第二十話 女神
吉永さんはクラス委員長だった。
いつもやさしく静かに微笑んでいて、女の子にも人気があり、勉強もクラスで一番できた。クラスで悪ふざけをしている奴らを怒るのもいつも吉永さんで不良グループも吉永さんには何故か逆らえなかった。そしてどんなに怒ったときでも最後はいつも微笑んでいた。でしゃばらず、でもそれなりに自分の意見を堂々と話す吉永さんは、いい加減な僕なんかよりずっと大人のように思えた。服装もいつも清潔にしていて、いつもきちんと姿勢正しく椅子に座って授業を受けていた。
僕は吉永さんをいつもまぶしく見ていた。恋愛の対象などではなく、何か優しい女神様のような感じで彼女を見ていた。
小学校を卒業してしばらくしたとき、吉永さんの家が母子家庭で貧しいことを聞いた。そして僕は、急にいろいろなことを思い出した。
他の女子からお古のリコーダーをもらいそれをきれいに磨いて授業で使っていたこと。清潔だけどいつも同じカーディガンを着ていたこと。修学旅行に来なかったこと。学校が終わるとみんなと遊んだりしないですぐ帰ってしまうこと。友達の女の子の誕生パーティーに誘われたとき泣きそうな顔で断っていたこと。意地悪な女子グループに洋服のことでからかわれていたこと。お金が少しでも掛かることには決して参加しなかったことを思い出した。
そんな時、吉永さんはいつもやさしい微笑を浮かべていたので、僕らは全然気がつかなかったのだ。どうして、あんなにも優しい微笑を浮かべていられたのだろうと思う。




