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その朝  作者: 三宮新真
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第十七話 小枝  


久我さんは無口でちょっとだけ暗い感じだが、おとなしい普通の女の子だった。背丈は普通だったが小枝のように痩せていて美人というわけでもなく、勉強も普通くらいだった。

クラスで集合写真を撮ると決まって、うつむいて硬く閉じた口を左に曲げて、下から見上げる様にカメラを見ていた。クラブも手芸部に入っていて、普段遊ぶときも女子のグループの中にいつも隠れていて男子とはほとんど話をしなかった。 

運動会の全員参加のリレーのとき、前を行く他のクラスの生徒を二人も抜いて(わりと足が早いんだな)というのが唯一の印象だった。でも普段の体育の授業のときはいつも隅に隠れていて、跳び箱なども自分の番になると、こそこそ現れて気のない跳び方をして、すぐまた隅っこに引っ込んでしまうため運動神経がいいなんて思ったことはなかった。積極的という言葉の正反対の子だった。

 あるとき体育の授業でバスケットボールの練習試合をやった。男子チームと女子チームは別々に試合をしたため、僕は女子の試合に興味がなく男子の試合だけを見ていた。僕の入ったチームは四チーム中二位になった。時間が余ったため最後に、男子の一位と女子の一位が試合をすることになった。男子チームはのっぽで運動神経のいい山本がいるチームだった。女子チームは久我さんのいるチームだった。男子が勝つに決まっているが、何点取れるかに興味が集まり僕たち負けたチームは、のんびり試合を見ていた。試合が始まりしばらくして、不思議と男子の山本のチームに点が入らず女子チームと一進一退のスコアになった。

「山本!女子に甘すぎるぞ、手を抜くな!」と声がとんだ。

 山本はニヤニヤしながら

「だってあんまり差がついたらつまんないだろう、最後にまとめてゴールするからさ」と声を返した。

 だが点数はいつまでも一進一退で

「山本!時間がないぞ」と声がとんでも点差は開かなかった。結局、僅差で男子チームがかろうじて勝ったが、試合後、男子チームは山本以下バテバテだった。僕は山本に

「前の試合で俺たちとやったときにスタミナを使い切ったんだろう」というと、山本は汗だくで首をかしげていた。

「おかしいな、、」

 次の週の体育の授業の時、またバスケットの小試合をした。前回は名前順にチームを決めたが今度は先生が最強チームとその他のチームに分けた。秋に、学校対抗のバスケットの試合があるのでその選手選考も兼ねていたらしい。

 男子は予想通り山本以下最強のメンバーだった。そして女子チームの中に久我さんがいた。

「人数足りないからって久我を入れることないんじゃない」と誰かが言った。先生はその声を聞いて

「あの子久我っていうのか、いい動きしてるぞ」とポツリと言った。

 小試合が始まり先生の言葉が気になった僕は、女子の試合の久我さんの動きに注目した。でも久我さんは他の子みたいにそんなに走るわけでもなく動き回るわけでもなく、ただそこにいるだけという感じだった。だがよく見ていると久我さんは、相手のチームがパスをするところにちょうどいるような感じで、パスをカットして、奪ったボールは直ぐに味方にパスをしていた。そんなことが何度かあり、相手のチームはいつもいいところでシュートできないのだ。そのとき先生が怒鳴った。

「久我!パスばかりしないで自分でシュートしろ!」

 久我さんはその大声にビクッとして、先生の顔を上目使いで見ると、今度は奪い取ったボールを自分でドリブルしてシュートした。そのドリブルは相手チームの選手の間を縫うように流れるように走り、誰も手が出せなかった。ぼんやりするとまた、先生に怒鳴られるので久我さんは走り続けてシュートを連発した。そしてシュートは百発百中でゴールしてあっという間に点差が開いた。

 試合が終わり、久我さんはゼイゼイと息をして真っ青な顔をしていた。久我さんが汗を流しているのを見るのは初めてだった。

 先生が久我さんに話しかけていた。

「えっバスケットボールやるの、この授業が初めてなの?」

「私、運動嫌いですから、、」か細い久我さんの声が聞こえてきた。しばらく先生と久我さんは話しこんでいた。

 その後、久我さんは学校を休んだ。

「久我が休むなんてめずらしいな」担任の先生は心配そうに言った。

 しかし、次の日も、その次の日も久我さんは学校に来なかった。心配になった担任の先生は久我さんと仲良しの村田さんに頼んだ。

「村田さん学校の帰りに久我さんの様子を見てきてくれないか」村田さんも心配そうに頷いた。

 次に日の朝、村田さんは先生に久我さんの様子を報告した。

 それによると久我さんは、体育の先生にバスケット部に入部して選手として対抗戦に出場しろと、しつこく口説かれたらしい。久我さんが泣いて、いやです、といっても、体育の先生は、君なら大丈夫、と久我さんの意見を聞いてくれたかったというのだった。久我さんは村田さんに、

「もう、学校にも行きたくない」と泣いていたという事だった。

 そして、体育の先生が久我さんの家に謝りに行き、次の日、村田さんに付き添われて久我さんは登校してきた。それからは、久我さんは前よりもいっそう目立たないおとなしい女の子となった。

 その後、体育の授業のとき体育の先生は何度か久我さんに話しかけようとしたが、そのつど、久我さんはさっと逃げてしまい、そのうち先生は久我さんに話しかけなくなった。



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