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祝福のエピローグ  作者: アレン
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第7話

明楽が向かった先は星蘭の娄家


バッと庭に降り立つと庭で掃除など仕事をしていた妖は驚いていたがそんなのはお構い無しにと明楽はそのまま玄関先へと向かい、美澪はすれ違う妖達に「ごめんなさい」と手を合わせて謝っていた



更に廊下を走って進むと今度は廊下を掃除していた楓鈴にぶつかりそうになった



楓鈴『わ……ッ、え、明楽様……!?』


明楽『…すまん……ッ』



短く謝りながらそのまま楓鈴の横を走って通って行く明楽



楓鈴『もー明楽様…!廊下を走ったら危な……あら?』



再び走る明楽に楓鈴が注意をしようと口を開いていたがふと目に入ったもので口を一旦閉じてしまった



楓鈴『こんなところに水が…?水をきちんと絞れてなかったのかな……?』



と、持っていた雑巾でその点々と落ちている水をサッと拭き取った







そして場所は変わり、楓鈴のいる廊下から明楽の自室へと移る




部屋に入るなり急いでドアを閉めるとそっと美澪を下ろした



明楽『美澪、大丈夫か…?』


美澪『う、うん…私は大丈夫だけど……』


明楽『そうか…なら良かった……』



ホッと一安心するとそのまま明楽はベッドにダイブするように倒れ込み、仰向けに寝転んだ





明楽『……あんな光景だったんだ……』



ポツリと明楽は呟いた



美澪『…え?』


明楽『…父さんと母さんと俺と……最後の…一緒に出かけた…あの日……』



その言葉に美澪は一瞬ヒュッと喉を詰まらせたが何も言わず聞こうと、明楽の傍に寄るとそっとベッドに美澪も腰掛けた



明楽『俺の父さんはな…強くて…かっこよくて…星蘭の民の事も色々考えていて……優しくて…母さんの事を沢山愛していて……、妖力的な強さで言えばきっと俺の方が上だ…父さんより強くなった……』


美澪『…うん』


明楽『母さんは…母さんもとても優しかった……平和を好んで…とても綺麗で……凄いんだぞ、妖界で噂されるくらいの美女だったんだ、……どちらかと言うと…都会の賑やかさより…田舎のまったりした時間を好むような人だったんだ……』


美澪『…うん』


明楽『…あの親子のように……仲良く手を繋いで…歩いて…楽しみだねって…何しようかって……ッ……いっぱいいっぱい聞いてくれて……ッ…』



そう話していくうちに明楽は涙をまたぽろぽろと流し始めた



明楽『平和な世になって…今更気付くんだ……ッ、俺が……わがまま言ったから…飛べばきっと平気だったのに……ッ、…俺がわがまま言ったから…俺が……ッ…父さんと母さんを殺したんだ…ッ……そして惰殺も生まれた……ッ…』


美澪『……明楽、…もういいよ……良いから…』


明楽『…本当は父さんも母さんも恨んでるかもしれない…!お前のせいで死んだって…俺の事…恨みながら死んだかもしれない……ッ……平和になって今まで見えてこなかった景色が見えて……』


美澪『明楽…ッ』



美澪はもう見ていられない、と大粒の涙を流し苦痛そうな表情を浮かべる明楽をそっと起こすとそのまま抱きしめた



明楽『…見えなかった景色が見えて、色々知って……更に苦しくなって……ッ…自分のせいで、が沢山見えてきて苦しいんだ……ッ……知ってるんだ、父さんと母さんが死んだのは自分のせいだって……!弱いからじゃないって…!ただそれを知りたくないから……ッ…分かりたくないからそう思って逃げて……、でも平和になって余裕が出来て…改めて見ると……もしあの時あんな風にならなければきっと…今頃父さんも母さんも生きてて……ッ…』



後悔と懺悔の涙を流し、抱きしめ返しながら美澪の胸の中で明楽は蓋が外れ中のものが溢れ出すように次々と沢山の想いを吐き出した



明楽『こんなにも苦しいだなんて知らなかった…ッ、今まで逃げていた分更に苦しい……ッ…』


美澪『…うん…うん、苦しいね……明楽も沢山たくさん苦しかったね…良いよ大丈夫…、私が聞くから、大丈夫だよ…』



今まで自分が傷付いた時は明楽が守ってきてくれた、から今度は自分が守れるなら、守りたいと美澪は感じていた


もし話を聞くだけでも明楽が楽になるのなら、と



誰にも失敗はある、それは仕方ない


だが明楽がした失敗は「仕方ない」で決して片付けられるものではない



現に力弱い妖も、美澪達の先祖も、他の一族達も、傷付き、死んで、滅んでいった



美澪お姉ちゃんと慕ってくれている陽向も、叔父の蛍路も、父親の怜月も、沢山傷付き怪我をしては涙を流してきた


もちろん颯清も麗仁も同じだ



仮に妖界では「弱ければ死ぬ」が当たり前でそれが常識となってるなら別だ、この世界はそういうルールで成り立っている、そうであれば別世界の人間が口出しすることではない


だが人間界にも被害は出ている、何人も死んでいる



だからこそ決して「仕方ない」では片付けられない


だがその憎き相手に恋をしている自分もどうかしていると美澪は思ったが、好きなものは好きなのだ



憎しみよりもそれを上回る沢山の愛情を貰ってきた、それに先祖の仇といっても美澪達が生まれてきた時代は既に十二天将や八将神が揃っており、惰殺の情報も沢山あった


それに他の一族達の顔を知らない、惰殺のせいで死んだ人間も見てない、怪我は見ても死までは見ていない


からこそイマイチ憎しみの実感も湧かないというのもあった




十二天将達はまだ微妙な感じではあるらしいが、意図的にではないと分かるとまた少し考えを改めたそうだ


すぐにそう考えを改められるのは十二天将達曰く「もしかしたらまだ、感情の整理がついてないのかも」らしいがまぁ、十二天将達にもそれぞれ過ごしてきた時間がある


色々あるだろうとは思う、感じ方も人それぞれだ



明楽『…また大切なものを失うのが怖い……もう嫌だ…ッ……あんな思いはもう沢山だしたくない……ッ…』


美澪『…うん……そうだね…』


明楽『…だから俺は強くなった…俺はもう失いたくない……だから相手を守れる力を手に入れた……ッ…』


美澪『…うん…』


明楽『だからもう誰であろうと大切なものを傷付ける奴は許さない…きっと誰だってそうだ……、自分の大切なものを傷付け壊されれば怒るだろ…、だから……』


美澪『…でもその相手も、誰かの大切なもの何だよ』



そっと明楽の頭を撫でながら美澪はそう呟く



美澪『負を負で繋げては駄目、難しい事だとは思うけど、どこかでやめなければずっと負は続いてく』


明楽『………』



グスッと鼻をすすりながらも美澪の話を明楽は静かに聞いている



美澪『もしあの時あの子を殺していたら、あの子の家族や友人はとっても悲しむ、もし恋人がいたなら恋人も悲しむ、そしてきっと明楽を憎むと思う、強い者に楯突いたのが悪いっていう結論に至っても、それでも明楽には良い感情は持てないとは思うよ』


明楽『……ん…』


美澪『もし逆にあの子の立場に明楽がいて、明楽の立場にあの子がいて、あの子が明楽の事を殺していたら私はきっとあの子の事を死ぬほど恨む、絶対許さない同じように殺してやるって思う』



物騒な話だけどね…、と苦笑いをしながら美澪は話を続ける



美澪『傷付けられても同じ、許さないって思う』


明楽『………』


美澪『そうするとほら、負が繋がった、これでもしあの子を私が殺した、今度はあの子の誰かが私を恨んだ、そして私は殺された、そうしたら今度はまた誰かが私の死を嘆き相手を恨みまた誰かを……って沢山負が繋がっていく』


明楽『………そう…だな……』


美澪『だからどこかでそれを切らなきゃいけないの、それを明楽は納得してやめてくれた、それが出来ただけ…昔の話を聞く限りだと、明楽は成長したと思うよ』


明楽『……お前は本当に…本当に……優しいなぁ……ッ……』



美澪はそれに何も言わず、ただ明楽の事を抱きしめているだけだった



明楽『……久しぶりに泣いた…辛いとかの本音を吐き出した……ありがとな、美澪…』


美澪『ううん、大丈夫だよ』



ぎゅっと明楽は美澪に更に抱きつくと美澪は優しく抱きしめ返した




美澪『私だって人間だし妖にも感情はある、だから相手が憎いって思うのは仕方ない、だけどその感情とどう付き合っていくかできっと色々変わると思うんだ』


明楽『……そうだな…お前がそう言うのだから…きっと、そうなのだろうなぁ……』


美澪『…人の命は簡単に奪っては駄目、明楽はそれを一番よく分かって、それを悔やんでいるんでしょう…?』


明楽『………』


美澪『お互いごめんなさいしよ、直ぐに手をあげようとした明楽もあれだし、いきなり水をかけてきたあの子も悪い、両者とも悪いならお互いごめんなさいして仲直り、それが一番良いよ』


明楽『……美澪が、そう言うなら…』



まだ納得してない部分もあると言いたげな表情を明楽は浮かべていたが、自身に頭に血が上って行動してしまったのも事実なのは分かっているので、後々謝罪文と菓子でも送ると明楽は美澪に約束したそうだ


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