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その朝  作者: 三宮新真
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第一話 ここを逃げるな

第一話 ここを逃げるな


僕は、森と仲が悪かった。

森は何かにつけて僕につっかかって来た。

森はチビで運動も得意ではなく、勉強もできなかった。いつも薄汚れてテカテカしたセーターとツギのいくつもあたった綿のズボンをはいていて、近づくとドブのにおいがした。森はみんなに馬鹿にされ、嫌われていた。

森は僕を憎んでいたのだろうか。僕が毎日学校で楽しく過ごしていることに不公平を感じていたのだろうか。

僕には、得意なことなど何もなかった。足が速いわけでもなく、運動会でも特に目立たないし、勉強も普通程度、字も汚い、お金持ちでもない。でも何故か、みんなが応援してくれた、仲良くしてくれた、毎日が楽しくてキラキラしていた。朝起きるとさあ今日はどんな楽しいことがあるだろうと思った。何か楽しいことが必ずあるはずだ、もし無くても自分で作り出そうと考えた。そしてそれを考えるのも又、楽しかった。

だから、楽しくない、意地悪な子を嫌った。それは見た目が汚い子に対しても同じで、そういう子のそばに寄らなかった。話しかけられないようにした。無視するのもいやだったため、そばに寄らないようにしたのだ。

でも、森はいつも向こうからやって来た。僕たちが楽しく大勢で遊んでいるときは、おとなしくしていたが、僕は決して森を誘わなかった。

「森君、一緒に遊ぼうよ」と心優しい子が誘ったとき、僕は反対しなかった。でもいやな顔はしたはずだ。森は、僕自身の気づかない僕の厭なところを、僕に気づかれずに僕を見ていた。

あるとき、森が先生に呼ばれて、意気揚々と教壇の前の先生の所へ向かった。森が図画の時間に描いた絵が素晴しいと先生が褒めたのだった。

そのとき、森は僕の前を通りすぎるとき、僕の足を思い切り踏んでいった。ニコニコ笑いながら。僕はその痛さと屈辱の怒りで心の中に冷たい炎を燃え上がらせた。

森が先生に褒められて賞状をもらい自分の席に戻ってくるとき、僕はすばやく足を出して森を転ばせた。森は前に向かって空を飛ぶようにすっ飛んで転んだ。

あまりに見事な転び方に僕は内心びっくりした。たぶん先生に褒められたことでボーと浮かれて油断していたのだろう。いつもの森なら、すばやく気づいて僕の足を蹴飛ばすか踏みつけるかするはずだった。

だが、森が転がったのは一瞬で直ぐに

「キーッ」とわけのわからない叫び声を上げて僕に掴みかかってきた。

そのときだった。クラスの全員から一斉に

「森君やめなよ」

「自分で勝手に転んだんじゃないか」と森を非難する声が上がったのだ。

森は怒られた小猿のように首を縮めて何かを言おうとしたが、それはみんなの非難の声の中にかき消された。そして、本当に自分が何もないところで自分一人で転んだかのように納得したような顔をして、自分の席へ戻っていった。

僕は良心の呵責に苛まれた。もし僕が足を出したところを見ていた子がいて、それを指摘されたらと思うとゾッとした。僕は足を出したことは言わずに森に謝ろうとした。だが

「三宮君が誤ることはないよ」

「悪いのは森君だから」という声に僕はもう責任を果たしたかのように良心の呵責が薄らいでいくのを感じていた。

その後、森とは相変わらず何度も喧嘩をしたが、前ほど汚いとも、臭いとも感じなくなった。

汚いのは僕だった。


とりあえず現27話あります。乞うご期待。

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