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藍晶は思わず淡雪を仰ぎ見た。
淡雪はそれに応えるように嫣然と笑う。
大丈夫です、という声が聞こえたような気がした。
「皆に告げなければならないことがあります」
牢獄から解放され、一も二もなく走ってきた九雷と目が合う。
宮主の式服に身を包んだ九曜の姿も見えた。
「みなも知るとおり、星降里は今、卑劣な謀略で貶められ、壊滅状態にあります。今まで私たちは通商や留学こそすれ、他里へ介入することを避け、相互不干渉の立場をとってきました。それは侵略もしない代わりに、一切の助力もしないということです。
考えて見てください。今は平和でも、いずれこの里が干ばつや飢饉や侵略によって危機に見舞われた時、やはり他の里からの協力は得られないのです。わたくしは、同じ大陸に生きる者として、それはあまりに非人道的なのではないかと考えざるを得ません」
淡雪の声は明瞭でよく通り、騒ぎを静まらせる力があった。
「今こそ五つの里と二つの民族が、一丸となる時ではないでしょうか。互いに補い合い、支え合い、助け合うことができはしないでしょうか」
二つの民族、という言葉にざわめきが起こった。
集まった民衆や神官たちは互いに顔を見合わせる。
淡雪は跪いていた星雲の手をやんわりと解き、「立ちなさい」と言った。
それが意味するところをいち早く悟って、九雷は慄然とした。
淡雪は選んだ。恭順ではなく同盟を。いささかの迷いもなく。
この娘は、あろうことか千早という猛獣と本気で手を結ぶつもりなのだ。
「わたくしは、星降里の巫女姫だった清晶様から考えを得て、それぞれの里と民族と同盟を結びたいと思っています。そして、清晶様からその貴い志を受け継ぎ、身を挺してわたくしを守ってくださった弟君の藍晶殿こそ、その同盟の盟主たらんと思うのです」
巫女姫の英雄である星雲に対する、それは痛烈な皮肉だった。
淡雪は微笑み、すかさず立ち上がった星雲の手を取って、
「もちろん千早とも、その同盟を結びたいと思います。星降里の復興と我が里の繁栄に、力を貸してくださいますか」
「なんちゅうお姫さんや。こっちの動きを逆手に取りおった」
彦市は威風堂々と立つその少女に、驚嘆の声を漏らした。
「こりゃおもろいことになったな」
人混みに紛れ、どこか嬉しげに呟く。
「藍晶様」
「ああ」
狭霧の声から、抑えきれない歓喜と興奮が伝わってくる。
「淡雪殿はやってくださった。約束は果たされたんだ」
最後の最後まで屈しなかった、本当の勝利をもぎとったのは彼女だ。
まばゆいほど神々しい姿に、藍晶は愛おしく目を細めた。
淡雪はこの上なく優しい声と笑顔で言う。
「よろしくお願いしますね」
星雲はかすかに苦笑し、だがしっかりと淡雪の手を握り返し言った。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。淡雪姫」
限りなく魅力的で、天使のように穢れない笑顔で。




