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その朝  作者: 三宮新真
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第十話 冷血  


日下は意地悪な奴だった。

 背は少し低めだったが、勉強もできて、運動もそこそこできた。プライドが高くいつも人を見下したような態度を取り、そしてその通りに大抵のことは他の子よりもうまくできた。彼はのろまな奴や頭の悪い奴、貧乏でいつも汚い服を着ている子を極端に嫌った。そして、そういう子にそばに来られる事を嫌った。

 また、プライドが高い分、何事も人に負けるのが大嫌いだった。いつも首を斜めに傾け、そんなことは何でもないよ、というような顔をして、実際は物凄い集中力を発揮して物事にあたった。俺自身は気が弱くて、日下の尊大な態度にいつも不愉快を感じながらも怒ったことは無かった。日下は自分が気に食わない奴に対してすぐにカッとなった。そういう時、そいつを泣かせるため、いや、泣き出すまで機関銃のように悪口を浴びせ掛けた。また、体が小さいくせに大きな不良どもと喧嘩をしても負けなかった。喧嘩をして自分があぶなくなりそうなときは笑ってごまかしたり、謝ったりしてタイミングをはずし相手が拍子抜けしたスキを見て、いきなり腹を殴ったり、蹴ったりした。スキをつかれた相手が一発で気絶したこともあった。そういう汚い奴だった。

家が近所だったせいもあり、日下はよく俺の家に遊びに来た。呼びもしないのにふらっと遊びに来てはいつも俺を不愉快な気分にして帰っていった。

 ある日曜日、例によって日下がうちに遊びに来た。そのとき俺は何か別のことで朝からむしゃくしゃしていて、また来たのか、とうんざりした。日下はいつものように俺の家の悪口を言い始めた。

「相変わらずキタネー家だぜ、本当に。よくこんなとこに住んでられるな。だいたいお前の家族もレベルの低いのがそろっているし、、、」

 日下自体はいつもの調子のつもりだったのかもしれないが、俺はそのとき急に頭に血が上った。

「帰れ!」と俺は怒鳴った。

「汚いと思うなら来るなよ!ここは俺のうちだお前の居場所なんか無い!とっとと帰れ!!」俺はいつもと違って次から次へと言葉が勝手に出てきた。

 日下は困ったような顔になりもぞもぞ口を動かすが言葉にならなかった。そんな日下の顔を見るのは初めてだったが、俺の口はもう止めることができなかった。そのうち、日下は、

「じゃあまたな」とこれもはじめて見る愛想笑いを浮かべながら帰っていった。何度も

「またな!また今度な、」と言った。

「もう来るな!」と俺は怒鳴った。

 

日下とは同じ小学校だったが、その後クラスが変わるとほとんど交流が無くなった。

 そのうち、日下が入院したとうわさが流れてきた。日下と同じクラスの中本に鉛筆を背中に突き刺されたということだった。

 日下は中本を極端に嫌い、いつも苛めていた。中本は太っていて運動が出来ず、頭も悪くてボーっとしていて、いつも汚い臭い服を着ていた。日下はいつも

「このブタ、臭いからそばへ来るな!」と突き飛ばしていた。

 同じクラスだったやつの話によるとその日の日下は執拗に中本を追いまわしては攻撃して、はたで見ていても恐かったそうだ。その日は口で攻撃するだけじゃなく、どついたり蹴ったりして

「お前がいると臭くて息が出来ない。お前なんか学校へ来るな。みんなが迷惑する、死んじまえ!!」といつまでも執拗だったそうだ。

 そのうちいつもボーっとしている中本の目がだんだんつり上がって行き、

「キーっ!!」という奇声を上げたかと思うと手にもっていた鉛筆を日下の背中に深々とつきたてたそうだ。鉛筆は日下の背中に根元まで吸い込まれた。教室は血だらけになり倒れた日下は救急車で運ばれた。

 俺はいつも俊敏な日下がそんな目に合わされるなんて、心底、中本のことをバカにしていて油断があったのだと思った。

 それから、みんなは今までバカにしていた中本のことを怖れ、少し見直した。中本も怒る時があるのだと。

 中本はバカにされなくなったが今度は恐くてそばに寄れなくなった。

 そうこうしているうちに、中本は学校からいなくなった。少年刑務所へ行ったとか、ただ転校しただけだとかうわさがとんだ。

 そして、日下は誰にも同情されず、自業自得だ、あいつはひどすぎた、とか囁かれた。

 その後しばらくして日下は病院を退院して学校に出てきたはずだし、小学校を卒業しているはずなのだがその後の日下の記憶は残っていない。


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