第二十二話 カンケリ
そいつ等とカンケリをやりたくなかった。
隣町の全然知らない奴らだった。その中の一人にベーゴマ仲間の顔見知りがいた。そいつもよく知っているわけではなかったし、好きでもなかったが、そいつが妙にしつこく俺をカンケリに誘った。
カンケリのルールはどこもほとんど同じだと思うが、公園などの広場の真ん中に大きな円を描きその真ん中に小さな円を描きその中に空缶を置く。鬼を一人決めて(通常最初はジャンケンで決める)円の真ん中に置いた空缶を鬼以外の誰かが蹴る。その瞬間子供たちはいっせいに駆け出して鬼から見えないところに隠れる。そして鬼は蹴られた缶を拾ってきて円の中に置き、隠れている子供たちを見つけては名前を呼び缶を踏む。すると名前を呼ばれた子は鬼に捕まったことになり。大きな円の中に入りそこから出てはいけないことになる。鬼が他の子を探して缶から離れているときに誰かが鬼より先に缶のそばへ行き缶を蹴った場合、ゲームは振り出しに戻りつかまった子は自由の身になり円から逃げ出すことができる。そしてどこかに隠れてまた鬼の隙を窺うのだ。そうして隠れている子を全員捕まえればゲームの終了となる。
俺は何度も断った。
「名前も知らない奴とカンケリができるわけがないだろう。見つけたって名前を呼べないじゃないか。」
そいつは、なおもしつこかった。
「名前は今おぼえろよ。こいつがかっちゃん、たっちゃん、ユウジにキヨシ、マサル・・・。最初は俺が鬼になるからさ。最初に捕まらなければ鬼にならないよ。」
カンケリのもうひとつ大事なルールに一回のゲームが終了したときに次の鬼になるのは最初に捕まったものがなるという決まりがあった。
「暗くなる前に帰らなければならない。長い時間はできない、、、」
俺はまだどうにか逃れようとしていた。だがそいつは遮るように、
「大丈夫ちょっとだけしかやらないよ」ともう決まったかのように言った。
そしてゲームは始まった。
俺が缶をけり、みんなはいっせいに駆け出した。缶はジャストミートして惚れ惚れするほど遠くへ飛んで言った。俺は、危険を冒さずただ見つからないようにじっと隠れていようと思った、最初につかまったものが次の鬼になるからだ。だがそいつは他の子には目もくれず俺だけをつかめようと探していたのだ。他の子を見つけても名前を呼ばず缶を何度蹴られても気にもせず、公園の中の植え込みの影や建物の裏を覗き、俺だけを探した。
そしてとうとう俺の隠れているところへやってきた。
「あっ三宮、見っけ」
俺は猛然と缶までダッシュした。そいつも死に物狂いで走った。俺が缶を蹴ったのとそいつが缶を踏んだのはほぼ同時だった。だが、その瞬間そいつは俺を突き飛ばし俺の脚は缶に届かなかった。俺は捕まり円の中に待機して他の子が缶を蹴るのを待った。だが、そいつは他の子を次々と見つけて缶を踏み簡単に全員が捕まった。そして最初に捕まった俺が次のゲームの鬼となった。
俺はそのときまだ気づかずまじめにゲームに集中していた。他の子を見つけては缶を踏み次々と捕まえていった。だがある程度捕まえると必ずそいつがどこからともなく現れて缶を蹴るのだ。そしてゲームは振り出しに戻った。俺はそのうちにそいつを捕まえなければこのゲームが終わらないことに気がついた。俺は他の子を見つけても、また缶を蹴られても気にせず、ゆっくりと缶を戻し、ただそいつだけを探した。そしてとうとうそいつを見つけた。
「!!!」そいつの名前を大声で呼び、缶に向かって猛然とダッシュした。そいつはすぐに大声で他の子に
「走れ!蹴れ!」と指示を出した。呆然としている他の子たちを見ながら俺たち二人は死に物狂いで走った。俺が少しリードしていた。俺が先に缶を踏んだ。だが、そいつはその後、俺が踏んでいる缶を力いっぱい蹴った。
これは反則である。缶を踏んだ時点で名前を呼ばれた子はつかまったのだ。だが、その缶を蹴り大声で、
「缶を蹴ったぞ!」と叫べば、うやむやの内に蹴られたことになってしまう。何度もやられていた手だった。俺はもう学習していた。全体重を掛けて缶をさらに強く踏んだ。そいつの足は俺の足の下の缶を少し動かしただけだった。俺はとうとうやったと思った。そして、そいつに言った。
「もう遅いから止めにしないか」だがそいつは
「鬼が途中で止めるのか。」と、さも俺が卑怯者のように言い、ゲームを続けさせた。
俺はあきらめて他の子を探し、捕まえようとした。慎重に、冒険せずに、缶を蹴られたらおしまいだ。そいつを自由の身にさせては絶対にならない。もう時間が幾ら掛かってもいい。確実にこのゲームを終わらせるのだ。
その時だった。他の子たちは全員でいっせいに缶に向かって駆け出してきた。私は夢中で覚えたての名前を叫びながら缶を踏んだ。
「たっちゃん、かっちゃん。きよし、、」
だが、そんなことは全く無意味なことだった。つかまったはずの子供たちは名前を呼ばれたことに気づかなかったかのようにそのまま缶に殺到して俺が踏み続ける缶を蹴り続けるのだった。数人に一度に蹴られて缶は転がった。
「お前は捕まったはずだ!缶を蹴るな!」
俺の叫びは
「缶を蹴ったぞ!!」という子供たちの歓声にかき消された。
その後、どれくらいたったか、もちろん缶蹴りは終わり、終わったはずだが真っ暗闇の中、家路をとぼとぼと歩いた記憶だけが残っている。当時読んだ漫画「大摩のガロ」白土三平著の中のガロのセリフに「君子危うきに近づくな」とあったのを実感し以後の戒めにしている。




