第8話
明楽『…………』
華惏『何やってるんだお前』
時刻は進み月が夜空に輝く時間となった
あの後しばらくは明楽は美澪といたが美澪も美澪で明日の用事があるので、無事家に送り届けた後、ボーッと部屋でただしていた
夕飯も今日は要らないと明楽は言い、楓鈴が心配し「食欲がないならお粥でも作りましょうか…?」と聞いたが明楽は要らないと首を横に振った
だが代わりにお茶を持ってきて欲しいと頼み、楓鈴が持ってきたお茶と何かしらやはり食べて欲しいという楓鈴の願いからお盆の横には丸く一口サイズに握られたおにぎりが乗っていた
それを持ちそっと廊下に出ると窓を開け縁側に座ると夜空を見上げながら明楽は一人お茶とおにぎりを静かに飲み食いしていたところだった
そこに通りかかった華惏が声をかけたという訳だ、海冷が出来上がるまでは娄家で預かることになっていて、華惏の出生も明楽の親族という事になっていた
ちょうど過去を遡れば家系には鬼の妖はいるし、明楽と華惏の顔もほぼ同じようなものだ
何も知らない一般の妖達は直ぐにそれを信じた
それに明楽の親族関係ならその強さも納得いくと
明楽『別に、なんだって良いだろ』
ぷいっとそっぽを向きながら明楽は返事をした
華惏『良いわけないだろ、楓鈴達が心配してたぞ』
明楽『………』
華惏のその言葉に思わず黙ってしまう明楽、明楽にとって楓鈴は兄のような存在だった、本当の弟のように可愛がってくれた
今だってこの心配は主がというのもあるだろうが、楓鈴は主従関係だからという契約上での心配してる訳ではなく、本当に自分の弟がのように心配してくれた
当時の明楽からすれば家族が消え、深い闇の中に落とされ迷子になっていたところ、そこに楓鈴が灯りと共に手を優しく差し出しずっと明かりの方へと導いてくれたようなものだった
美澪と出会うまでずっと、出会った今でもずっと、優しく手を握ってくれたままだ
いつかその手を離す時が来ても、きっと楓鈴は優しく明楽の背を押し頑張れと微笑みながら応援してくれる事だろう
そんな楓鈴には明楽も恩は感じている、それに懐いてもいた、その為明楽は楓鈴にだけは、あまり強い態度では出れず華惏のその言葉に黙ってしまったのだ
華惏『それと、あの妖狐の事だが、あいつは会社も家も琳帆らしいからな、柊菜が処分を既に下したからお前はもう引き下がってろだとよ』
明楽『…美澪と、あいつにいきなり襲いかかったのは良くないから謝るのと、それと共に菓子を送る事を約束した……、からそれだけはするからな…』
明楽のその言葉に華惏は驚いて目を丸くした
華惏『お前、そんなに素直な良い子だったか?』
明楽『ふん』
その言葉に少し不機嫌そうにしながら明楽はおにぎりを一つ口に入れた
華惏『まぁ別に何でも俺は良いがな、ただ楓鈴には一度顔を出しとけよ、…あんなにも想ってくれる奴がいるのは、恵まれている事だと気付け、…お前は俺と違うんだから』
最後の言葉だけ毒を吐くかのように言いながら華惏はそのまま自分の部屋へと戻って行った
明楽『……同じ過ちを、するところだったのか…』
夜空を見上げながら明楽はそう呟く
明楽『……美澪が、恋しいなぁ………』
また一つおにぎりを口に入れながら明楽は愛しい恋人の顔を思い出し早く会いたいと願いながら、月を見つめていた
そして時は経ち数日後、今度は場所は美澪と颯清の家へと変わる
因みにだが大会の優勝者はもちろん白虎だった、貰った優勝賞品はその日のうちに全て使ったらしい
美味しいものを沢山買っては家で食べ、途中で抜けた美澪にも白虎はお土産を買ってくれていた
美澪『えーと…ここの選択肢は……』
リビングのソファーで美澪は悩みながらスマホを触っており、その隣で明楽がかなり露骨に不満そうな表情をしながら美澪のスマホの画面を覗いている
明楽『美澪、俺はこいつが嫌いだ』
美澪『あっそう、けど私は進める』
明楽『何故だ……!!!!』
颯清『あははは……』
明楽が叫びそれに颯清が苦笑いを浮かべている
美澪がスマホをいじっているのはゲームをしているからだ、ただゲームをしているだけならまだ良い
やっているゲームの内容があれだから明楽は騒いでいるのだ
明楽『許さんぞ渚沙ぁ……』
どこか恨めしそうに名前を呟く明楽、渚沙とは美澪がやっているゲームに出てくるキャラクターだ
そもそも美澪が今やっているゲームは乙女ゲームと呼ばれるものだ
因みにゲーム名は「私の夢の青春」、通称「夢春」らしい
美澪自身は特にゲームをする事も無ければ乙女ゲームというものもした事はないしどちらかと言えば特に興味はない
だが高校時代、どのキャラが好みかと夢春プレイしている友達に聞かれ色々な画像を見せられたあと、美澪は渚沙を選んだ
特に中身はというより見た目で選んだが
理由は見た目が明楽と似ている為だ、いつ終わるか分からない戦いが続いてた中、せめてゲームの中くらいなら……、と明楽と似ている渚沙を選んだわけだ
後日の放課後、その友達は渚沙のぬいぐるみを持ってきてはぜひプレイしてみてねと半場強引にそのぬいぐるみを美澪に渡すと、早々と帰っていった
返すにも友達は既に帰ったし人からプレゼントと渡されたものを返すのは失礼なのではと色々考え、そのままアプリをダウンロードし、今に至るわけだ
それからはちまちまとログインしてはストーリーなどを進めてとプレイしている
明楽『俺の美澪が…ッ』
美澪『取られてないから静かにして明楽』
その言葉に明楽は嬉しさ半分、プレイしてるのは乙女ゲームと複雑半分の気持ちだがあくまでゲーム、と何とか堪えた
明楽『ところで、あの忠犬達はどこだ?いつもいるだろうに』
美澪『忠犬じゃなくて青龍、青龍達ならお出かけだよ』
颯清『十二天将達でお出かけなんだって、今までの間ずっと戦いのことばっかりだったから、色々楽しんでほしいよね』
まぁ青龍達がいないならいくら美澪とイチャつこうが止められないな、とそんな事を明楽は考えているその頃の十二天将達はと言うと駅にいた
天后『はーい皆こっちこっち!』
駅の先頭を歩くは天后、今日のお出かけの発案者も天后だ
天后『さぁみんな僕に着いてきて!まず行先はアパレルショップだよ!……どっかの誰かさんがクソダサい格好で来たからね、それを知っててわざとならまだしも、無自覚なのがまた怖いよね〜』
ね、青龍?と天后はそう言った
青龍『……だって、服なんか…選んだ事ないし……別に今まで着替える必要もないし…』
と、対する青龍はボソボソと呟きている、真っ白なTシャツに「忠」と大きく黒の文字が表面にプリントアウトされたものにグレーのパーカーを羽織っていた、最初これを見た時海部家の十二天将達は目を点にしていた
そのTシャツがダサいと称される部類のものだと知って尚且つそれが好きだからわざと着ているというのなら天后もそれは人の趣味なのでダサいとは思いつつも口出ししようとは思わなかった、自分だって好きなものを否定されたら悲しくなる
だがそれを知らずに着ていたというなら話は別だ、指摘する
指摘しても尚、それが好きだというならそれ以上何かと言う気はなかった
そもそもあまり式神達は着替える必要も出かける必要もないため、あまり各々の私服の事なんぞは知らなかった、天后だけはよく色々着ているため除外だが
天后『何?なんか言った?ダサいと知ってどうにかしてくれと僕に頼んだのはどこの誰かな?まさかまさか〜、言い訳なんか…してないよね?』
青龍『………』
天后の完全論破と言うべきか、青龍はバツが悪そうににそっぽを向いていた
天后『しかも服がそれ一着しかないってのも有り得ない!怜月どうしてこれ見逃してたの?わざと??わざとなの??』
貴人『いやこれは…その、…怜月も予想外だと思うよ……』
服が一着しかないとなれば着替えられない、その為貴人達も止めようにも止められずそのまま連れてきたというわけだ
天后『…これを機にその青龍のダサさは直してもらうからね!!』
店についたら覚悟してよね、と天后は言いながら更に先へと進んだ