影の使い
目を開けるとそこには白い天井があった。
「白、部屋、静か、感触からしてベッドに寝ている、恐らく病院だな」
悠人は上体を起こし患者用と思わしき服を着た自分の身体を眺める。
「全身にいくつか包帯、配置のバランスが良いな」
なんでもない事を呟いてみる。
「夕方の7時、そろそろ帰るか」
時計を見るといい時間である、点滴を抜いて窓を開け外に飛び出す。
「っと、3階か」
今しがた飛び降りた病院を見上げると修練病院と書いてある。
「修練エリア、じゃあ南だな」
帰るため出口に向かって歩いていくと、背後から声が掛けられる。
「〈悪魔の代弁者〉荒波汰悠人だな」
「……人違いです」
あえてバレバレの嘘をつく。
「見ていたぞあの試合」
「奇遇ですね、僕もなんですよ」
「あくまでも認めないつもりか」
振り向き背後の誰かを視界に捉える。
「随分と奇抜なファッションですね、流行ってるんですか」
一見して黒ずくめに見えるその服装は僅かに赤みがかかっていた、まるで夕日に合わせたかのように。
「顔の輪郭すら覆い尽くす仮面、体に密着した動きやすい服装、恐らく音も出にくいように加工していますね、だから俺の背後を容易に取れた、そして派手そうに見えて実は必要最低限の面積しかないアーマー」
だんだん声に力が篭もってしまう。
「そのアーマーに一体何が隠してあるんだろうな、そして一人で来るはずない、場所は分からないが2人や3人じゃないな、恐らく抵抗しても一瞬で取り押さえることが出来る人数だろう」
勝てない、本能的に感じたその敗北感に苛立ってしまう。
「抵抗はしないと約束しよう、だが少しくらい何がしたいのか教えてくれないか」
今できる精一杯の抵抗をする。
「我々のリーダーが会いたがっている、今はそれだけ伝えておこう」
「リーダーか、まぁいい、会えばわかることだ、もう好きにしてくれ」
地面に胡座をかき両手を上げる。
「俺の私物は後で届けてくれないか」
黒ずくめの人間は踵を返し闇へと消える、入れ替わるように周りの林の影からいくつもの同じような服装をした黒ずくめがぞろぞろと出てくる。
「はっ、手ぇ込みすぎだろ」