白い光
ミラが安全な場所まで逃げられる時間を稼いでいたイザベラだが、既に満身創痍の状態であった。
異形の魔物も多少は傷を負っているが、イザベラが異形の魔物から受けたダメージはそれを遥かに上回っていた。
(強い……)
異形の魔物から視線を外すことなく、イザベラは胸中で呟く。
対人戦、対魔物戦共に圧倒的な実力を誇るイザベラだが、異形の魔物はそんなイザベラを上回っていた。
達人のような身のこなしに加え、人外の膂力。
人型でありながら、尻尾などの部位を巧みに使った戦闘方法。
そして何より、イザベラの行動を予測して動く知能。
百戦錬磨のイザベラでも、これほど滅茶苦茶な生物との戦いは初めてだった。
―――グルァァァァ!!
異形の魔物が咆える。
それを聞いたイザベラは瞬時に後退する。
次の瞬間、地面が陥没するほどの力を込めて、異形の魔物がイザベラの居た場所を殴りつけていた。
「速い……」
そう漏らしたイザベラは、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。
直感で攻撃こそ回避できたが、イザベラは異形の魔物の姿が目で追えなかったのだ。
「ハッ!」
気合の声と共に、イザベラが鞭を振るう。
鞭の先端は音速を超えており、更にイザベラ自身も魔力を循環させ身体を強化させている為、普通ならばその攻撃を回避することなど不可能である。
そう―――普通ならば。
「本当に滅茶苦茶ね……」
イザベラの口から出た言葉は、心底悔しそうなものであった。
先程異形の魔物が居た場所には何も存在せず、その異形の魔物は恐るべき速さでイザベラの背後に移動していた。
最早、勝敗は決した。
この異形の魔物は、明らかに生物としての域を超えている。
「ミラ……」
今は亡き娘によく似た幼女の顔を思い浮かべながら、イザベラは“その時”を待ったのだが―――いつまで経ってもイザベラの意識が途絶えることはなかった。
◆◇◆
パチ、パチと、この場には場違いな拍手がイザベラの耳に届いた。
「うん、素晴らしい」
中性的な声で、拍手をしている人物がイザベラの目の前に現れた。
だが、その人物は全身から“白い光”が放たれている為、容姿を確認することはできない。
―――ガアァァァァ!!
咆えながら、異形の魔物が“白い光”に襲い掛かる。
その速度は、イザベラの背後を取った時よりも数段上だった。
異形の魔物はイザベラよりも“白い光”に大きな脅威を感じているのだ。
「醜いね」
呟くとともに、“白い光”が何もない空間へ右手の人差し指を突き出す。
何気ない動作だったのだが、次の瞬間――そこには、異形の魔物が胸を貫かれた状態で立っていた。
「斃れた神の残骸よ、無に帰すがいい」
“白い光”が紡ぐ口上とともに、異形の魔物が塵となって消えていく。
やがて異形の魔物は、完全に消滅した。




