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才能に愛されし者  作者: きんめ
第三章 人の美しさ、人の醜さ
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身を挺して

 イザベラは既に死体となっているその山のような大きさのゴブリンの名前に心当たりがあった。

 


「あれは……ゴブリンキング?」



 ゴブリンキングとは、その名の通りゴブリンの王である。

 その危険度は最高難度のSに次ぐAで、世間からは災厄級の魔物として認識されてい魔物だ。


 そんな災厄級の魔物と呼ばれているゴブリンキングが、イザベラの視線の先にいる異形の魔物に斃され、死体を貪り喰われていた。

 異形の魔物の姿は人型なのだが、背中からは蝙蝠のような翼があり、下半身には尻尾のようなものある。



「ん~! んん~っ!」



 異形の魔物を観察していたイザベラの腕をミラが叩く。

 イザベラはミラの口を塞いでいたことを思い出し、咄嗟にミラの口から手を離した。


 イザベラから解放されたミラは大きく息を吸い込む。



「ちょっと、いきなり何すんのよっ!」



 決して大きな声ではないが、ミラがイザベラを非難する。

 大声を出したことは悪いと思っているが、それでも口を塞ぐのはやり過ぎだと言っているのだ。


 非難を受けたイザベラは、反論をすることなく視線の先にいる異形の魔物を観察していた。

 異形の魔物は今も尚ゴブリンキングの死体を喰らっており、イザベラに観察されていることには気付いていないようなのだが、イザベラは何故か嫌な予感を覚えていた。



「……引きましょう」



 そう判断した後のイザベラの行動は早かった。

 未だに小言を言っているミラを小脇に抱えたイザベラは、元来た道を引き返し始めたのだ。



「ちょっと――」


「ミラ、喋らないで」



 真剣な表情のイザベラの指示に、ミラは言葉を紡ぐことができなかった。

 昨日今日と短い付き合いではあるが、イザベラが悪人でないことはミラでも分かる。

 そんなイザベラが本気で焦っているのだ。

 イザベラの表情が、只事ではない何かが起こっていることをミラに物語っていた。


 

「…………」



 無言でイザベラが鞭を振るうと、進行方向にいたゴブリンナイトの群れが爆散した。

 進行方向にゴブリンナイトの肉片が散らばるが、イザベラは何の動揺もなく肉片を踏みつけ駆けていく。

 


「……チッ」



 迷宮の入口まであと一息というところで、イザベラが舌打ちをした。

 そして何故か徐々に走るスピードを落としていき、(しま)いには走るのを止めてしまう。



「イザベラ……? どうしたのイザベラ?」



 棒立ちになってしまったイザベラの様子が心配になり、ミラはイザベラの顔を覗き込み声をかける。

 


「あの魔物……ずっと私達に気付いていたみたい。気付いていた上で、私達のことを見逃していた……」



 悔しそうに呟いたイザベラが、引き返してきた道の奥を睨む。

 イザベラの視線の先に何があるのか気になったミラも、引き返してきた道の奥に目を向ける。

 

 一見、そこには何もないように思えるのだが―――。


 

「あっ……」



 思わずといった様子で、ミラが声を上げた。

 

 

 イザベラ達が引き返してきた道から、悠々と異形の魔物が姿を現した。

 その口元にはゴブリンキングの肉片と思われるモノが付着しており、異形の魔物の禍々しさを強調させている。

 

 異形の魔物の容貌に、ミラが一歩後ずさる。

 すると次の瞬間―――異形の魔物の姿が消えた。



「――えっ?」


「ふぅ……大丈夫かしら?」



 異形の魔物の姿が消えたと同時に、ミラはイザベラに抱き抱えられていた。

 何が起こったのか理解できないミラは、異形の魔物の姿を探す。


 そんなミラの心境を悟ってか、イザベラは右方向へ視線を向けた。

 イザベラに釣られてミラも視線を右方向に向ける。

 そこには、脚の辺りを負傷している異形の魔物の姿があった。

 

 異形の魔物の姿を捉えたまま、イザベラはミラを地面に降ろす。

 状況を飲み込めずに呆然としていたミラだったが、自分がイザベラに助けられたということは理解できた。



「……ありがとう」


「私が勝手にやったことだし、恩を感じる必要なんてないわよ。でも恩を感じているんだったら、一つ()()()を聞いてくれない?」



 頼み事と言われたミラは素直に頷く。

 頷いたミラを視界の端で確認したイザベラは、頼み事の内容を告げた。



「逃げなさい」


「…………えっ?」



 イザベラの頼み事を聞いたミラの口から、吃驚の声が漏れた。

 言葉を聞き間違えたのかと確認を取ろうとするミラだったが――。

 


「逃げなさい」



 再度、イザベラの口から同じ言葉が発せられる。

 それは最早頼み事ではなく、()()であった。



「で、でも――」


「風の精霊、ミラを安全な場所まで……」



 ミラの言葉を遮り、イザベラが虚空へ語りかける。

 すると次の瞬間、不意にミラの身体がふわりと浮かび上がった。



「ちょっ、何するのよっ! イザベラっ! イザベラっ!!」


「…………行って」



 イザベラの言葉を皮切りに、宙に浮いたミラは迷宮の入口に向かっていく。


 必死に抵抗を試みるミラ。

 その際、ミラの身体から溢れ出した大量の魔力が服に掛かっていた擬装の魔法の効果を()()()()()()()のだが、既に異形の魔物と交戦状態に入っているイザベラはそのことに気付けなかった。



「イザベラっ! イザベラっ!! イザベ―――――」



 ミラの悲痛な叫び声が迷宮内に木霊する。


 後に残ったのは、異形の魔物と決死の表情のイザベラだけだった。

 

 




 

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