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「姉ねえ、お誕生日おめでとう!!」
小さな少女が淡雪の腰のあたりに抱きつき、雑草を差し出した。黄色い花がついている。
「これ、摘んできたの」
「私のために?嬉しいわ、ありがとう。今日は美味しいもの作るから、みんなで食べようね」
「うん!」
「明石様にご挨拶してくるから、ちょっと待っててね」
「分かった!姉ねえ、後でねー」
ぱっと身を翻して走っていく。
淡雪は自然と口元が緩むのが分かった。
小さな花をポケットに入れ、玄関から屋敷に入る。
「ただいま戻りました」
邸内には子供たちの姿がある。掃除の時間が終わり、本を読んでいる子が多い。
「左京、明石様はお部屋かしら?」
左京と呼ばれた眼鏡の少年は顔も上げずに、
「そうだと思うよ。朝ご飯の後から、ずっとこっちにいらっしゃらないんだ」
「そうなの。ありがとう」
淡雪は貯蔵庫に買ってきたものを詰め、階段を上って明石の部屋の戸を叩いた。
「どうぞ」
「失礼いたします」
ここは【破璃園】の園長・明石の書斎であった。
天井の高さまである本棚にはびっしりと本が敷き詰められており、中央には机が備え付けてある。
椅子に深く腰かけ、明石は頬杖をついて難しい顔をしていた。
その様子は、普段よりずっと老けこんで見えた。
「珍しいですね。明石様がそんな顔をなさるなんて。何かあったのですか?」
声をかけると、明石は今淡雪の存在に気づいたのかのように顔を上げた。
置いてあった文を丁寧にたたんで、書箱になおす。
「ああ……淡雪。お帰りなさい。もう買い物は済んだの?」
「はい。後は食事の支度をするだけです」
「そう。ありがとう」
「今日はうんと腕によりをかけて料理しますね。おめでたい日ですもの」
明石の顔が、かすかに曇る。
その表情に、懸念とも不安ともつかぬ何かが漂っている。
「ええ、そうね……本当に」
淡雪は知らぬ間に、右手をそっと握りしめていた。
今日こそ、前々から言おうと思っていたことを切り出すつもりで来たのだった。
「あの、明石様」
「淡雪。ちょっと裏庭を見てきてくれないかしら。今日はまだ、花たちの様子を見ていないから」
淡雪は言葉に詰まった。
明石は柔らかいが有無を言わさない口調で、
「よろしくお願いしますね」