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その朝  作者: 三宮新真
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第二十三話 令嬢  


竹原さんは学期の途中に2ヶ月遅れて転校してきた。みんなと全く違うおしゃれな服装と念入りに編んだ髪型をしていて、何かテレビドラマに出てくるお金持ちのお嬢さんという感じだった。転校してきたときちょうど僕の隣が空いていたため、竹原さんの席は僕の隣になった。

 竹原さんは休み時間や、授業中でもいろいろ僕に話しかけてきた。今までこんなに女子に話しかけられたことがなかった僕は少しかわいいと思いながらも戸惑い、どうしていいかわからなかった。話の内容自体はみんな当たり障りのないことばかりでどちらかというと会話を楽しんでいるようだった。そんな会話を他人とするのも僕は初めてだった。

 あるときクラスの中で紙を回して何かの出欠を取っていた。それは竹原さんの誕生日に自宅でパーティーを開くのでその出欠だった。そんなことをする子は今まで僕の周りにはいなかった。僕の誕生日はだいたい家族でケーキを食べておもちゃを買ってもらうだけだった。友達を大勢呼んで自宅でパーティーを開くなんてテレビドラマ以外では見たことも聞いたこともなかった。だいいちそんな広い部屋はなかった。

 僕は女の子の家へ呼ばれていくのも何か恥ずかしいので、集まって騒いでいる子供たちの輪から離れて誘われないようにしていた。

 そのとき竹原さんが急に思い出したかのように振り向いて言った。

「あっ三宮君、三宮君も来てくれる?来るのいや?」

「だって、女の子ばっかりの中に僕だけ行くの恥ずかしいよ、服だってないし」

「あら、男の子だって来てくれるわ、木村君、野田君、、」

 名前を挙げた男子はちんけな奴らばかりで僕の友達は一人もいなかった。名前を聞いてさらにうんざりしてきたが、

「ねえ大丈夫よ、服だってみんないつもの服よ」

 僕はだんだん断れなくなっていった。

「ほかの男子を誘ってもいいかい?」

「もちろんよ!じゃ決まりね!」

 僕は仲良くして気心の知れている友達を誘おうとしたが、みんな断ってきた。

「たのむよ、つき合ってくれよ。」

「やだよ、竹原んちってさ、すごい金持ちで御殿みたいな家に住んでるんだぜ。そんなとこへ行ける訳ないだろ。」 

 僕は迂闊に返事したことを後悔し始めた。だんだん気が重くなってきた。結局その日、僕は一人で誕生パーティーへ出かけた。そこは僕が今まで足を踏み入れたことが無い空間だった。

 僕が少し遅れて竹原さんの家に着いたとき、すでに他の子供たちは先に来て竹原さんの家の中にいた。みんなきれいな服を着て精一杯のおしゃれをしていた。僕も母に一張羅のよそ行きの洋服を着せてもらっていた。まるでピエロだと思いながら歩いてきたが、ちゃんとしてきて良かったと、みんなの姿をみて胸をなでおろした。中にはチンドン屋丸出しの格好をした奴もいたが、そこでは不思議と違和感が無かった。おずおずと部屋に中へ僕が入っていくと、いっぱい食べ物がのったテーブルが目に入った。小さな小皿に小さなケーキやクラッカーやハムやチーズがのり、いろいろな種類のジュースのコップが並んでいた。

 僕は仲がいい子もいないし、どうしていいかわからずウロウロしていると、竹原さんが僕の顔を見つけた。

「三宮君!いらっしゃい、来てくれてありがとう!」と言ったが、みんなに取り囲まれて何か、スター!といった感じだった。竹原さんはすぐに他の子に話しかけられて向こうへ行ってしまい、一人になった僕はおそるおそるテーブルの上のお菓子を食べ、ジュースを飲み、ただぼんやりしていた。

 その後のことはほとんど記憶に残っていない。ただひとつだけはっきりと残っているのはそのとき、今後誕生パーティーに呼ばれても二度と行くことは無いだろう、と思ったことだった。

 次の日パーティーに行かなかった友達にパーティーの事を何度か聞かれたが、僕は何も答えられなかった。昨日の事なのにほとんど覚えていなかった。そして、すこし興味を持っていた竹原さんにその後興味を失っていた。


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