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カオスエンドワールド  作者: 真名瀬 照
序章
4/20

一人+の昼休み


 昼休み。誰もいないはずの校舎の屋上で昼食をとる生徒が四人。

勇輝、伊吹、ダリエラのお馴染みの三人にプラス転校生が一人混じっていた。


 あの後、自己紹介を終えた彼女は勇輝の前の席となり、よろしくねと微笑みながら挨拶をされ、彼の背にクラスメイト(主に男子)達から理不尽な視線が殺到した。


 何であいつばっかりとか羨ましいとかどう殺すかとか当然と言える嫉妬と殺意の銃弾の雨あられが勇輝の胃と精神をぼろぼろにした。


 普段から美少年の伊吹と口は悪いが美少女のダリエラとつるんでいるのに、更にそこに美少女転校生も加わればもはや嫉妬心に狂った学友達に盗んだバイクで引き殺されてもおかしくはなかった。


 そしてそれだけでも人生終了のお知らせが届いても不自然ではないという状況にも関わらずダメ押しとばかりに休み時間に殺到する男子の群れを華麗にかわし勇輝に話しかけたものだから、もはや彼の命はないも同じ、今日が命日だと言われても納得できるレベルにまで達していた。


 結論を言うと何故かむけられる美少女からの謎めいた好意に昼休みを待たず勇輝の胃は周囲からの嫉妬と殺意とストレスで満腹状態だった。


 そんなこんなで転校生と打ち解けて仲良くなった勇輝はクラスメイト達に睨まれながらアリスを昼食に誘ったのだった。


「いいの?」


 シートの上にちょこんと座るアリスに尋ねられ勇輝が「全然大丈夫! むしろ(喧嘩の仲裁役として)歓迎だよ!」と他意を多分に含ませて答えるとそうではなくと、


「確か屋上って教職員以外立ち入り禁止じゃ・・・・・・?」


「あー、それはほら・・・・・・二人がいるから」


 勇輝が視線をむけた先には距離をとって自前の弁当を食べる伊吹と購買で買ったパンをかじるダリエラ。その二人を見て何やら納得したような顔をしている転校生に二人が釘を刺す。


「一様言っとくが先公脅して鍵奪ったとかじゃねーぞ」


「そうなの?」


「そいつはともかく、俺は鍵を預かっているだけだ。だからこれは正当な権利を行使しているに過ぎない。気にするな」


「そうそう。そこの皮被りの糞野郎はともかく、先公に頼んだら二つ返事で鍵くれたんだから何も問題はない」


 食べ物を口に運びながらも軽く罵りあう二人の言葉にそうなんだーと納得するアリス。その横で彼らの名誉の為に言いこそしないもののそれが歪められた事実であることを勇輝は思い返していた。


 ある日の昼休み。

ふと屋上で昼食とかとってみたいよねなどと勇輝が口走ったことが発端である。それを聞いた伊吹がどこからともなく複製しておいた屋上の鍵を取り出しそのまま屋上で昼食をとることになった。ここまでは良くないがまだ良かった。


 施錠されている屋上の扉を開けていざ昼食を皆で食べようという時、伊吹がまだダリエラが入ってないにも関わらず扉を閉めて鍵をかけた。


 ここの鍵を持っているのは俺であり誰を入れるかを決める権限は俺にある。つまりお前を入れる気はない、と扉越しに言ってのけた伊吹に腹を立てたダリエラは職員室に乗り込み教員から強引に鍵を奪取。そして互いに鍵を返すことなく今に至るというのがことの顛末である。


(俺が教師の立場だったら辞職しててもおかしくないなぁ・・・・・・)


 などと日々問題児二人に頭を悩ませている教職員達に人知れず同情していると購買で買った“青春の味”とパッケージにでかでかと書かれた何の味も香りもしないと悪い意味で評判のパンをかじりながら「そういや何でこの時期に転校してきたんだ?」とこの場にいる誰もが抱いていたであろう疑問をダリエラが投げかけた。


「元々この学校を第一志望で受験してたんだけど落ちちゃって。それで第二志望の学校の方に通ってたんだけど、どうしても諦めきれなくて・・・・・・。それで残りの二年間はやっぱり第一志望の学校で過ごしたいって思って、転校しようと」


「すげぇ行動力だな・・・・・・」


 理由を聞いて若干引きながらもそのバイタリティに感心するダリエラ。

確かに並外れた行動力だなと男子二人も静かに驚愕しつつ、


「諦めきれなかったって言ってたけどこの学校のどこに()かれたの?」


「実は私の両親がこの学校の卒業生で、小さい頃から良く話を聞かされてたからそれに感化されて・・・・・・」


「なるほど、それで実際に自分も通いたくなったと」


「うん・・・・・・」


 若干照れながらはにかむ少女の何とも年頃らしい可愛い理由に勇輝は痛めつけられた胃が癒されていく心地を覚えた。これだけでもストレスに晒された甲斐はあったかな、と。こんな和やかな青春がずっと続けば良いのにという心の底からの勇輝の願いはだがしかし、


「・・・・・・何見てんだ、ァ?」


「彼女の爪の垢を飲ませれば少しは俺の心労も減るかと思ったが・・・・・・無駄だな。塵に何をかけたところで所詮塵でしかないか・・・・・・」


「そんなに清純が良いなら帰ってそういうA〇でも見て発情してろよ糞が・・・・・・!」


 10秒と待たずに瓦解(がかい)した。


「お願いだから喧嘩は止めよう、お昼時くらい・・・・・・!」


 再び襲い来るストレスに彼の胃が悲鳴をあげる。避難を(ともな)う視線に俺は悪くないという顔で伊吹が話を逸らす。


「理由は分かった。だが両親には反対されなかったのか?」


「私も反対されると思ってたんだけど、いざ言ってみたらすんなりとOKを出してもらえて。だから反対とかは特になかったよ」


「良い親御さんだね」


「自慢の両親なんだ!」


 太陽さえ恥じらってしまいそうな満面の笑みに本当に両親が大好きなんだなと一同が実感する。それは伊吹とダリエラにとっては微笑ましいものであると同時に縁遠いことでもあった。それは親子関係が必ずしも円満であるとは限らないものであるということを知っているからこその実感だった。


 伊吹とダリエラは家柄もありその家庭環境は複雑で、余り良好な関係を家族と結べていなかった。そして円満な家庭環境で育った勇輝も二人の事情を知っているからこそ、それがどれだけ恵まれていることなのか多少なりとも理解していた。だからこそ二人はアリスのことが眩しく感じ、そんな彼らもいずれ両親との関係が良くなると良いなと勇輝は心の内でそっと願った。


 この話題は暗くなるからと気を使い、「ところで通学はやっぱりイディースか?」と伊吹が話を転換する。


「いいや、基本的には徒歩と電車だよ」


「ということはここにいるやつ全員旧時代の人間か」


「今時イディースを使わずに移動してる人間なんて殆どいないというのに。それがこんな場所に四人も集まるとはな」


 何の因果だろうなと呆れて笑う三人に勇輝は思いだしたと、


「そういえばカルディアさんは――――」


「アリスでいいよ」


「えーと・・・・・・じゃあ、アリスで。それで今朝俺もアリスと同じ電車に乗ってて見かけたんだけど、その時確か同じ駅で降りなかったよね? どうやって来たの?」


 あーそれは・・・・・・と気恥ずかしそうに頬をかきながら、


「実は窓の外の景色を眺めてたら乗り過ごしちゃって。それで間に合わないと思って結局近くのイディースを」


「つまり旧人類としての誇りを忘れ禁忌に手を出した裏切り者と」


「ええ!? 裏切り者って、私今日知り合ったばかりなのに!? それに旧人類って」


「Shut Up!! 文明の利器に頼り二足歩行の素晴らしさを忘れた愚か者は破門である! よって今日を以って旧人類四天王は解散だ! 散れ!!」


「いや散れって・・・・・・。というかそれは俺も入ってるの?」


「最弱枠だなお前は」


「最弱枠!? 最弱枠って何!? 入った覚えもない上に最弱認定されてるの俺!?」


「他には最強枠見習い枠、後絶対殺す枠もあるぞ」


(何か物騒なのが混じってる・・・・・・!?)


「馬鹿女の戯言はともかく、行きたい場所に瞬時に行けるのだから普通はそっちを使うだろう。徒歩で通学している方がどうかしている」


「まぁそうだよね。今時イディースを使わない方が珍しいもんね・・・・・・」


 と伊吹の軽口に舌打ちして飛び掛かりそうなダリエラを制しながら勇輝が同意する。


「でもイディースの問題は世界を賑わせてるよね?」


「科学技術の発展による弊害だな。世の中が便利になればなるほど人は脆弱になっていくのが常だしな」


 とアリスの言葉を肯定する伊吹。実際イディースによる問題は世界中で世代を問わず頭を悩ませている問題でもあった。


 目的地に一瞬で移動できることで長距離を歩くことが殆どなくなった人類の基礎体力の低下に(ともな)う免疫力の低下、筋力の衰退に(ともな)う怪我の多発、集中力の低下など多岐に(わた)り日夜多くの知識人などがどう解決するべきか議論している。


 そして先も伊吹が語った通り科学的な発展による弊害ではあるものの致し方ないことでもあり、恩恵を受ける以上そのデメリットは受け入れるべき一種の諦観(ていかん)的なものでもあった。


「だから各々(おのおの)が自分で良し悪しを見極めて上手い距離感を見つける他ねー訳だ」


 こんなことに正しいも糞もないだろうと呆れ半分で付け足したダリエラは、話題がつまらないと思ったのか、


「そういえば三年の先輩の話聞いたか?」


 と強引に話を変えて、内容を既に知っている伊吹がよりにもよってその話かと呆れて溜め息を吐いた。


 何も知らない二人がいいやと首を横に振るとダリエラが水を得た魚よろしくしたり顔で語りだした。


「電子ドラッグをやってお陀仏だとよ。馬鹿だよなー」


 彼女にとっては世界的な基礎体力の低下問題云々(うんぬん)議論(はなし)よりも身近な人間の不謹慎な話の方がまだ面白いらしく、若干呆れつつも勇輝は話を合わせて相槌を打った。


「確か精神医療技術に使う大型VRDカプセル(コクーン)を法外に改造して特定の感情や感覚あるいは快楽を安全域を超えて得る為の施術のことを電子ドラッグっていうんでしたっけ?」


 アリスの回答に「そうそう、詳しいな転校生!」と妙に嬉しそうなダリエラ。


 電子ドラッグ自体はここ一年くらいで急激に増加してきたものであり世間一般にはまだ余り知られていないものの、有識者や情報収集能力に長けた人達の間では既に広まっていてしばしば公の場で議論される問題でもあった。


 元々Virtua(バーチャル・)Reality(リアリティ・)Diver(ダイバー)、通称VRDという仮想現実に没入する為のフルダイブ技術を悪用したのが電子ドラッグである。


 電子ドラッグとはVRD技術を用いて医療用に設計されたコクーンという人の感情を人為的に操作し引き出すことによって精神疾患などの治療を行う大型VRDカプセルを用い、本来付いている安全装置やそのプログラムを取り外し法外な改造を施してする施術のことだ。


 合法では味わえない人外な快楽や精神的刺激を得られる代わりその強力すぎる刺激に依存症や廃人になるものも後を絶たず、最悪、命を落とす場合も少なくはない。


 それ故にまだ一年しか経っていないにも関わらず電子ドラッグ対策の法案が施工されるほどなのだが、法律が出来てもなお手を出す人間は後を絶たず政治家や有識者達が手をこまねいて(うな)っているのが現状だった。


「でも確か自分から探しでもしない限り電子ドラッグなんて出来ないって聞いたけど?」


「そこが重要なとこなんだけどな? 何でも今回死んだ先輩は両親が研究者だったらしいんだが、ほら、街の外れにあるだろ? “研究施設”が」


 街外れの研究施設と言われ、その場にいた誰もが思い当たりのある一か所を想像した。


 彼らの学校がある街の隅の方に大規模な研究施設群があるのだが、セキュリティーが異常なほど厳しいとの噂で秘密兵器の実験場だとかウィルスの研究所でワクチンを作っているだとか色々と飛び交っていた。だがそこで何を研究しているのかは何故か誰も知らないのだった。


 だからだろうか。謎に包まれた研究所が出てきたことに少しだけ、勇輝の好奇心が刺激されたのは。


「実はその研究施設で働いてて機密を外に漏らしたから親子共々電子ドラッグで口を封じたらしいぜ」


「噂話だろう。馬鹿の与太話に付き合う必要はないぞ」


 不愉快そうに静観していた伊吹がそう断じてばかばかしいと溜め息を吐く。


「そういや常日頃から神様神様言ってるやつらは神仏と繋がる為にやってるって聞くよなー神道(しんとう)のい・ぶ・き・君?」


「馬鹿な、この俺がやってるとでも? そんなものを使わないといられない腑抜けどもと一緒にするな。そんなものに頼らずとも繋がる方法ならいくらでもある。そもそも神云々(うんぬん)言うならばお前こそやっていてもおかしくないと思うが?」


「やるわけねーだろ。カトリックだったのは昔だっての。元だ元」


 派手にやり合いこそしないものの険悪な雰囲気を漂わせる伊吹とダリエラ。そんな二人の様子に転校初日から嫌な思いをさせてしまったと、


「・・・・・・何かごめんね、付き合わせちゃって。いつもこんなんだけど悪いやつらじゃないんだよ。多分」


「大丈夫。気にしてないし、見てたから知ってる」


 一瞬見てたから? と疑問を抱いたがすぐに朝の一悶着を教室の外から見ていたのだろうという結論に行き着き、納得した勇輝は「気にしてないなら良かった」と胸を撫で下ろした。


 その後も他愛ない話をしたりして、転校生を交えたまったりと険悪が混ざり合った混沌とした昼休みが終わったのだった。

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