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街は祝祭の空気に包まれていた。
市場を歩けばそこかしこから威勢のいい呼び込みの声がかかり、新聞を配る若者が景気良く話題をばらまいている。
子供も老人も若者も、皆笑顔で連れだって歩いていく。
温かい日差しが石畳の道を照りつけ、うっすらと額に汗をかかせた。
露天や屋台では、飲食や買い物ができたり、ちょっとした休憩所もある。
それらが大きく連なって、市場を形作っていた。
左手に籠を持った少女は、あふれる活気に目を細めながら、その間をねり歩いていた。
――今日は朝から何だか胸騒ぎがする。
良いことなのか、悪いことなのか、わからないけれど。
新鮮な野菜や果物をじっくりと吟味し、主人に銅貨を渡す。
言いつけのとおり魚や小麦を買うために踵を返した時、不意に大柄な男とぶつかった。
「おっとお」
男はわざとらしい声をあげて、よろめいた。
少女は丁寧に頭を下げる。
「申し訳ありません。お怪我はありませんでしたか?」
男はにやにやと笑みを浮かべ、少女の腕を取った。
「ちょっとばかし胸をやられたらしい。あっちで休ませてくれねえかな」
まあ大変、と少女は目を丸くする。
「お医者様を呼んできますので、そこで待っていてください」
だが、男はがっちりと少女の手を掴んで離さない。
「大丈夫だって。姉ちゃんがしばらく付き添ってくれれば治るからよ」
「でも、ちゃんと診ていただかないと」
「いいから、いいから」
怪我人とは思えない強引さと勢いで、ぐいぐいと少女を引っ張ってどこかへ連れていこうとする。
少女は軽く溜息をついて、目を細めた。