閑話 醜い、そして美しい
―――醜いね
“白”が言う。
―――あぁ、醜い
“黒”が言う。
ある人物の目を通して“世界”を見ていた白と黒。
たった今、ある人物を逃がす為に決死の覚悟を決めた女性を見て、白と黒は久々に会話をした。
―――何て醜いんだろう。その命とミラの命の価値を比べた場合、明らかにその命の方が価値があるというのに
白が言う。
―――アレは人の身で戦える相手じゃない。それを分かった上で、何故、彼女はミラのことを守ろうとしているのか
黒が言う。
―――何故だろうね。でも、彼女は今は亡き娘の面影をミラに感じているんだよ。下手をしたら、ミラのことを娘のように思っているのかもしれないね
白が言う。
―――昨日今日の付き合いで? 訳が分からない。でも、人の感情というものは難解だ。不可解だ。もしかしたら、その可能性もあるのかもしれないな
黒が言う。
―――そうだね。人の感情は、ボク達には理解できないものだ。でも、少なくとも、今のボク達には彼女の気持ちが分かるんじゃないかな?
白が言う。
―――あぁ、分かるぞ。守りたいという強い気持ちが、今のオレ達には分かる
黒が言う。
―――そうだね。そしてその気持ちは、美しい
白が言う。
―――あぁ、美しい
黒が言う。
―――人はどうして、こんなにも醜く、そして美しいのだろうね?
白が言う。
―――それが人という生き物だからさ。人は醜くもあり、美しくもある。表裏一体の生き物なんだ
黒が言う。
―――うん、そうだね。……ねぇ、彼女、そろそろ死んじゃうよ?
白が言う。
―――そうだな。あのままだと、直ぐに死ぬ
黒が言う。
―――ボクはさ、美しいものが好きなんだ。
白が言う。
―――あぁ、知ってる
黒が言う。
―――だからさ、彼女を助けようと思うんだ
白が言う。
―――……勝手にしろ
黒が言う。
白は返事をすることなく、その場から消えた。
―――嗚呼。人は何故、こんなにも美しいのだろう
先程まで黒の言葉に反応していたはずの白は、既に“世界”へと顕現していた。




