プロローグ .*・❈ 。. まどろみ
「今日はだあ〜い好きなミルクレープをつくる日〜、
今日は だあ〜い好きなミルクレープを食べる日〜
ミルクレープ〜、ミルクレープ〜、レモンクリームのミ ルクレープ〜♪
ややこしいスイーツはつくれないけど〜、ミルクレープならつくれるの〜
ピスタチオも〜、のせちゃおうかなあっ♪」
ひょこりと飛び跳ねて、ぴょんっ、とつま先から美しくあでやかな白鳥のごとく降り立とうとしたけれど余りに脆弱な私の御足は重さに耐えきれず足首は折れ曲がり滑稽なあひるのヒナは無様にも地べたに放り出されてしまった。
手に持っていたクレープの材料は無事。己は這いつくばりながらも大切な宝物たちは両手で上へ掲げるようにして守った。おかげで顎打っちゃった。
今日は家に誰もいないから、一人でミルクレープパーティをする予定なの。
今は材料を買って家へ帰る途中。小さなマンションの三階、階段を上がってすぐの部屋、それが私と母と妹の暖かな住まい。
車が道を塞いでいたので、すこし遠回りをして。
無事帰宅すると、さっそく作り始めた。なのに、すぐに玄関のチャイムが鳴る。
「はあい、今行きます!」
器具を置いて、エプロンの紐を解きながら玄関へ向かおうとして、
────────それから?
頭が重い。身体が重い
磁石のように引き合う瞼を、むりやり、こじ開けるように開く。
若干ぼんやりとした視界の真ん中に、心配げに覗き込む顔が見えた。幼い、美しい……少年?
「姉上!」
ほっとしたように涙をこぼす姿に、つい、頭を撫でてやりたい、だなんて衝動にかられる。
けれど、気だるくて、指先すら持ち上がらない。
慌ただしい足音がこちらへ向かって来る音を聴きながら、意識はまた落ちていった。