2話 .*・❈ 。. 五人と四人(修正しました)
おかしなことを、と言われるかも知れない。でも、だってそうでしょう、それ以上に幸せな死に方があって?
蔑みだけの籠った冷たい目で見据えられて、その手に持った剣でぐさりと貫かれて。
少し思い浮かべるだけでも、ぞくぞく来るものがある。
私に関心なんて欠けらも無い。
ただ義務があったからそうした。守るべきものがあったからそうした。
彼は婚約者に対して、出会った瞬間から最後まで、徹底して無関心を貫き通していた。
……そもそも彼は、人間関係全般に対してクールだけどね。
でも私は、その有象無象の一つになりたい。
そのエンドでは、アグネスは復活した魔王に取り憑かれる。
封印を解いてくれたら願いを叶えてやる、と唆されたらしい。
アグネスには、それだけが、愛しい人に振り向いて貰える唯一の頼み綱に思えたのだろう。
そんなことをしなくても、可愛いのだし馬鹿なことをせず地道に努力をしていれば勝ち取れただろうに。
エリック・ディオン。公爵家嫡男で、ヒロインやアグネスと同い年。鈍い紺のさらさらとした髪、紫に深緑のやや大きな瞳、きりりとした面立ち。攻略対象1号ことメインヒーロー、それが彼だ。
彼とヒロインは学園で出会う。学園は貴族も平民も入れるもので、その中では身分関係なく接することが許されている。ただ、卒業してしまえばそれもなくなるので、実際には主人公含め平民たちは平等を装いつつも注意をもって接していた。
攻略対象はあと4人いる。
攻略対象2号、ファーガス。暗い赤紫の髪とピンク色の瞳を持っている。平民で、同じく平民のヒロインとは幼なじみで従兄妹だ。貴族嫌いで、ヒロインをいじめるアグネスにはとりわけ当たりがきつかった。少しばかり考えなしで、怒りっぽくて、好きだという方には申し訳ないけれど私は余り好きにはなれなかった。
攻略対象3号。オベド・アルディス。私の弟。最初はアグネスとの関係も良好で、それどころかひよこのようについて回っていたのに、ヒロインに惚れてからは手のひらを返してしまうとんだ裏切りものだ。僕は貴方のものです、だとか言って。でも、彼がそういった人で良かった。だって私は死ぬつもりなのだから。
攻略対象4号。王太子バージル。白のボブヘアと、青とグレーの瞳をもつ。一見王子様然としているけれど、案外子供っぽく我儘だ。やはり余り好きになれない。
攻略対象5号。ダン。長い黒髪と濃い褐色肌、金の瞳。孤児だったのをケリー・ミネルバという公爵令嬢に拾われて、従者として付き従っていた。
大人しくて、言葉がたどたどしくて、陰気ながらも可愛いらしい人だった。
ケリーは悪役令嬢の一人。艶やかな黒髪と鮮やかな赤い瞳が特徴だ。そして、登場人物の中でも殊更に美人だ。悪役令嬢の中では比較的分別がある。
そう、悪役令嬢は一人ではないの。
私、ケリー、そしてあともう二人いるの。
王女アガサ。バージルの妹で、カラーはお揃い。重度のブラコンで、その言動には少し狂気を感じる。それと、目が怖い。
アンジェラ・マリン。紫の髪をツインテールにしている。目は閉じられていて、その色は分からない。言動は、なんというか、お淑やかな厨二病。ルート次第ではオベドを下僕にしてしまう。
邪魔者が四人もいるなんて、ヒロインも大変ね。
オベドが戻って来た。
「どうぞ、お水です!」
「ありがとう」
微笑んで言うと、彼は目をぱちくりさせた。
何かおかしかったかしら。記憶を探る。
……今までも、作中でも、アグネスはオベドにお礼なんて言ってなかった。
しまった。今までの態度に合わせないと、何か歯車が狂ってしまうかも。ああでも、そんな態度は、流石に申し訳ないな。
「お、お礼?姉上が?」
それはちょっと失礼な気もするな。
「おかしい?」
「い、いえ!」
水を飲み干して、ベッド脇のテーブルに置いた。
「もう気分はいいから、付き添ってくれなくて大丈夫よ」
「いえ、レッスンはすべて断ってきました!僕がついているので、姉上は安心しておやすみ下さい!」
ええっと……もう体調は良いんだけどな。それに、そこまでされると、そうしてずっと見ていられると、むしろ緊張が溜まってしまうというか。
でも、彼のきらきらした目を見ていると、とてもそんなことは言えなかった。