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ゆがプリ! 〜目指すしかない、ノーマルエンド!〜  作者: みちはずれ
1.胡桃 宝 編
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7.いつも貴女を見守っています



「その人のどこがよかったの?」

「うーん、一目惚れだったから……」

「つまり顔がこのみだったんだ」

「言い方が悪いよ、ういちゃん……」


 鉛筆を短く握った白くてまあるい手が止まる。

 憂は呆れてものが言えないとでもいうように、大げさに首を振ってため息を吐いた。



 あの衝撃的なデート(?)のお誘いから、ひかりはそれを誰かに話したくて仕方がなかった。

 けれど、ひかりには友人がいない。クラスメイトと友人関係を結べそうなイベントが、今のところ皆無だったからだ。

 だから仕方なしにナナコにあの興奮を矢継ぎ早に叫んだのだが、『はい』だとか『もういいですか?』などと機械にしては呆れ気味に突き放された。


(もうちょっと聞いてくれてもいいでしょ! そもそもヒロインの補完も全然してくれないし、ナナコはいつもなにしてるの!?)

『いつも貴女を見守っています』

(ナナコって私のことちょっとなめてるよね?)

『いいえ、滅相もない。ですが、誰かに思いの丈を聞いてもらいたいのならば、妹さんがいらっしゃるではないですか』

(でも、日常生活は飛ばされるじゃん)

『ひかり様本体のストレスに関わる事ですので、夕方はご希望でしたら過ごせることにいたしましょうか?』

(ほんとに!? ナナコありがとう! けどそんな融通がきくならもっと……)

『では、またご用があればお呼びください』

(テメー!! でもありがとう!)


 

 一連の流れを済ませると早速ナナコは対応してくれたようで、家に帰れば憂はリビングで漢字の宿題をしていた。せっせと大きなマス目に漢字を丁寧に書く憂は、相変わらず愛らしい。

 だが、自分勝手な姉はそんな妹の宿題の邪魔をする。

 ごめんよ、ういちゃん。そう思いながら尋ねられてもいない恋バナを始め、冒頭の会話に至った。


「顔から好きになるのは珍しくないでしょ……後から性格がついてきたし、すごく良い人だよ。宝先輩」

「それは聞いててわかったけど。でも、知り合って全然経ってないのにすぐ映画に誘うってすごいね」

「う、たしかに……」


 的確に告げる憂の声音にはどこか棘があった。ひかりもその点についてはどうかと思ったが、純粋にゲームだからという理由が脳をよぎり、一応自分を納得させたのだ。


「ま、でもそうそう変なことはおきないと思うから楽しんできたら?」

「その事なんだけどさ、"ラブにゃんこ21"ってういちゃん知ってる?」

「知ってるよ、小さい頃におねーちゃんに散々見せられた」

「ういちゃん今も小さいじゃん」

「うるさい、もう話聞かない」


 口は災いの元だと前に気を付けたはずなのに、思ったことがつい口から滑り出てしまう。

 一瞬で憂の眼が鋭く尖り、ひかりはすぐさま胸の前で両手を合わせて謝った。


「ご、ごめん! ほらほらういちゃん、これ美味しいスイーツもらったから一緒に食べよ! だから話聞かないなんて言わないでぇ……」


 なんて情けない姉なのだろう。

 今日何度目かもわからないため息が憂の口から漏れ、そう思われているだろう事をひかりは察する。

 左手には蘭咲から貰ったお礼の箱が握られており、憂が部屋に戻ってしまう前にいそいそとテーブルの上で包装を解いた。

 

「わ、フィナンシェだ……!」


 箱を開くと中にはプレーン、抹茶、チョコレートの順でフィナンシェが並んでいた。

 長方形に象られた生地の四辺は中心より濃く色づいていて、しっとりした食感を想像させる。


「これどうしたの? しかもシャルンだ……」

「蘭咲くんがお礼にってくれたの」

「そうなんだ、さっそくお茶入れてくる!」

「いや、ちょっと待って!」


 すっかりご機嫌を取り戻し、立ち上がる憂に今しかないとひかりは妹を呼び止める。


「"ラブにゃんこ21"見るの付き合ってくれない?」


 憂の上がっていた口角が一瞬にして引き結ばれた。

 彼女は今きっと、ふざけるなという気持ちと有名店のスイーツを食べたいという気持ちとで葛藤している。

 ひかりは、その二択のどちらが勝つかを知っていた。



 

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