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その朝  作者: 三宮新真
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第二十四話 真冬の太陽  


中村さんは転校ばかりしているらしい。ズングリして顔も体も四角い感じだった。お世辞にも美人とは言えず、小さい目に小さな鼻、薄くて横に大きく広がった唇。最初、僕はその子に全然興味がなかった。

 中村さんはカラフトというところから転校してきた。とても寒いところらしく僕らのいる北海道だって冬の夜は氷点下15度くらいになることもあるのに、

「こんな暖かいところがあるんだと思った」と言った。

 中村さんの声は外見に似合わずよく通る澄んだ声でいつも明るく笑いながら話していた。

 あるとき休み時間に僕たちが校庭で遊んでいるとき中村さんが

「私走るの早いよ」といつものように流れるような声で話しかけてきた。僕は、こんなズングリした子に負けるはずがないと思い

「じゃあ競争しようか?」と言った。

 中村さんはまたも流れるような澄んだ声で

「いいけど君じゃ勝負にならないよ」とニコニコ微笑みながら言った。僕はむっとして

「言ったな、校庭の端から端までだ」とわざと長い距離を言った。

「おー自信たっぷりだね」とまたも流れる声で。

「よーいどん!!」と二人は駆け出した。

 最初、僕がリードしたが、一瞬ですぐに中村さんに抜かれた。ズングリした体だけど足の回転が僕の倍くらいの速さでダカダカと走った。お世辞にもきれいなフォームとは言えないけれどものすごい力強さだった。そしてその力強く走る姿を後ろから見て、はじめて中村さんはずんぐりしたデブじゃなくて筋肉のかたまりのような体をしていることがわかった。

 校庭の端まで走って息を切らしてぜいぜい言っている僕の隣に汗ひとつかかないで中村さんは立っていた。そして言った。

「私の勝ちぃ!」その笑顔はまるで太陽のように輝いていて、思わずドキッさせるあふれるような笑顔だった。

 中村さんは体育の授業では女子の中ではもちろんダントツの動きで、男子のバスケットボールの試合にも人数合わせで参加したりした。背はちっちゃくても男子に全く負けていなかった。

先生もびっくりして学校対抗の試合の選手に選んでしまった隣町との対抗戦では大活躍をした。いつも貧しい同じ服を着ている中村さんがそのときは選手のユニフォームを着て別人のように輝いていた。

中村さんは勉強もわりと出来てテストの結果はいつも満点だった。でもそれを全然鼻にかける風でもなく、授業中は黙々と勉強して、目立たないようにしていた。

弱いものいじめをしているグループに対しては力強く流れる声で怒った。

「やめなよ、そんな事!つまらないじゃない!」

「なんだ!中村!!でけえつらすんな!!」とリーダー格の体の大きな子がすごんでも、平気な顔で言い返した。

「なによ、やるっての。この私と喧嘩したいって言うの。いい度胸じゃない。どっからでもかかって来い!」

小柄な中村さんのびっくりする剣幕に大きな体の4~5人のグループもたじたじとなってしまうのだった。中村さんの小さな目で怒っても表情はあまり怒っているようには見えなかったが、体全体から湯気が出ているような熱気に満ち溢れていたのだ。

不良グループが言ってしまうとすぐにいつものニコニコした中村さんに戻って

「行った行った。みんな、あんな奴らにまけるんじゃないよ」と明るく言った。


「中村さんはすごいなあ」

みんなそう思っていたし、僕も思った。まるで宇宙人というか、なにか別の世界の人間のように感じた。

でも、結局、一学期の途中で転校してきた中村さんは夏休み前にまた別の学校へ転校して行ってしまった。

最後の日、みんなの前で中村さんは転校の挨拶をした。泣き出している女の子の前で中村さんは相変らずニコニコして

「別れは出会いの始まりだよ、なんちゃって、」とおどけていたが、そのうちに

「うっ、」というと変な顔になり涙をぽろぽろと落とし始めた。

「やだあー、みんなが泣くからつられて涙が出てきちゃったじゃないのー」

「私、転校ばかりしているけど泣くのなんて初めてだよー、だってこの学校って本当にいい子ばっかりなんだもの、私だって悲しいよぉー」と中村さんは本当にはじめて泣くかのようにへんてこな泣き方をした。

中村さんが転校してしばらくしても学校では中村さんのうわさでもちきりだった。



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