第2話
美澪『………』
楓鈴『お隣、よろしいでしょうか』
そう言いながら美澪の隣に座った楓鈴
楓鈴と出会った後、兄がいたのかと人間三人は驚いていたがあの場で話すのもあれだし疲れただろうと、とりあえず家の中に入った
明楽と蓮璻は着替えてくると別室に行き、美澪達は広間に案内されお茶やそれに合うお菓子を出され食べながらのんびりとしていた
少し外の風にあたりたいと美澪は部屋を出てすぐ前にある縁側に腰を下ろし空を眺めていたところそこに楓鈴が来たというわけだ
美澪『あ、楓鈴さん…』
楓鈴『ふふっ、風が気持ちいいですね』
風が吹きザァッと葉擦れの音を聞きながら楓鈴はそう言う
美澪『あはは、そうですねぇ…』
楓鈴『…あ、明楽様はまだもう少しかかりますよ』
美澪『へ…!?』
明楽を待ってると思われ、そうじゃないとあわあわ慌てる美澪だが、実際のところ心のどこかでは、少しは、明楽の事を待っていたのかもしれないが
楓鈴『明楽様からお話はよく聞いていますよ、美澪が可愛かった!…って』
明楽のモノマネを挟みつつ穏やかにふふふっと笑いながらそう話す
楓鈴『直接会ったのは今日が初めてですが、貴女様にはとても感謝しているのですよ』
美澪『私に…?』
楓鈴『ええ』
美澪が本当かと聞くと楓鈴はそうだ、とこくりと頷いた
楓鈴『波瑠様と紅葉様…、明楽様のご両親が亡くなられてから、明楽様はずっと寂しくなんかないと仰っていましたが…その、ずっと表情が暗いままで…』
少し顔を俯かせながら楓鈴は言葉を続ける
楓鈴『子供の頃でしたから余計寂しかったでしょうし、その後も表情にはあまり出ませんでしたがあまり笑う事がなくて…』
波瑠と紅葉が亡くなった後、明楽の笑顔は減った
心の底から笑うというより、作られた笑顔という方があっている
楓鈴『美澪様にはちょっと辛いお話になるかもしれませんが……、明楽様は大人…と言ったら良いのでしょうか、あまり私達に正確な年齢がなくどちらかと言えば感覚的に、なのできちんとした事が言えないのですがきっと人間からすれば大人と呼ばれる年齢くらいになった頃から、明楽様はだんだんと何人かと恋人とまでは言えませんがかなり親しい関係を持つ方達がいまして…』
例の「穴を埋める」とやらの人達の事だ
美澪『…ああ、少しですが、その事は明楽から聞きました』
楓鈴『…親しいはずなのにいつも作り笑顔で、何かを探し求めるように作っては駄目だったと別れてを繰り返していて……ずっと、苦しそうで……、私は明楽様とは主従関係なのであまり言えませんが歳のこともあってか蓮璻とかなり近い年齢ですのでどこか弟の様にも思っていてですね』
あはは、と笑いながら「この事は秘密ですよ」と付け足し話を続ける
楓鈴『ある日、珍しく笑顔で面白い人間を見つけたと報告してきたのですよ』
美澪『もしかして…』
その事を聞いて何となく察しがつく美澪
楓鈴『ええ、美澪様の事です、その日からちょくちょく色々と何があったかを報告してきてですね』
美澪と出会った日から、明楽は少しずつ心の底から笑うようになった
今日は何があったか、どこに行ったか、どんな事をしたか
少し経てば明楽が話す内容は美澪の事ばかりになった
楓鈴『ふふふっ、一番驚いたのは人間になると仰った時ですね』
美澪『ぁ……』
楓鈴『あ、申し訳ございません…、美澪様が悪いわけではごさまいません』
現在唯一の娄家の者である明楽、その明楽が、言い方が悪いが娄家を捨て人間を選ぶとなればやはり美澪は「自分が…」となるのは仕方がない事だった
楓鈴『最初にも言った通り、私は美澪様に感謝しています、明楽様がまた笑うようになったのは美澪様のおかげなのです』
にこっと穏やかに楓鈴は更に微笑む
楓鈴『もちろん寂しいかと言えば寂しいにはなりますが、それが明楽様の幸せになるのなら私はそれを全力で応援したいのです』
美澪『楓鈴さん……』
明楽『おい楓鈴、美澪と何を話しているんだ』
声のする方を見れば明楽が駆けてくるのが見える
明楽『ずるいぞ楓鈴…!俺だって美澪と二人きりで…ッ』
美澪『明楽、落ち着いて』
まったく、と呆れながらも美澪は明楽をなだめている
楓鈴『ふふっ、少々昔話をしていただけですよ明楽様』
よいしょ、と楓鈴は立ち上がり広間の障子を開ける
楓鈴『明楽様に美澪様、そろそろ日が落ちてきて気温も昼間よりは下がりますがまだまだ夏場、お話するならお部屋の中でお願いします、冷たいお茶と美味しいお菓子をご用意しておりますから』
美澪『あ、そうだったせっかくお茶出してもらってるのに…!』
明楽『ふむ、美澪が戻ると言うし俺も部屋の中へ行くか』
二人は他のメンバーがわいわいと騒いでる輪の中へ戻って行き、その背を楓鈴は目を細め嬉しそうに見つめる
楓鈴『それでは、明楽様と蓮璻のお茶のご用意をしてきますね』
ペコっとお辞儀をし障子を閉めると厨房の方へと楓鈴は向かう
楓鈴『…波瑠様、紅葉様、明楽様はお元気にやっていらっしゃいますよ』
ふと楓鈴は足を止め茜色に染まる空にうっすらと白く見える月を見上げ、そっと静かに呟くとまた厨房へと歩きはじめた
なんて言うのが美澪達と楓鈴との出会いだ
蓮璻『ほらこれ、半年事に琳帆で開かれる大食い大会のお知らせ』
明楽『まだこれやってるのか』
蓮璻『そういう事言わないの』
こらっ、と蓮璻に叱られながらも明楽は蓮璻から紙を受け取り内容を見る
明楽『美澪、行くか?』
美澪『どんな内容なの?』
と、美澪も紙を覗き込む
内容としては名前の通り大食い大会なので、制限時間内に沢山食べた者が優勝という事だ
そして勝者には景品が贈られる
明楽『今回の景品はー……ほう、商品券か』
美澪『わっ、凄いよ5万円分だって…!!』
金額の多さに純粋に凄いと目をキラキラさせる美澪
明楽『誰か出るか?』
華惏『いや普通に考えて無理だろ』
麗仁『そんなに大きな胃袋は持ってない…』
白威『僕も、そんな優勝出来るほどの胃袋なんか持ち合わせてないぞ』
颯清『んー、じゃあ今回は皆で見てるってことはどう……ぁ』
途中まで提案していた颯清だが、突如思い出したかのように「あ」と声を出す
茜璃『どうしたの颯清?』
颯清『…いたよ、優勝候補の胃袋の持ち主……』
その言葉を聞いて美澪と麗仁も「あ」と声をあげた
美澪『白虎…』
蓮璻『あー……』
白虎という言葉に華惏以外のメンバーは納得がしたかのように頷いた
華惏『どういう事だ?』
美澪『いや、あのね……___』
あれこれととにかく白虎が規格外の胃袋の持ち主だと説明すると直ぐに納得した
華惏『なら、白虎が出ては駄目なのか?』
颯清『んー、白虎自身は出たいって言うかもだけど…』
明楽『ならひーちゃんに聞くが一番だな』
と、後日明楽が柊菜に聞く、という事になった