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「誓願の儀には行くのでしょう?」
淡雪の真っ直ぐ見上げてくる眼差しに耐えられなくなったのか、九曜は頭を掻きむしり、やけくそのように言った。
「ああーもう分かったよ!行くよ!行けばいいんだろ!!」
淡雪はくすくすと笑って、「はい」と頷いた。
【巫女姫】は神が純潔の少女にのみ与えし宿命である。
選ばれた乙女には、十五歳の誕生日までに、身体の一部に【聖紋】と呼ばれる不思議な紋章が表れる。
それがすなわち、【巫女姫】である証なのである。
その少し前には先代の【巫女姫】の身体から聖紋は消える。
そうして選ばれた新たな【巫女姫】は、神に三つの誓いを立てる。
高潔であること、神意をよく聞き民を治めること、次の【巫女姫】が立つまで、神を祀る責務を果たすこと。
それらの誓いをする、新たな巫女姫の着任式が【誓願の儀】である。
巫女姫は最短一年、最長十五年間その地位にあり続ける。
よって【誓願の儀】は、何年かに一度のめでたく、かつ非常に重要な儀式なのである。
花散里は、今まさに新たな時代の幕開けを迎えようとしている。
「真珠姫は大層お可愛らしい方だとか。さぞかし守り甲斐があるでしょうね」
「けっ。どこぞの里で巫女姫が殺されたって騒ぎがあったばかりだ、警備も増員してやがるんだよ」
街中には衛士と呼ばれる民兵が歩き回っているし、神殿は宮主ががっちりと厳戒態勢を敷いている。
物々しい空気と膨らむ期待で、町中がお祭りムードに沸いていた。
何かが起こるような気がする。とてつもなく大きな何かが。
誰もがそれを感じ、口にはせず心に仕舞っている。
だけど、そんな気分というのは伝染するものだ。
道行く人々の表情も、何となく浮足立っているように見えた。