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胸元を押さえていると、九曜が覗きこんで、
「どっか悪くしたのか?あいつに何かされたか」
心配そうな顔をするので、淡雪は首を振った。
「いいえ。それより九曜、あなたどうしてここに?神祇官は儀式のために駆り出されているはずでしょう」
痛いところを突いたのか、九曜は渋面になる。
「まさか、サボり?」
「俺がいなくたって何の問題もないんだ、儀式なんて面倒くさいもん出てられっかよ」
「駄目ですよ。そういうこと言ってたら、いつまでたっても準神祇官」
「うるっせえよ!お前まで親父みたいな口利くな」
九曜は怒鳴ると、きまり悪げにふいと視線をずらした。
淡雪は、これはまた父親とひと悶着あったな、と心中で推察する。
祭政一致のこの国【花散里】では、最も位が高いのは【巫女姫】と呼ばれる存在である。
彼女は国の中心部である聖都【散花】にある神殿【咲耶殿】で守護神【咲耶姫】を祀り、神意を聞き、託宣を下す。
それを元に政が行われるのである。
その下には多くの神官や巫女が仕えている。
そして、巫女姫の側近であり宰相の役割を持つ最高権力者【神祇官長】は、九曜の父親、九雷なのであった。
九曜は父親とそりが合わないことが多く、衝突を繰り返していた。
神祇官長を継いで欲しいと願う九雷と、神殿の警護と巫女姫の護衛を司る、神殿内唯一の軍人である【宮主】になりたい九曜。
二人の意思は最初から平行線を辿るばかりであった。