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その朝  作者: 三宮新真
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第六話 友


岡本は最初、好かないやつだった。転校してきて間もない頃、友達のいない私は、昼休みは、いつも一人机について、窓の外でみんながドッジボールや鬼ごっこをしているのをぼんやり眺めていた。だんだん慣れてきて友達ができ始めた頃、私は昼休みにドッジボールに誘われた。

私は喜び勇んで、それまで読んでいた本をランドセルにしまい、あわててみんなの後を追いかけようとした。ランドセルをフックから落としてしまいバタバタしながら元に戻した。

そこに、岡本がいた。岡本は尊大な顔つきで

「何で慌てているか知ってるよ。ドッジボールに誘われてうれしいんだろう?」

と私の顔をのぞき込むようにして言った。

私は今までのうきうきした気分が一瞬のうちに醒めてしまい、ちっとも楽しくなくなった。そして、人の幸福な気分を台無しにする、なんて嫌な奴だろう、と思った。

しばらくたって、私はだんだんとクラスの中に打ちとけていった。

岡本は体が大きく運動神経もよくて、勉強もそこそこできた。一見、尊大な雰囲気なのだが、でしゃばりでもなくわりとまじめな生徒だった。

だが、岡本はいつも不意に私の一番傷つくことをズバッと言った。その後、岡本とは何度かぶつかったり嫌な思いをさせられたりしながら、不思議とグループの中では一緒に遊んでいた。

あるとき、あまりの嫌味さ加減に本気で怒ったことがあった。

「なんでそんなことを言うんだ。僕がどんなに嫌な気持ちになるのかわからないのか!」

私は顔が熱く、赤くなっているのを感じながら子犬のようにキャンキャン吠えた。そのときの岡本はいつもの尊大な態度が消えうせ、困ったようにうつむいて言葉をさがすようにもじもじしながら私を見ていた。

そんなある日、教室の中で人だかりが出来て何か揉め事がおきていた。中心にいて騒いでいる丸山のことが嫌いだったため、私はその騒ぎに興味がなかった。何かがなくなり犯人を捜しているようだった。そのうち私の名前が出た。

そして何度か私の名前が繰り返された。

「三宮がいたよ」

「さっき一人で教室にいたよ」

「犯人は三宮だよ」

私はまだ油断していた。

いきなり丸山が私につかみかかり

「おいっ三宮ぁ!俺の給食費を返せよ!」

と怒鳴り始めた。

「お前はどろぼうだ!!」

「えっ?何のこと?」

「さっきの休み時間お前一人で教室にいて俺のかばん触ったろ?川田が見ていたんだ!」

私はポカンとした。丸山は機関銃のようにがなり続けた。

「俺の給食費がないんだよ!お前が取ったんだ」

私は必死で記憶をたどっていた。

(僕が丸山の給食費を取った。それを川田が見ていた・・)あっと思った。ちがう!

「カバンは触ったよ。下に転がっていたからフックにかけてあげたんだよ」

私は余計なことをするんじゃなかった、と後悔した。丸山のカバンなんかほっておけばよかった。丸山は私の言葉を聞き終わらないうちにさらに大声で怒鳴った。

「ウソツケ!お前が取ったんだ!、こいつはうそつきだ!証人がいるんだ!」

クラス全員の目が私に注がれ始めた。

「僕じゃない、僕はうそつきじゃない・・」

私の弁解は声になって出ているのか、それとも心の中で叫んでいるのか判らなくなって来た。

私は孤立していった。

そのときだった。

「三宮じゃないよ」という声がした。

岡本だった。

丸山は今度は岡本にくってかかった。

「岡本ぉ!じゃあ、お前見たのかよ!誰かほかのやつが俺の給食費取るのを!それとも三宮のことをずっと見てたのかよ、取らないってどうして言える!」

岡本は静かに繰り返した。

「三宮じゃない」

「だからどうしてそう言えるんだって聞いているんだ!」丸山は、たたみかけた。

岡本はまっすぐ立ったまま静かに言った

「三宮が自分で違うって、言っているからだ」

「なに?」

「三宮はうそをつかない」岡本は目の前の丸山をまっすぐ見つめて続けた。

「三宮はうそをつかないし、人のものも取らない」そして周りを見渡した。

「みんな!今まで三宮がうそをついたり人のものを取ったりしたことがあるか!」

周りのみんなはざわざわとしはじめた。

「そうだよ、三宮君はうそをつかないよ」

「そうだそうだ、人のものを取ったりしないよ」

丸山が怖くて縮こまっていたみんなは岡本を肯定し始めた。丸山は真っ赤になって周りを見回して言った。

「ようし、わかった、岡本、お前がこれから一度でもうそをついたらぶん殴ってやるからな」

「だめだよ、うそをつかないのは三宮だ、俺はしょっちゅう、うそをついてるよ、うそだらけだ。はっはっはっ!」

岡本の笑い声につられて周りのみんなも笑い出した。

「ちくしょう、じゃあ、お前が取ったんだろう」丸山は今度は岡本に絡み始めようとした。

岡本は落ち着いて言った。

「俺は休み時間、教室にいなかった、みんなとドッジボールしてたさ、証人はいっぱいいるぜ。おかしな言いがかりはやめてくれないか。」

「ちきしょう・・」

丸山はぶつぶつ言いながら教室を出て行った。

丸山がいなくなって、私は岡本を振り返った。岡本はすばやく顔をそらして向こうへ行ってしまった。

次の日、丸山は給食費を家に忘れてきたことがわかり、大騒ぎして私を犯人扱いした丸山は先生にこっぴどく叱られた。先生に促されて丸山に謝られたような気がするがほとんど覚えていない。

その後、岡本とは何となく住む世界が違うような感じがして一緒に遊ぶことも少なくなり、つき合わなくなった。


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