴族の中にあちこちに顔が利く方がいて、移動やら何やらに手間取らず進行できたから順調にこなすことが出来た。


 助けた人たちにはとっても感謝されて、しかも聖女わたしが直接来たことが嬉しかったらしく、各地で私の好感度は爆上がり。


 いえいえ、どういたしまして。


 まぁ、皆さんが苦しんだの、私がお務めしなくなったせいなんですけどね!


 何だかマッチポンプみたいになって、申し訳ないです!


 こうして国内を平和にした私は、今まで以上の生活環境と、あと功績とか名声とか発言力とかを手に入れて幸せに暮らした。ついでに私を追放しようとしてた人たちも潰した。


 ちなみに殿下は、私をクビにしようとしていたことがバレて非難され、肩身が狭くなったうえに王位継承権で揉めることにもなるんだけれど、まぁ知ったことじゃない。


 めでたしめでたし。

読んでいただきありがとうございます。

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