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「まったく、背筋の凍る話だぜ。実の姉弟で殺しあうなんてな」
「どうしてそのような事になってしまったんでしょうね」
「知るかよ。星降里の連中にとっても、俺たちにとってもいい迷惑だぜ」
話し込んでいるうちに、二人は【破璃園】へとたどり着いた。
ガラス張りの温室の中で、花々が色とりどりに咲き乱れている。
走りまわる子供たちの笑い声が、ここまで届いてくる。
広大な庭の奥に、白漆喰で塗り固められた細長い建物がある。
その美しさから【破璃園】と呼ばれるこの邸宅は、身寄りのない孤児たちを預かり育てるという児童養護施設としての側面も持っていた。
運営が成功しているのは、里から補助金が出ているということもあるが、この邸宅の持ち主の財力と権威に依るところも大きい。
「じゃあ、ここで。どうもありがとうございました」
九曜から籠や紙袋を受取ると、淡雪はひらりと微笑み、門扉をくぐって歩き去っていく。
「あ、ちょっと待てよ」
思わず九曜が後ろから呼び止め、頬を染めて、
「……お前、今日誕生日だろ」
淡雪は数秒立ち止まっていたが、やがてぱっと顔を明るくした。
「あら、だから会いに来てくださったのね。ありがとう」
深く頭を下げる。
綺麗なお辞儀に、九曜はどきまぎした。
「ば、馬鹿違ぇよ。俺はただ――」
何となく居た堪れなくなり、口をつぐむ。
淡雪は何もかも見透かしたような瞳で微笑むと、そのまま破璃園の奥へと入って行ってしまった。
「おい、待てよ淡雪!まだ話は終わってねえぞ!」
九曜は慌てて淡雪の細い背中を追うのであった。