海の編
飲みに行って、泥酔して、それから....。
俺は、何をしてたんだっけ...。
気付いたら海辺に突っ立っていた。
ぼーっとした頭で、俺は海を見つめる。
「海...だよな?」
磯臭さは無い...が、嗅いだことないにおいがする。薄紫色の波の中では、キラキラと何かが発光している。
夜空を反射したような海だ。
「えー、あはは、え??」
ここは一体、何処なんだろうか。
俺はポケットからスマホを取り出して、現在地の情報を知ろうと試みる。
「圏外...」
が、ネット圏外らしい。
本当に俺は何をしたんだろう。
辺りの景色を見回してみるも、永遠に続いてそうな砂浜だけ...。
適当にフラフラと歩いていると、近くに看板が見えた。
現在地がわかるかもしれないと、俺は看板に歩み寄る。
「イタ...バサミ....?ってとこなのか。バケツの精神世界と宇宙の狭間...?」
悪戯でたてられた看板だろうか...よくわからない内容だ。
俺はとりあえずスマホで写真を撮ってから、また歩く。
すると遠くの方にバケツが落ちているのが見えた。
砂浜にバケツ、普通にありそうな光景だけど、何処までも続く何も落ちていない砂浜と海が広がっているだけのこの場所では、不思議な光景に見えた。
ある程度近くまで歩いていくと、それがただの無機物じゃなく何らかの生物であることがわかる。
バケツを被った.....なんか見たことない生き物だ。
その生き物は何やら、浜辺に光る物体を並べてじっと見つめていた。
「あの..」
俺は声を掛ける。
少し不気味な生き物だけど、怖い感じはしない。
「はい?あ......うたにさん」
変な生き物は俺を見ると、驚いた様子でそう言った。
聞き覚えのある声だ...確か...。
「ばけっちゃん..??」
俺は半信半疑で尋ねる。
そういえば先程の看板にバケツの精神世界と宇宙の狭間って書いてあったような..。
「え?よくわかりましたね」
正解だったのだろうか、俺の膝小僧にもみたない身長のその生き物は、感心したように言った。
「ばけっちゃんはここで、何をしてたの?」
俺は先程光る何かを集めてじっと見つめていたばけっちゃんを思い出して、尋ねる。
「感情の寿命を観察してました」
ばけっちゃんはそう言いながら、海を指さした。
「この海に流れてるあの光ってるクラゲは、具現化した自分の、もしくは誰かの"感情"なんです」
「感情....」
俺は並べられた光るものに改めて目を落とす。
先程まで光っていたクラゲは、徐々に砂と化していた。
「寿命って...」
感情の寿命..。この砂と化してきている状態は寿命を迎えたということだろうか。
「あぁ、感情は寿命が短いので、たまにこうして並べて楽しんでます」
ばけっちゃんは砂になりかけたクラゲをつんつんとつつく。
完全に砂と化したクラゲはサラサラと風に流れた。
感情の寿命、思い出とは違うんだろう。
今現在の感情がまんま見れるらしい。
「....あ、そういえば...ここからどうやったら帰れるのか、知らない?」
俺は尋ねる。
スマホの充電も残り少なく、どうにかなるという気持ちの底に少し不安があった。
「あぁ、一定時間いれば自然に帰れますよ、それまで自由にしてたらだいじょぶです」
「あ、そうなんだ」
ばけっちゃんの言葉に、俺は少し安心する。
「あ、やっぱり感情って寿命が短いですね」
ばけっちゃんは海の方を見ながらそう言った。
「さっき並べてたのって、ばけっちゃんの感情?」
「うん、自分じゃよくわかんなくなるので、ここに来て可視化してます、よきまる」
「へぇ..自分のか誰かのって言ってたけど、俺のもあるのかな?」
あの広大な海からどうやって探すんだろう。
そもそも、クラゲだらけの海に入って探すなんて無理ではないんだろうか。
「うーむどう説明したらいいか...実際やってみましょ!」
ばけっちゃんはそう言うと、バケツの中から釣竿とメッセージボトル、それから紙とぺんを取り出した。
「まず紙に、今、頭に浮かんだことをできるだけ書きまくります」
俺は紙に綺麗な景色だなぁとか、なんか変な状況だなぁとか、帰れるなら普通に楽しいとか書く。
「そしたら次は、紙をメッセージボトルにいれて封をして、釣り糸を縛り付けます」
「ほぉほぉ」
俺は説明通りにメッセージボトルに釣り糸を結びつける。
「あとは、海に向かってメッセージボトルを投げると、自分の感情が反応してメッセージボトルに張り付いてくるので、数秒待って引き上げれば自分の感情が釣れます!!」
「なるほど」
俺はメッセージボトルを海に投げ入れて、数秒後に釣り上げる。
メッセージボトルには数匹のクラゲが張り付いていた。
「えー、はっは、おもしろ、なにこれ」
俺は張り付いたクラゲを見ながら言う。
「引き上げちゃえば毒性は無くなるので、素手で触れても大丈夫ですよ」
ばけっちゃんは言いながら、俺のクラゲをひっぺがして砂浜に並べる。
「これは...何がどの感情なのかな?」
「触ったまま目をつぶったらわかりますよ」
「へぇ〜」
俺はクラゲに触れたまま、目を瞑る。
するとふんわりと頭に文字が浮かんできた。
「楽しい....?ええええすっご、面白いね」
俺は笑って言う。
「何の感情なのかを認識したら寿命が短くなる子が多いので、なんの感情か見ないまま眺めるのもよきですよ」
ばけっちゃんは言いながら、使った道具を自身が被っているバケツの中にしまう。
四次元ポケットてきな何かなんだろうか。
「あれ...そろそろ時間かな?」
「時間..?」
そう呟いたと同時に、耳元でテレビの砂嵐のような耳鳴りがする。
「うたにさん、最後にあこちゃに伝言して欲しいことが...」
最後...最後ってことは。
「もしかして、俺帰れるのかな?」
唐突な強い眠気に、立っていられなくて座った。
「はい、多分起きたらベッドで寝てると思います!」
ばけっちゃんはそう言って、俺のまわりをおろおろと歩き回る。
「あこちゃに、もうそろそろですって伝えてください」
強い眠気に、意識が遠のいていく中、ばけっちゃんの声が聞こえる。
もうそろそろ...もうそろそろが何かわからないけど、伝えておくね。
眠過ぎて声を出すことは出来なかったけど、心の中で返事をした。
「.....」
頭痛がひどい。
帰ってきた...のか、夢を見ていたのか...。
なにがどうなったのかは覚えていないけど、俺は無事、ちゃんと自宅で寝ていた。
「...今何時かな」
スマホを確認しようとスマホに手を伸ばす。
砂が手に着いた感覚に、俺は反射でパッパと手の砂を払う。
「砂...?」
変だ。だってさっきのは夢のはずで..。
「....まぁいっか、なんか面白い夢見たなぁ」
俺は気のせいということで、済ませることにして、二度寝した。




