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その朝  作者: 三宮新真
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第九話 パワー


俺は南の悪さをよく知らない。

その春、俺が転校してきたクラスでは、そのクラスの担任教師は係を選ぶときそれぞれなりたい係に立候補させ、人気がある係に定員以上の人数が集まったとき無記名で人気投票をさせた。たとえば、定員4名の動物係に6名の立候補者があったときは、その6名を黒板の前に立たせ残りのクラス全員に紙を配りその係にふさわしいと思う子の名前を無記名で書かせ、それを読み上げるのだ。黒板に立候補者の氏名とその下に正の字がたてに並び上位の4名が動物係の担当者となるというわけだ。

俺はどの係がおもしろいとかやりたいとか、よくわからなかったので立候補者が少ない放送係に立候補した。 

「放送係になりたい人は手を上げてください。係は4名です。」といわれたとき、目立たない女の子が一人手を上げた。他に誰も手を上げないので俺もおずおずと手を上げた。

「2名だけですか?じゃあ4名のうち2名は三宮君と森下さんに決定です。残り2名は後で決めます。」

結局残りの2名は他の係の人気投票に負けたものがなった。男子の松山などは3回人気投票に負けて最後に放送係になった。投票はもう無かった。

放送係の仕事は朝のチャイムと帰りのチャイム、昼休みの放送で音楽を流したり、ニュースのようなものを読んだりと割と忙しそうだった。

活動の初日に放送室に集まって仕事の説明をされたとき何がなんだか全くわからなかったが、5年と6年で受け持っているため、6年生の先輩がとても頼もしく見えた。

俺と森下さんはなぜか少しわくわくしながら、投票に負けて選ばれた二人はいやいやながら活動に参加していた。

そこで南と会った。

南は俺と同じ5年生だったが、違うクラスなので転校生の私にとってはほとんど、というより全く知らない人間だった。

体が大きく動作も大きく声も大きかった。放送係の仕事を全くやろうとしなかったし他のメンバーは6年生も含めて、そのことを注意しなかった。役割を分担するときも南にはどうでもいい仕事、やらなくてもいいような仕事を割り当てた。それは企画という仕事だった。放送のために何か企画を考えるらしいのだが実質今までの係は何もしなかったらしい。

毎年の一年間の行事を去年の資料をもとに入学式、運動会、文化祭、卒業式等スケジュールを立て企画をするのだが、実務は別のチームが行うので、何も企画を立てなくても去年のスケジュール通りには進行するわけである。実際には去年のおさらいをするだけだった。

その企画に俺と南と他二人の女子の5年生が選ばれた。

女子の二人は南をはずして3人で打ち合わせをしようと言った。俺が

「?南も係だろう?」というと二人は

「どうせ呼んでもこないわ」声をそろえた。

結局6年生の先輩二人と俺たち三人で打ち合わせをして、何日か過ぎていった。

南は週一回の放送係の集まりにも来たり来なかったりで、来たときもすぐ帰ってしまった。そのうち南の悪口がいろいろ聞こえてきた。

「南君は乱暴だからいやだ」

「あんなやつ大嫌い」

そういう声に俺は南の実際の乱暴を見ていないので

「そうかなあ、普通のやつじゃない?」と言った。が即座に

「三宮君は知らないだけ!4年のとき南君、先生の前で暴れて先生泣き出しちゃったのよ。」

「すぐ暴力振るうし、」といっせいに声が上がった。

俺はだが本当に南がそんな風に見えなかった。

そんなあるときの下校時、靴を履き替えるところでたまたま南と一緒になった。南が靴を履き替えているときスノコが動きハズミで南が転んだ。

「いってぇ!てめえ何するんだ!」南は大声をあげて俺をどついた。俺は

「あっごめん」と転んだくらいでオーバーな奴だなと思いながら、南を置いて帰った。

次の日、南は足に包帯をぐるぐる巻きにして杖をついて学校へやってきた。親指の生爪を剥がしたのだった。そして放送室へ俺に復讐しようとやってきた。

他の生徒はその様子に怯えて南を見ていたが、俺は不思議と怖くなかった。

なぜか南の体の中に優しさのようなものをいつも感じていたからだ。俺は南に殴られたりして暴力を振るわれることは決してないと感じていた。南は

「お前のせいで遠足にいけなくなっただろう!」と強くどついたが、俺が

「ごめんね」とニコニコ見つめていると

「ちっ」と下を向いて痛む足を引きずりながらいってしまった。

南がいなくなってから他のみんなは

「南君、遠足いけなくなっていい気味よ」と真底憎々しげに話し合っていたが、俺が

「南は悪い奴じゃないよ」というと、馬鹿じゃないかという目つきで見た。

それから俺は中学へ南と同じ学校へ進んだが、南が喧嘩したり、暴力を振るったりしたところを一度も見なかったし、話も聞かなかった。

ただ、小学校の卒業アルバムの作文の中に南のことを書いた作文が三つあり、そのどれもが南の暴力をあからさまに非難していた。その作文の中の南の悪さと俺の知っている南とのギャップに妙な違和感を感じた。


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